なだらかなシェイプが生む、優しく美しい風。

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    青野豊・写真photographs by Yutaka Aono

    なだらかなシェイプが生む、優しく美しい風。

    日本のエアコンとは一線を画すシンプルなデザイン。シルバーとホワイトを展開。室内機価格¥140,400~

    工業デザイナーのアレキサンダー・シュラッグとダイキンヨーロッパ社が共同でデザインし、2014年3月にヨーロッパで発売された住宅用マルチエアコン室内機「UXシリーズ」が、今年10月いよいよ〝逆上陸〞することとなった。1枚の紙、羽根、風にインスピレーションを得て上質な空気の流れをデザインしたというこのUX。驚くほど薄く、壁に向かってゆるやかに曲線を描く様子は、まさに風の流れをイメージさせる。本体のカラーはシルバーとホワイトの2色あるが、壁の色を反射して映し出すシルバーが特に印象的だ。

    〝デザインフラッグシップ〞という言葉もあるヨーロッパと異なり、エアコンにおいて日本ではどうしても省エネ性が優先されてしまうのが現状。「省エネ性のために太ったエアコンを何とかしたかった。インテリアに美しくフィットするものをつくりたいと思っていた」と、ダイキン工業テクノロジー・イノベーションセンター先端デザイングループリーダーの関康一郎氏は語る。それを実現させたUXは、スイッチを入れてからの動きの一つひとつにも細やかな目配りがなされている。稼動時の前面パネルのなめらかな動きはたおやかで、周囲の空気を乱さず、その後に続くおだやかな風の流れを思わせて心地よい。実際に風を送っている時にも、人感センサーが人を検知して人のいないエリアに風向を調節するため、風当たり感のない優しい空調を実現させている。そして運転が終わった際には、曲面を描く2つのパネルがぴたりと合い、「ありがとうございました」とていねいに挨拶をしてくれたかのような所作の美しさを感じさせる。 

    今回、マルチエアコンならではの手法として、エアコンと温水式床暖房を同室に設置するという提案も新しい。2つを連動運転させることが可能なため、速暖性と輻射熱による快適性が両立できるのだ。なんでも1台でまかなおうとする〝太った〞考え方から離れ、機能を分解して見直し、必要に応じて使い分けたり、併せて使ったりというやり方が、これからの潮流になるかもしれない。マルチエアコンにした理由は、室外機にもあるという。通常のルームエアコンの場合、部屋ごとに設置されたエアコンのそれぞれに1台の室外機が必要となり、軒下に室外機が林立している様子が見られる。マルチエアコンなら、1台の室外機にUXのような壁掛型エアコンや床暖房など複数の室内機を最大5台まで組み合わせて設置できるため、エクステリアをすっきりと見せられるという利点があるのだ。とはいえ、この室外機そのもののデザインはスタイリッシュとは言いがたく、無粋だ。次なるチャレンジはこの室外機の洗練にありそうだ。

    どこから見ても美しいデザインを心がけたというように、2階から目に入る上部もシンプルに仕上げられている。

    神原サリー
    新聞社勤務を経て「家電コンシェルジュ」として独立し、豊富な知識と積極的な取材をもとに、独自の視点で情報を発信。2015年2月、表参道に「家電アトリエ」を開設。テレビ出演や執筆、コンサルティングなど幅広く活躍中。
    ※Pen本誌より転載