北欧ヴィンテージの魅力、その真髄に触れてみよう。

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    写真:永井泰史 文:小川 彩

    #13北欧ヴィンテージの魅力、その真髄に触れてみよう。

    今年の4月で10周年を迎えたエレファント。オーナーの吉田さんがオープンから扱ってきたエリック・ホグランの品揃えと質は、国内でも群を抜きます。

    テナント建て替えのため一時移転していた北欧のヴィンテージショップ「エレファント」が、この4月にもとあったアドレスに戻ってリニューアルオープンしました。表参道の閑静な住宅街にあるマンション1階の店舗は、通りからエントラスを見通せる一室で、気軽に立ち寄りやすくなったかもしれません。

    1950年代から60年代の北欧でつくられたテーブルウエアやアートピースなどのヴィンテージアイテムを中心に扱うエレファント。なかでもエリック・ホグランの作品が充実していることで知られ、根強いファンに支持されています。「画像だけではなかなか伝わらないホグランの魅力に直に触れてもらいたくて、実店舗をはじめたと言っても過言ではありません」と笑うのは、オーナーの吉田安成さん。北欧ヴィンテージアイテムの魅力について、まずはホグランの作品から見ていきましょう。

    クリスタルの灰皿をさまざまな色や形でつくったホグラン。キートレイやペーパーウエイトとして使っても素敵です。星座シリーズ『射手座』の灰皿 φ7.5cm ¥10,800、女性のモチーフの灰皿 φ9cm ¥9,720

    ホグランがボダ社に在籍していた時代のアートピース(H25.5×W33.5×D11.5cm)。透明なガラスの塊に残る手彫りの跡とライオンの表情が印象に残ります。¥151,200

    シンプル&モダンという北欧デザインのイメージとは裏腹に、エリック・ホグランの作品からは力強くプリミティブな印象を受けます。ストックホルムの国立芸術工芸デザイン大学・コンストファックで彫刻を学び、1953年から73年までガラスメーカーのボダ社でデザイナーとして活躍したホグランを、吉田さんは「かなり変わり者のデザイナーだったようです」と評します。

    学生時代にメキシコのフォークアートに影響を受けたり、貧乏旅行をしている時に宿泊した農家で見た気泡入りガラスのビール瓶にインスパイアされたり……およそモダンデザインとは対極のファクターに強く惹かれたホグランの作品は、手吹きでぽってりと厚みのあるフォルム、動物や人型などプリミティブなアイコンやわざと気泡をたくさん入れた素地など、同時代のデザイナーが手がけたプレーンでシンプルなプロダクトとは一線を画すものばかり。「でもなぜか野暮ったくならない、不思議な魅力があるんです」と吉田さんは言います。

    女性のモチーフを型押ししたバナキュラーな魅力にあふれる手吹きのデキャンタ。ワインやスピリッツだけでなく、これからの季節はハーブウォーターなどを入れても良いでしょう。¥21,600

    スウェーデンの照明器具メーカー、アトリエ リクタンで製造されたペンダントランプ。ガラスから漏れる灯りが美しく、フロアやサイドテーブルに置いても。¥178,200

    鉄とガラスで作られたシャンデリア、キャンドルスタンドやアートピースを始め、人気の人型の文様が押されたデキャンタ、灰皿、トレー、そして花瓶といったテーブルウエアなど、ホグランの作品を幅広く買い付けている吉田さん。2009年からは毎年ホグラン展を開催し、その魅力をより多くの方に伝える機会をつくってきました。異端だったかもしれませんが、ホグランの作品はプリミティブな要素をモダンデザインに取り入れる、そんな新鮮なインスピレーションを現代の私たちの生活にもたらしてくれる存在です。「決してメジャーな存在ではなかったし理解者も多くはなかったけど、それに負けずつくりたいものをつくり続けた力強さが作品から感じられるのです」と吉田さんは言います。

    では次にホグランと同時代にモダンデザインのメインストリームだったアイテムを見ながら、吉田さんが大切にしているヴィンテージの魅力を発見しましょう。

    美しい日用品のためのデザインが行われた時代。

    カイ・フランク、スティグ・リンドベリなどによるテーブルウエア。モノトーンやシックな色合いのものを中心にアートピースとプロダクトが並びます。

    スウェーデンのグスタフスベリで活躍したデザイナー、スティグ・リンドベリによるアートピース「DOMINO」のフラワーベースと灰皿、プロダクト「LOV」の プレート。

    エレファントが扱う北欧ヴィンテージアイテムは、建築、家具や照明器具などで始まったモダンデザインが、日用品にも及んでいった1950年代から60年代のものが中心です。デザイナーがゼロから新しい日用品の形を生み出した時代。その熱量を持ったものの魅力が、エレファントのアイテムに共通する点かもしれません。

    「この時代になって”More beautiful things for everyday use”という北欧デザインの思想がテーブルウエアなどにも行き渡り、デザイナーが登用され、名作や時代のアイコンとなるプロダクトが作られたのです」

    アラビアでデザイナーを務めたフィンランドの巨匠、カイ・フランクも、ティーマのようにいまもなお生産されているシンプルでベーシックなプロダクトをつくりました。彼がフィンランドのガラスメーカー、ヌータヤルヴィにデザインを提供したガラスの花瓶シリーズなどは、微妙な色合いと緊張感のあるフォルムが特徴です。一方で、スウェーデンのグスタフスベリで活躍したデザイナー、スティグ・リンドベリも素晴らしいプロダクトとアートピースを作ったひとり。緻密な幾何学模様をモノトーンで表現したシックな「DOMINO」や、独特のフォルムが魅力の花瓶など、彼の数々の作品からは、男性的な力強さを感じます。

    カイ・フランクによるタンブラー「POLO」。何気ないシンプルで丸みを帯びたフォルムと、清潔感のある佇まいが印象に残ります。H7.2×φ7.7cm¥2,700

    プロダクトやアートピースのフォルムのユニークさや美しさについて伝えたい、という吉田さんの思いが伝わってくるディスプレイ。オブジェとして飾るだけで、凛とした透明感が漂います。

    「北欧」とつくと、北欧雑貨ブームで注目される華やかな草花のモチーフや幾何学模様のパターンなどの装飾をイメージしがちですが、そういった装飾がいきるのもベースとなるフォルムの美しさが北欧ヴィンテージアイテムの素晴らしさだと吉田さんは断言します。だからでしょうか、エレファントのラインアップにはどこか男性的でクールな印象を受けるのです。

    今秋のデザイン・ウィークではフィンランドで現在活躍中のデザイナー、ナタリー・ラーデンマキの個展を、また9月には8回目となるエリック・ホグラン展も予定しているとか。草創期の北欧デザインの流れを汲むヴィンテージアイテム、そしていま新しくデザインされたアイテムが放つスピリットを、インテリアで身近に感じてみませんか? 

    アルテック社のテーブルや新作のウォールシェルフ「カアリ」などの什器に並べられたヴィンテージアイテムは1点物がほとんど。まずは店頭で実際に手にすることをお勧めします。

    ELEPHANT

    東京都渋谷区神宮前4-14-6表参道ハイツ102
    TEL:03-5411-1202
    営業時間:12時~19時
    定休日:火、水
    www.elephant-life.com