「レッドブル・エアレース千葉2016」の開催せまる! 期待の室屋義秀選手に注目ポイントを聞きました。

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    本拠地「ふくしまスカイパーク」でインタビューに答えてくれた室屋義秀選手。スイス高級時計ブランドの「ブライトリング」からは、年間を通してのサポートが提供されている。

    昨年、日本で初開催され大いに話題となった「レッドブル・エアレース」。今年もその開催が間近に迫ってきました! 6月4日(土)、5日(日)の開催まで5日を切ったいま、気になるのはやはり、我らが室屋義秀選手の動向です。2015年シーズンは2度の表彰台を果たし、総合成績で6位をマークした室屋選手ですが、今年は開幕からの2戦をなんと連続失格で終え、まさに“結果が出ない"苦しい戦いを続けているのです。

    いったいなぜ、そんな事態になってしまったのか? 日本戦までに調子は上がってくるのか?? そんな心配を胸に抱きながら、4月末、室屋選手が拠点とするふくしまスカイパークへと向かいました。今シーズンのこれまでの戦いぶりや、来るレースでの見どころを語ってくれたインタビューを、たっぷりと紹介しましょう。


    昨年からの好成績の理由とは?

    —— 昨年の千葉大会は結果こそ残念でしたが、全選手中のベストタイムをマーク、シーズンを通して表彰台に何度も上がり、客観的に見て成績が上がっています。千葉大会から機体を変えたそうですが、それが大きいのでしょうか? 

    室屋 心技体と言いますが、それが揃わなければ勝てません。モータースポーツなので『体』は機体と身体が半分ずつ。やはり機体が大きな要素を占めています。それが悪くても上位、トップシックスに入っていけるかもしれませんが、優勝しようと思えばやはり、いい機体が必要。なんとかしたいという思いがずっとありました。

    —— エンジンとプロペラは、どのチームも規定で同じものを使用していますよね。機体のどういったところが異なるのですか?

    室屋 機体の基本的な骨格はいじれませんが、空力的なパーツを洗練していったり、エンジンのちょっとしたセッティングを調整したりします。1%でも前に出れば勝てますから、2~3%も前に出られれば、トップも余裕です(笑)。

    —— 新しい機体となって、そうした細かな積み重ねが大きく変わったということですか?

    室屋 そうですね。まあでも、周りもどんどん速くなっているので、イタチごっこといいますか(苦笑)。

    「オーバーG」をめぐる、ミリ単位のせめぎ合い。

    —— しかし一方で、今年は2戦を終えていずれも(オーバーGによる)失格と、非常に苦労されています。去年の千葉大会でもそうでしたが、やはり「G」というのが室屋さんの戦いのポイントになっていると感じます。我々が普段感じることのできない、この「G」というものを、室屋さんはレース中どのように調整しているのでしょうか?

    室屋 (レース中は)10Gの制限内で飛んでいて、実際に10Gに達する時間は0.4秒くらいなのですが、0.2秒を過ぎたらGはもう止められないんです。機体が動いているので、その時点でなにかしても止まらない。最初のコーナーに緩く入れば、当然オーバーGもしないのですが、タイムロスしてしまう。0.1、0.2秒が勝敗にかかってくる。そこをいかにピタリと合わせるか……。でもその違いって、(指先でわずかな隙間をつくり)これくらいしかないんです。操縦桿を7.5mm引くところを、8mm引いてしまったらオーバーG。それが10Gのスピードで、(機体を)左右に動かしているなかでくるので……。

    —— 想像できないシビアな世界ですね。

    室屋 本当に反復練習が必要です。千葉戦のオーバーGがあったので、それに対して十分なトレーニングを行っているんですけど、今年のアブダビでの開幕戦で、Gを計測するユニットが壊れてしまった。スペアを持ってきたらそのギアがおかしくなり、必ずオーバーGするようになって試合にならなかった。それでも数値は間違っていないと主催者側もいうので、適応するようにプログラムをつくってきたら、それが本当は壊れていた(苦笑)。プログラムを戻してもっとGをかけられるようになったので、(2戦目の)レースで思いっきりいったら、今度は本当にオーバーGしてしまった。いろんなことがありましたけど、ただユニットに翻弄されているだけ。そんなに心配していないんですけど、本当に2戦、なんか無駄にしているんですよ(苦笑)。

    インタビューに応える室屋義秀選手。「レッドブル・エアレース」には2009 年から参戦、2014年に初の表彰台をゲット。2015年は年間総合6位を記録した。

    期待が高まる日本戦、その準備は?

