トランプの「嘘」まとめ第2弾(テロ、世論調査、殺人ほか)

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    トランプの「嘘」まとめ第2弾(テロ、世論調査、殺人ほか)

    トランプ政権発足から3週間。トランプの「嘘」はますます増えており、メディアとの戦いも激化、内外に大きな影響を及ぼしている。

    ドナルド・トランプは嘘をつく。そのこと自体、もはやニュースでもなんでもない。

    しかし、その嘘に関する報道が絶える気配はない。トランプ米政権が発足して3週間が経ち、今後はトランプが何を言ったかよりも、何をしたかを報じていくべきだという声もあるが、今も新しい「嘘」とそれに対する反証が続々と出てきている(もちろん、大統領令や閣僚人事など"何をしたか"も米メディアはきちんと報道している)。

    理由はいくつもある。決してささいな嘘ではないこと、米政権が事実をないがしろにしている点が前代未聞であること、トランプ自身がメディアへの敵対姿勢を貫いておりメディアがそれを受けて立つ形になっていること......。

    就任から最初の数日間だけでも重要な「嘘」はいくつもあったが、ここで改めて最近の「嘘」を整理しておきたい。

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    (1)メディアは故意にテロを報じていない!

    トランプがフロリダ州の空軍基地で、メディアのテロ報道が十分ではないと批判したのは2月6日。基地での演説でトランプはこう言ったという。「(テロが)あまりに多く、報道すらされていない。多くの場合、不正直極まりないメディアは報道したがらないのだ。何か理由があるのだろう」

    その夜、ホワイトハウスは大統領の主張を裏付けるべく、78のテロ事件のリストを発表した。2014年9月から2016年12月までのリストで、「大半は十分な報道がされなかった」という。

    このリストに多くのメディアは驚愕し、憤慨し、反論している。なぜなら、パリ同時多発テロやフロリダ州のナイトクラブ銃撃事件など、大きく取り上げた国内外の大規模テロが入っていたからだ。それだけでなく、死傷者が少なかったものも含め、リストに載っているテロはきちんと報じてきたと、CNNニューヨーク・タイムズも、長いリストを付けた反論記事を掲載した。

    新聞、雑誌、通信社、TVニュースなどの記事データベース「ネクシス」を調べたCNNによれば、ホワイトハウスのリストに載っているテロのうち、ネクシスで1件もヒットしなかった事件は3つだけ。死傷者が出なかった事件だ。

    ニューヨーク・タイムズはもう1つの問題点を挙げる。イスラム教徒を標的にしたテロが除外されているということだ。例えば、2015年にレバノンのベイルートで起きた2件の自爆テロや、ナイジェリアのイスラム過激派ボコ・ハラムの殺戮行為がリストに載っていない。

    また、本誌シニアライターのカート・アイケンワルドは、テロではない殺人事件がリストに含まれている点を問題視する。「ホワイトハウスはアラブ風の名前と関連のある暴力事件を検索し、テロだとすぐに決めつけたようだ」

    結局、嘘まみれのリストだったということだ。ちなみに、単純ミスも多く、アイケンワルドは「恥ずかしいほどにスペルミスと嘘ばかりで、まるで高校1年生が期限ギリギリに提出した宿題のよう」と形容している。

    テロ対策として打ち出した中東・アフリカ7カ国からの入国禁止令が批判に晒されるなか、メディアがテロの脅威を過小評価していると訴え、イスラム教徒は危険だと国民に刷りこむ意図があったようだ。


    架空の虐殺事件を持ち出す

    (1のおまけ)ボーリンググリーンの虐殺を無視した!

    テロがらみの「嘘」といえば、こちらも驚きだった。大統領顧問のケリーアン・コンウェイが2月2日、入国禁止令を擁護するために、誰も聞いたことのないテロ事件を持ち出したのだ。

    MSNBCのインタビューでコンウェイは、2人のイラク人難民が起こした「ボーリンググリーンの虐殺」をきっかけにオバマ前政権が難民受け入れを6カ月間中断したのに、メディアはそれを報じなかったと説明した。

    しかし、これが架空の事件であることはすぐにバレた。スレートによれば、彼女が言及したのは、ケンタッキー州ボーリンググリーンで2人のイラク人難民がイラクのテロ組織に資金と武器を送ろうとして逮捕された事件。彼らがアメリカ国内でテロを起こしたわけではない。

    コンウェイはその後、「言い間違いだった」と弁明したが、一度の言い間違いではなく、以前にもメディアで「ボーリンググリーンの虐殺」と発言していたことが指摘されている。

    (2)否定的な世論調査はフェイクニュースだ!

