Type Project vol. 3
書体のカスタマイズから生まれる可能性。

Type Project vol. 3<br>書体のカスタマイズから生まれる可能性。
タイププロジェクト代表・鈴木功さんのクリエイター対談もいよいよ最終回。DELTRO代表の坂本政則さんと、書体デザインの可能性について盛り上がりました。

写真:平岩 享 文: 土田貴宏

優れた書体をデザインする企業として多くのデザイナーから支持されているタイププロジェクト。創業者の鈴木功さんは、単に美しい書体をつくり出すだけでなく、いかに適切に書体を機能させるかについても考えています。すでに広い場面で使われているタイププロジェクトの書体に「AXIS Font」と「TP明朝」がありますが、今後はその発展形も広く流通していきそうです。今回は、世界的に話題を呼ぶウェブサイトやデジタルコンテンツのつくり手で、自らも書体をデザインするDELTROの坂本政則さんとともに、フレキシブルな書体の可能性を語ります。
坂本 僕は法則性から生まれる美しさや、ディテールの複合体として密結合しているモノが好きで、プロジェクトのために書体をデザインすることが多いんです。2011年に発表したインテルの「ザ・ミュージアム・オブ・ミー」は、フェイスブックとつないで自分だけのバーチャルな美術館ができるウェブサイトですが、ほとんどの文字を自分でデザインしました。書体にこだわるのは、人間が無意識のレベルで瞬時に感じ取る“印象”に、高い伝達力と精度でリーチしたいからです。
鈴木 坂本さんのデザインでは、書体にこだわっていることがよくわかります。デザインは、いろいろなものを組み上げて、あるキャラクターをつくり上げていく作業だと思います。その中で書体は、それ以上は分割できないもの。だからこそ重要に考えている、そんな印象を受けますね。
坂本 しかし日本語書体の開発にまでは至っていません。鈴木さんがデザインしたAXIS FontやTP明朝は、スマートで抜けがよく、そもそもの字面の形状バランスがミクロ・マクロで見て非常に美しいんです。デザインに日本語を使う場合、ほとんどが欧文と和文の混植ですが、混植する場合にも書体のもつ透明感により欧文との親和性が高いです。

欧文に合う和文書体は、デザインの発想を変える。

坂本 たとえば企業のアイデンティティ・デザインでは、よく欧文と和文が混在しますよね。するとただ並べただけでは欧文がガクンと下がって見えたり、リズムがおかしかったりする。AXIS FontやTP明朝には、そんなストレスがありません。
鈴木 私たちが書体をデザインする時は、あえて「和文だから」「欧文だから」という区別をしません。それらを同じものとして扱って最良の状態を目指すのが、前提であり理想なんです。現在は、日本語の文章の中にアルファベットがあるのは当然だからです。
坂本 さらに混植の課題としては、クライアントがグローバル企業の場合に多いんですが、使用する欧文書体がレギュレーションとして決まっていることがあります。それに対して選定する日本語のフォルムとウエイトでとても悩みます。欧文書体の縦線と横線の太さのコントラストに合わせ、日本語の書体を細かく修正することもあります。
鈴木 そんな課題に対して、いままで書体メーカーは限られた種類の太さのウエイトを提供するだけで、そこから選んでもらうというのが通例でした。日本語は欧文に比べて文字の種類が膨大で、すべての文字をつくり直すには大変な時間とコストを要するからです。私たちが始める「フィットフォント」は、ある欧文に最適なTP明朝を、ウェブサイト上のスライドバーで自分で調整できるサービスです。坂本さんのような、書体に精緻で完成度の高いものを求めるデザイナーの方の望みにも応えられると思います。
坂本 実際に試してみましたが、欧文が本来もっている特徴を踏まえ、和文との親和性を見極めて書体を選べるのは、いまだかつてない体験です。その書体を使ってレイアウトされたものは、あまりにも自然で一見普通に見えますが、実は数々のプロセスの集合体。まさに“スーパーノーマル”です。
鈴木 坂本さんがオリジナルの欧文書体をつくる時も、それに合う日本語書体が手に入ると、プロジェクトに求められる個性やアイデンティティがより的確に妥協なく表現できるはずです。大げさに聞こえるかもしれませんが、これはデザイナーが主体性を獲得するツールになると思っています。
坂本 コーポレートフォントのあり方も変わるかもしれませんね。企業にとって、自分たちの理念や社風が唯一無二の文字で表現されるのなら、意識が変わっていくはずです。企業が社会に対してどういう声で話しかけるかが、微細に調整できるわけですから。その他にもデザインがどう変わっていくか、ちょっと想像できません(笑)。
鈴木 想像できないほうが面白い(笑)。こうして欧文に合う和文書体ができるなら、自分も欧文書体をデザインしようという人も増えるでしょう。それに対して私たちのような書体デザイナーも、さらに新しい書体を考えていく。欧文と和文のハーモニーが生まれ、いろんな音があふれるとしたら、すごく素敵だと思います。
鈴木 功 Isao Suzuki
タイププロジェクト代表/タイプディレクター
●1967年、愛知県生まれ。愛知県立芸術大学卒業後、アドビシステムズを経て2001年にタイププロジェクト創立。03年に日本グッドデザイン賞を受けた「AXIS Font」はじめ、先進的な独自の書体を発表し、高い評価を得ている。


坂本 政則 Masanori Sakamoto
DELTRO代表/アートディレクター、デザイナー
●1972年、静岡県生まれ。99年からフリーランスとして活動し、2009年に村山健とDELTROを設立。デジタルメディアのデザインやアートディレクションを手がける。カンヌ国際広告賞、クリオ賞など世界的な賞を多数受賞している。
Type Project vol. 3<br>書体のカスタマイズから生まれる可能性。

「TP明朝フィットフォント」は、TP明朝のコントラスト(横画の太さ)とウエイト(縦画の太さ)をウェブサイト上で自由に調整できる。

●問い合わせ先/タイププロジェクトwww.typeproject.com  sales@typeproject.com