「日本はWi-Fi後進国、外国人が困っている」に異議あり!

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    「日本はWi-Fi後進国、外国人が困っている」に異議あり!

    kasto80-iStock.

    日本はフリーWi-Fi後進国だとよく言われるが、これは正しいのか、本当に訪日観光客は困っているのか。今となっては、Wi-Fi整備を進める方針をむしろ見直すべきかもしれない。

    日本は「Wi-Fi後進国」であり、外国人観光客の最大の悩みの種になっているという。グーグルで検索すると、約5580件の関連する記事やブログがヒットするうえ、筆者の周りにも「これで東京五輪?」と日本の後進性を嘆く人が多い。今回、編集部から「なぜ日本はフリーWi-Fi後進国なのか?」というお題を頂いたことも、そうした問題意識が広く共有されていることの表れかもしれない。

    もっとも、本当に外国人観光客はフリーWi-Fiの少なさに困っているのだろうか。

    私は定期的に中国人を中心に外国人観光客の取材を行っているが、数年前までは確かにフリーWi-Fiがなくて不便だという感想が多かった。お土産の相談をするために店頭商品の写真を外国の親戚や友人に送りたい、レストランで撮った料理写真をSNSにアップしたいというニーズが多かったためだ。

    しかし、モバイルインターネットは日進月歩で進化している。数年前と今ではかなり状況が変わっているようだ。日本をたびたび訪問するという中国人女性のSさん(天津市出身、30歳)に話を聞いた。

    「日本はフリーWi-Fi少ないんですか? あんまり気にしたことはないですね。私は日本の旅行者用SIMを自分の携帯に入れて使ってるから。ツアー旅行の人はガイドさんがモバイルWi-Fiを持っていて、参加者はそのWi-Fiを使っているの。中国人は気ままに行動する人が多いから昔は迷子になる人が多かったんだけど、最近はネットがつながらなくなると困るからと、ガイドさんにくっついて行動するようになってはぐれる人が減ったんですって(笑)。ビジネスで日本に来る人は携帯電話のローミングを使っている人も多いみたい。フリーWi-Fiって探すのもつなぐのも面倒くさいから、動画を見たい時ぐらいしか使わないですね。日本人が海外に行ってもそうじゃないですか?」

    「後進国だ!」と嘆く日本側の熱量とは裏腹の、そっけない答えが返ってきた。確かに日本人の海外旅行を考えても、大容量のデータのやりとりがある場合ならばともかく、通常の利用はモバイルWi-Fiやローミングがあれば十分というケースが多いのではないか。

    私の個人的経験としても、海外出張中にフリーWi-Fiを探すのは仕事の資料などデータサイズが大きいファイルを受信する必要がある時ぐらいだ。しかもフリーWi-Fiを見つけたのはいいがスピードが遅すぎて、仕方なく携帯電話でダウンロードすることもしばしばだ。

    日本での批判を見ると、フリーWi-Fi接続に必要な認証が複雑すぎるとの指摘もあるようだが、不特定多数にサービスを提供する場合にはプロバイダ責任制限法に基づく義務を負うため、認証なしでサービスを行うことは難しい。日本以外の先進国でもこうした問題に無頓着な個人経営店ならばともかく、大手飲食チェーンなどではなんらかの認証を行うケースが一般的だ。

    世界の通信事情に詳しいライター、林毅氏は「中国では携帯電話番号かSNS経由での認証が要求されるケースがほとんどで、外国人旅行客は使えない場所ばかりですね。米国も似たようなものですよ」と話す。

    フリーWiFi後進国説の論拠は

    通信環境は多様化し、旅行客はWi-Fiだけに頼っていない

    日本=フリーWi-Fi後進国説の論拠のひとつは、昨年1月に総務省と観光庁が発表した報告『訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査』2015年度版だ。日本各地の空港、港湾で約1万人の訪日外国人観光客にアンケート調査を実施したところ、旅行中に困った点として「無料公衆無線LAN環境」が46.6%の回答を集め1位となった。

    「やはり日本はフリーWi-Fi後進国だった!」と結論づけるのはまだ早い。今年2月に発表された2016年度版では回答率は28.7%にまで低下し、「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」に次ぐ2位となっている。

    日本のフリーWi-Fi環境の整備が進んだことが要因だろうが、新たな技術・サービスの普及も大きそうだ。2016年度版の「通信手段の利用実態」という設問では、無料公衆無線LAN 53.8%、モバイルWi-Fiルーター 33.8%、国際ローミング 26.2%、SIMカード 20.9%という結果になった。この調査結果にはホテルでのフリーWi-Fi利用が含まれていることを考えると、出先での通信手段はすでに多様化していることがうかがえる。

    今後大きく伸びそうなのがトラベラーズSIMだ。日本人の海外旅行者もSIMフリー携帯の普及に伴い旅行先でのトラベラーズSIM購入を検討する人が増えているが、同様に日本国内でも、外国人向けのトラベラーズSIMの販売が充実してきた。滞在期間が長い場合には他の通信手段よりもかなり安価になる点がメリットだ。日本国内で販売されているほか、海外でも販売されている。

    中国の大手ネットショッピングモール「タオバオ」では「日本上網カード」(ネット接続カード)「日本電話カード」の名称で多数の出品がある。安いものでは20〜30元(数百円)という信じられないような価格の製品まで出品されている。

    また、WAmazing株式会社(東京)は今年1月、8日間で500MBまで無料で使える訪日外国人客向けのアプリサービス「WAmazing(わめいじんぐ)」をリリースした。まず出発前にウェブで登録し、成田空港でSIMを受け取るという手続きになっている。データ容量は少ないものの、ついに無料のSIMまで登場したわけだ。

    タオバオでトラベラーズSIMを販売している合同会社エンドレススカイ(横浜)代表社員の増山智明氏は、過当競争が続く中で価格が下落しており、今後さらなる需要拡大が見込まれると話している。

    一方で、トラベラーズSIMにも課題はあるという。旅行前に購入するか、空港で入手できればいいが、日本に入国してしまうとどこで買えるかわからないと困ってしまう外国人が多いのだ。増山氏は「どこで買えるんだと私に問い合わせが来ることもありますよ(笑)。現在は家電量販店などで販売されていますが、コンビニなど販売場所を拡大することが必要になると思います」と言う。

    フリーWi-Fiがないよりもあったほうがいいのは当然だが、技術の進歩に合わせた柔軟な対応が必要だ。せっせと「フリーWi-Fi先進国」を目指して整備を進めていても、気づけば「トラベラーズSIM後進国」になっているようでは意味がない。

    技術革新のスピードに合わせ、旅行者のニーズに応じた「おもてなし」を提供することが求められている。


    文:高口康太(ジャーナリスト・翻訳家)