    2月6日、トランプはこうツイートした。

    「否定的な世論調査はすべてフェイクニュースだ。選挙期間中のCNN、ABC、NBCの世論調査と同じ。悪いが、国民は国境警備ときわめて厳しい入国審査を求めている」

    入国禁止の大統領令に否定的な世論調査が出たことに対する反応だった。調査会社ギャラップによれば、55%が反対、42%が賛成(2日発表)。CNN/ORCの世論調査では、53%が反対、47%が賛成と答えている(3日発表)。

    その一方、1月31日にロイターが発表した世論調査では、41%が反対、49%が賛成と、賛成が上回った。Morning Consult/Politicoの世論調査でも同様で、38%が反対、55%が賛成だ(2月2~4日実施、8日発表)。

    世論調査は実施機関や手法によって結果に差が出るのが常であり、今回のように世論が二分している問題であればなおさらだ。問題は、トランプが「否定的な世論調査はすべてフェイク」と断定していること。これはもちろん、事実ではない乱暴な言いがかりである。

    とはいえ、トランプの大統領選勝利を予想した世論調査はほとんどなく、世論調査への信頼度が低下している現状で、乱暴な嘘とはいえ、この訴えはトランプ支持者の胸に響いただろう。

    (3)殺人発生率が過去45年で最も高い!

    メディアを敵視した「嘘」は他にもある。2月7日にトランプは、ホワイトハウスで開かれた保安官たちとの会合でこんな話を披露した。

    「演説でこの話をすると誰もが驚くのだが、それはメディアがその通りに伝えてこなかったから。殺人発生率がここ45年か47年の間で最も高いと言うのは、彼らにとって都合がよくないのだろう」

    しかし、FBIの統計によれば、現在の犯罪率はむしろ歴史上最も低い水準だと、CBSニュースなどが反証している。最新の2015年の殺人発生率は10万人あたり推定4.9人で、例えば1980年の10.2人と比べても格段に低いという。


    メイ英首相の前で不必要な嘘

    トランプの主張は明らかな「嘘」なのだが、彼は選挙戦の最中にも何度も持ち出していた。「アメリカの惨状」を際立たせるための誇張だと思われるが、これはあまりにも......。

    ちなみにCNNのジェイク・タッパーは、トランプのこの発言を擁護した大統領顧問のコンウェイにこう言い聞かせた。「ケリーアン、メディアが伝えないのは嘘だから、真実ではないからだ」

    (番外編)ブレグジットの前日、スコットランドで予言した!

    トランプの「嘘」には意図がはっきりしないものもある。例えば、テリーザ・メイ英首相が訪米した際の共同記者会見で得意げに語った「奇妙で、必要のない嘘」(ネットメディア「クォーツ」の見出しより)

    トランプ曰く、ブレグジット(英EU離脱)の国民投票の前日、スコットランドに自分が所有するリゾート施設にいて、そこでメディアにこう語ったのだという。「私は言った、ブレグジットが起こるだろうと。言いかい、これは投票前日のことだ。私の予測は冷笑されたがね」

    実際には、トランプはその時アメリカにいる。彼自身の当時のツイートでも明らかなように、リゾート施設の式典で現地を訪れたのは国民投票の翌朝だったという。

    ちなみに、スコットランド到着時、出迎えた人々に「おめでとう」と言ったトランプだが、スコットランドは離脱反対が多数だった地域だ。

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    19世紀の英首相ベンジャミン・ディズレーリがこんな言葉を残している。「世の中には3つの嘘がある。嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ」

    これは統計がいかに当てにならないか、都合よく使われるものかを言い表した表現だったが、私たちは今、「嘘」と「真っ赤な嘘」が都合よく使われる時代に突入しているのかもしれない。(ニューズウィーク日本版ウェブ編集部)