サルーンで行く東京の夜。ベントレー 新型フライングスパーは、新世界と旧世界を明確にするかのようなインパクト

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第108回 BENTLEY FLYING SPUR / ベントレー フライングスパー

    サルーンで行く東京の夜。ベントレー 新型フライングスパーは、新世界と旧世界を明確にするかのようなインパクト

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    ベントレーでは3世代目となる新型フライングスパー。

    心待ちにしていたベントレーの4ドアサルーン、新型フライングスパーのステアリングを握った。もともとフライングスパーはベントレーの中核を担う4ドアセダンという位置づけだったんだけど、旗艦モデルのミュルザンヌの製造終了を受けてサルーンに格上げされた。実際ホイールベースは130mm延長され、もはや先代モデルとの比較を無意味に感じさせてしまうほどのグレードアップがなされている。

    先行してモデルチェンジが行われたコンチネンタル GTの大幅な進化を考えれば、同じエンジンと出力でデザイン言語を共有する新型フライングスパーの進化の予想はついていた。とはいうもののサルーンの装いに恥じないベントレーらしさとなれば、要求される大きなタスクがひとつ増えてくるわけ。その進化を体験した後で感想を述べるなら、先代のW12モデルとほぼ同じ価格帯を維持している事実は驚きと言うほかない。先代との違いを英国王室でたとえれば、控えめなエレガントさが魅力だった元ウェールズ公妃であるダイアナ妃から、人気メゾンのオートクチュールを完璧に着こなすサセックス公爵夫人、メーガン妃に世代交代したぐらいのインパクトがある(笑)。隔世の感の見本みたいなものだよね。

    ドアパネルインサートに配された3Dテクスチャーのダイヤモンドレザーなど、さりげなくも気鋭の試みに裏打ちされた革新への強い意志。そして圧倒的な走行性能や安全性の向上とくれば、先代との時間的なギャップは20年以上もありそうに思える。さらにベントレーが信条とするアンダーステートメント(控えめさ)はオーナーの手にゆだねられ、謎めいた印象を残しつつも、全体としては主張が強くなったことを感じる。ちょうど新型コロナウイルスによる各都市のロックダウンが噂され始めていた頃だったから、なおさらこのダイナミックな変革が印象深く映ったんだ。もちろん新型フライングスパーは、この危機的な状況が世界中に蔓延する前のプロダクトだけど、受け取るほうにはもう意味の変容が始まっているからね。

    LEDランプを備えたボンネットのフライングBとともに、夜の首都高へ繰り出す。刷新されたインテリアは煌めいていて、車間距離やレーンキープを逐一注意喚起してくる新型フライングスパーは、このままステアリングを離して運転を任せてしまえば、自動運転で確実に目的地に運んでくれるような安心感がある。それでもステアリングを握った瞬間から、「走りたい」という強い意志を感じさせるサルーンでもあるんだな。

    革新的な進化を遂げた、英国発のスーパーサルーン

    ドライブモードをスポーツにしてアクセルを踏み込めば、軽々とすべてを置き去りにして非日常に連れて行ってくれるスーパーサルーンの愉楽。W12エンジンからあふれ出る圧倒的なトルクを新設計のアクティブ4WDシステムが支え、カーブでも信じられないくらいにロールを抑えて、走り出しのスムーズなトルクのつなぎや路面のギャップのあしらい方も見事。高い速度域でも、大いなる手に包まれているかのように安定感は極まりない。車重感もステアリングとアクセルに伝わってくる程度には残してあり、プロダクトとしての確かな存在感をドライバーに感じさせてくれる。それと同時に「後部座席の人たちは、心ゆくまで外の景色を楽しんでくれているだろうか」と、クルマがドライバーに問いかけてくるようにも思える。ステアリングの重みには、後部座席の存在の重みも確実に含まれているんだな。

    このサルーン独特の感受性は、むろんミュルザンヌから受け継がれたもの。6.75LのLシリーズエンジンのそれは、まるで木製の弦楽器に囲まれた大海原を進むヨットだった。生まれながらのクラシックであり、新型フライングスパーの強い変革の意志とは方向が違っている。まぁ、最上位クラスをフライングスパーに担わせるのも、一時的なものではあるらしいのね。SUVであるベンテイガのアップグレード版を登場させる、もしくは電動化したミュルザンヌを復活させるなど噂は絶えないけれど、ミュルザンヌのオーナーにとっては、長年親しんできた別荘を建て替えるような寂しさは拭えないだろうなと想像するんだ。

    ことにこの新型コロナウイルス禍を体験している目に、その対比は鮮やかすぎる。変わるだろうなと思っていたことが、当たり前に変わっていくことに強い惜別の気持ちが伴う。製造が止まっていたことで、まだしばらくは新車のミュルザンヌに乗れる猶予は与えられているらしいんだけど(笑)。それはそれとしてね。

    私が愛するサルーン、私が愛するベントレー。なにを軸にするのでもいいんだけど、新型フライングスパーの登場は、現在において新世界と旧世界を明確にするような強いインパクトがある。新型ミュルザンヌがもしあるなら、そんな新世界と旧世界の間に位置する新しいフラッグシップになるのは間違いなさそうだね。

    • ボンネットにはLEDが点灯するオーナメントを装備。

    • 新世代ベントレーのモダニズムを凝縮したインテリア。

    • ホイールベースが延長されたものの、後輪操舵を導入することでハンドリングのよさを確保した。

    • マッサージ機能も付いた後部座席は完全にサルーンの装い。

    • 英国旗を想起させる限定モデル「ファーストエディション」のバッジ。

    • 世界最速のサルーンとなる時速333kmを実現。

    ベントレー フライングスパー
    ●サイズ(全長×全幅×全高):5325×1990×1490mm
    ●エンジン形式:W型12気筒DOHCツインターボ
    ●排気量:5950cc
    ●最高出力:635PS
    ●駆動方式:4WD(ミッドシップエンジン4輪駆動)
    ●車両価格:¥26,674,000(税込)

    ●問い合わせ先/ベントレーコール
    TEL:0120-97-7797
    www.bentleymotors.jp