―サイドスロープが出合う、クリエイションの精神05―
脇坂 作り手との対談連載、第5回のお相手は家具工房「コマ」の職人の松岡茂樹さんと武内舞子さん。おふたりは師弟関係にあるんですね。
武内 そうです。私が20歳の時にアルバイトとして入ってから4年間、職人として働いています。
松岡 初めは雑用係だったんですが、人手が足りない時に仕上げをやらせたら、思いのほか筋がよかったんです。
脇坂 そもそも松岡さんは、なぜ家具職人になったんですか?
松岡 なんでもいいから一番になりたかったんです。最初は建築関係を目指そうと思ったのですが、クライアントと自分の距離が遠くて。家具の世界なら、工房があれば相手が望むものを自分で最初からつくれるし、一番になるための道筋が見えたんです。
脇坂 修業は厳しかったでしょうね〜。
松岡 厳しいなんてもんじゃないですよ。職人同士の蹴落とし合いでした。上に行くには、上にいる職人を実力で超えるしかないですから。誰もなにも教えてくれないので、自分で技を盗んで必死に練習していました。
脇坂 僕も誰にも教えてもらえなかったので、先輩の書き損じのデザイン画をゴミ箱から拾って下絵にしたりしていました。デザイナーとして就職したのにパタンナーの担当になったり。
松岡 でも、別の仕事の経験があとで役に立つこともありませんか?
脇坂 確かに、「サイドスロープ」ではパタンナーの発想を応用して修正したり、布帛の発想からのニットも多くつくっています。そういった角度からデザインができるのは、若手の頃の経験のおかげですね。でも、人から教えられた経験がない自分が、人に教えるのって難しいと思いませんか?
松岡 難しいですね。いままで何人もの若手が去っていきました。
脇坂 でも、武内さんは辞めなかった。
武内 ……根性ですかね。
松岡 俺が伝えたいことを理屈でなく感覚で理解してくれるんですよ。
脇坂 素晴らしい! 僕はスタッフを結構怒るのですが、松岡さんは?
松岡 怒りますよ。仕事に少しでも甘さが見えると「自分がごまかしたもんを人に売れないだろ」って。
武内 人間性や仕事に対する心構えについて、いちばん怒られます。
松岡 でも、彼女が腕を上げたから「コマ」で初めて定番モデルの椅子をつくることができるようになりました。さらに成長してもらって、早くお互いを刺激し合える関係になりたいです。
脇坂 人とモノをつくるのは、仕上がりが想像を超える喜びがありますから。今後が楽しみですね。
サイドスロープ SIDE SLOPE
●2005年に誕生した、ファストファッションでもコレクションブランドでもないニットファクトリーブランド。脇坂大樹がデザイナーを務め、「遊び心のある大人を満たすニット」をテーマに商品を展開。洋服の価値に対する合理的な値付けや、資源の再利用も視野に入れ、国内のみならず海外への発信を強めている。
脇坂大樹 サイドスロープ デザイナー
●1972年、大阪府生まれ。企業のパタンナーやデザイナーを務めたのち、ニットデザイナーとして数々のブランドの企画に携わる。2005年に「サイドスロープ」を立ち上げ、工場の技術力や素材の特徴を熟知したテクニックを活かし、新たな発想をもってモノづくりに挑戦している。
松岡茂樹 「コマ」代表・家具職人
●1977年、東京都生まれ。家具メーカーで経験を積んだのち、2003年に工房「コマ」を設立。荻窪に直営店をもつ。http://koma-shop.jp
武内舞子 「コマ」家具職人
●1993年、東京都生まれ。祖父も父も大工で、幼少期は実家の工場が遊び場。2013年に「コマ」に入社、職人として働く。
問い合わせ先/フォワード・アパレル・カンパニー
TEL:03-5423-6451 www.sideslope.jp