    ブライトリングカラーに彩られた愛機「EXTRA300L」で曲技飛行を行う室屋氏。「レッドブル・エアレース」以外にも、地元福島を拠点にエアショーを積極的に行うなど、多彩な活動を行っている。レースでは専用機体EDGE540 V3で大空を舞う。

    —— いよいよホームの千葉戦に向け、そのあたりの調整はいかがですか?

    室屋 対策はしてあります。装置を適合させるだけですから。千葉戦はそんなに心配していません。でも、機体が速くなっているので、その分Gもかかるようになり、反応するのが難しくなっています。

    —— 求められる技術が、いままでとは次元が違っている。

    室屋 そうですね。検知システムのアラームを0.2秒前に変更したり、いろんなことをしてバックアップしています。千葉戦が大丈夫という手応えは、そういうバックグラウンドがあるからなんですけど。

    —— そういう細かい部分は、見ている我々には伝わってこないですよね。

    室屋 そうですね。緻密なところがありますよ。


    室屋選手が教える、レースの見どころ。

    —— 日本では昨年に続く2度目の開催で、観客の目が肥えはじめています。実際にレースに参加する室屋さんから、「ここが見どころ」というのを教えていただけますか。

    室屋 去年は、飛行機を見て『ワー、スゲー』という感じだったと。それでいいと思うんですけど、スポーツ観戦の面白みって、ルールがわかってきて、競技者のことを多少知って、注目の対決がわかるようになってから。エアレースはタイム差がきわめて少ないので、そこがどう調整されているかがわかれば面白いでしょう。予選までにトレーニングセッションが3回くらいあるんですが、そのタイムが公表されるので、トレーニングから見ていけば誰が調子いいかがわかります。順位とタイムだけですが、そこにペナルティが加えられていたりするので、それを差し引いていけば誰が速いかわかってくる。速いけど、わざとパイロンヒットしている人もたまにいますが(笑)。

    —— それはどういうことですか?

    室屋 あくまでトレーニングなので、順位が上にいかないようにわざとパイロンに当てるんです。いっぱいの角度でターンに入って、パイロンに当ててしまってもいいや、と。いろいろな駆け引きがあるので、あまりタイムを鵜呑みにはできないですけど、速いチームはやはり上にあがってくる。そういうところから見ていくと、予選の前に誰がどんな状態なのか、金曜日にはすでに出ている。僕らもテストがありますが、トレーニング・ワンから完全に全開モード(笑)。 そうしたところを見ていくと面白いでしょう。

    —— 遠くから見ていると正直、選手の「差」がわかりづらいのですが、コースで選手の特徴が出やすいのはどこですか?

    室屋 千葉戦だと、上昇して宙返りをするようなバーチカルターンが2カ所あるんですけど、まっすぐ上がっていく人とか、45度くらい斜めにいく人とかがいる。タイムが出るラインはひとつなので、結果的に同じようになっていくんですが、それでも違ってくる。それからフラット、水平に回るターンって、ルーキーだと目いっぱいのGをかけて回れない。怖くて(水面から)少し高度を上げるので、そこに技量差が出る。すこーしですけどね。失速ギリギリ、それ以上Gをかけるとコロンといくギリギリで飛んでいますから。

    —— 「コロンとなる」というのは?

    室屋 クルマでいえば横転です。翼から空気が剥がれて失速してしまう。目いっぱいのところで飛んで、ギリッギリのところで旋回していますから。大きな旋回の仕方で、技量の差が出るんです。観戦時にはセクションごとにタイムが出るので、こうした上がり下がりのターンのところでそのタイムを参考にレースを見る。注目ターンの後のゲートとかを参考にして、このひとは22秒、この人は23秒、とか。

    リラックスした様子で語る室屋氏。左腕に巻かれた「ブライトリング」の腕時計が誇らしげだ。

    「空軍あがり」のパイロットになぜ勝てるのか?

    取材を行った週末は、ふくしまスカイパークでエアロバティックスを披露。

    —— ところでレースパイロットのプロフィールを見ると、空軍だったり、航空会社パイロットだったり、そういう出身の方が多い。室屋さんはむしろ、自分の力でここまでたどり着いていますが、そういう「経緯」が違う人たちと同じ舞台で戦うのは、どういうお気持ちなのでしょうか。

    室屋 彼らはもう、訓練の量が違う。施設も違えば、訓練プログラムも本当によくできている。コンバットの訓練と施設を使って、そりゃあんたら強いだろう、と(苦笑) でもスポーツをやっているわけですから、戦闘機に乗る時とは少し違う。戦闘機に乗るなら勝ち目はないですけど、エアレースって、世界転戦になればマネジメントをしなければいけない領域も多い。軍隊のパイロットなら、やることは操縦だけでいい。あとは全部、周りがやってくれますから。そして彼らは、そういうマネジメントが意外と弱かったりする。僕は1から10まで全部自分でやってきたので、大体のことを知っている。薄く、広く(笑) そういう意味では、結構強いかもしれない。

    —— コンディションが悪くなり、タフなシチュエーションになると室屋さんは強い。

    室屋 意外とそうですね。混沌とすればするほど、いいかなと思います。ま、みんな強いですけどね(笑)。

    —— そうしたパイロットが居並ぶなかで、成績を出しているのはすごいですね。

    室屋 そこに向かって、準備をしてきているわけですから。日本での開催が実現しましたが、それがあれば新しい機体が導入できるだろうと、スポンサーの方々も含めて望みをもってきた。そういう全体の力ですね。僕はパイロットとして一席にいるだけですが、その周りには何百人、何千人という人がいます。僕は、そのうちのひとりでしかない。他の人は表に出てこないけれど、それがないとトレーニングもできないし、バックグラウンドも整わない。その全体の力が大きくなり、整ってきたので、日本戦は本当に戦える。そんな感じにはなってきたと思います。

    —— やはり多くの方の力があってこそ、なのですね。今日はどうもありがとうございます。千葉戦を、楽しみにしています! 

    室屋 はい。オーバーGしないように(笑)。


    …いかがでしょうか。終始リラックスした雰囲気で、ざっくばらんに、そして非常にためになるお話をいただけました。

    室屋さんは、現役のトップエアレース・パイロットであると同時に、自らの力で道を切りひらいたパイオニアでもあります。さまざまなサポートを力に変えながら、競技に臨む環境を一つひとつ築きあげ、トップアスリートの地位にたどり着いたことは、改めて特筆に値します。昨年の千葉戦へのリベンジの想いも込め、今年はいっそう期待が募りますが、地元日本で戦いを見守ることができる幸せと興奮を味わいながら、週末のレースを楽しみに待ちましょう!(取材:Pen編集部 写真:江藤義典)

    青空を背景に飛ぶ室屋氏。千葉大会では念願の初優勝に期待しましょう!

    RED BULL AIR RACE CHIBA 2016/レッドブル・エアレース千葉2016

    開催日:[予選] 6月4日(土) [決勝] 6月5日(日)
    ※雨天決行、荒天中止  ※下記時間は天候などにより変更になる可能性があります。
    スケジュール:開場10:00(予定)・競技開始13:00(予定)・競技終了16:00(予定)
    会場:千葉県立幕張海浜公園
    主催:レッドブル・エアレース・ジャパン実行委員会
    特別後援:千葉市、浦安市
    後援:オーストリア大使館、千葉県、朝日新聞、TOKYO FM、Inter FM、bayfm、レッドブル・エアレース千葉後援会
    http://rbar.jp/