Type Project vol. 2
“書体”が映像の世界で目指すものとは?

Type Project vol. 2<br>“書体”が映像の世界で目指すものとは?
タイププロジェクトの鈴木功さんが書体についてクリエイターとトークを交わす、対談連載の第2回。今回は、WOWの鹿野護氏の登場です。

写真:平岩 享 文: 土田貴宏

膨大な量の文字が、デジタルという新しい環境を行き交う現在。2001年から書体のデザインに取り組む「タイププロジェクト」は、そんな時代を先読みして活動する企業です。その創業者で「AXIS Font」「TP明朝」などの書体をデザインしてきた鈴木功さん。今回は、革新的な映像体験を創造する「WOW」のキーパーソン、鹿野護さんと話が弾みました。
鹿野 WOWはコンピューターを使った映像制作がメインですが、私は特にデジタル機器の操作画面などのユーザーインターフェイスを多く担当しています。そこでの書体の役割は絶大です。まず大切なのは読みやすさ。大きな文字は見やすいけれど、限られたディスプレイの中で文字が大きすぎると逆に読みにくい。大きさより美しさを優先するほうが実は文字が読みやすく、情報が伝わりやすいことがあります。
鈴木 デジタル機器の小型化が進み、小さなディスプレイで文字を読むことが本当に増えました。鹿野さんの指摘は、実感としてよくわかります。
鹿野 現在のインターフェイスは、文字にとっては過酷な世界です。背景色が変わり、動きがあり、奥行きも表現され、立体の建築に近い。私たちは変化する構造を考え、人の動線を考え、文字を置いていくわけです。
鈴木 建物のサインシステムのようですね。私は、そこで使われる文字にはさり気ない美しさが必要だと思います。装飾のないサンセリフ体のAXIS Fontは、当初はデザイン誌のための書体で、ニュートラルで主張しないことを意識して開発しました。そのためか、発売直後から多くのウェブサイトで使われたのです。
鹿野 AXIS Fontは軽やかで浮遊感があり、動かしてみたくなる。余白も美しく、画像の上にレイアウトしても乱雑になりません。WOWが制作したドコモの「One Day」は、ほんの少し未来の日常とモバイル機器の関係を映像化したもので、そこでもAXIS Fontを使っています。

情報を伝える文字には、道具のような美しさがある。

鈴木 「ほんの少し未来」と言えば、私も常に手の届きそうな未来をイメージして書体をデザインします。現在の自分とつながっている未来にふさわしい空気を、文字に反映させていくのです。その書体が「One Day」に馴染むのはうれしいですね。
鹿野 「One Day」には日本語、数字、アルファベットが使われているので、その点でもAXIS Fontが最適でした。欧文フォントは種類がとても豊富ですが、それに合う日本語の書体があるとは限らないからです。
鈴木 ところどころでAXIS Fontの「コンデンス」も使われてますよね。横幅が狭い長体のコンデンスは、同じスペースでも多くの文字が入ります。書体の幅を単純に狭めると、横画が太いまま、縦画が細くなる。そんな不自然な文字を使わなくていいようにデザインしたのが、AXIS Fontのコンデンスと超長体のコンプレスです。こうした他にはないファミリー展開をしたことで、AXIS Fontが受け入れられたのだと思います。
鹿野 ディスプレイを使ったインターフェイスは、自宅や公共の場で今後もさらに増えるでしょう。その書体がバラバラだと読みにくい。しかし同じ思想に基づいているAXIS Fontのファミリーは、状況に応じて使い分けても統一感があります。さらに明朝体のTP明朝が加わり、いっそう幅広い表現が可能になりました。
鈴木 表現の幅が広がるというのはうれしいです。TP明朝ではコントラストという新しい概念を取り入れました。一般的に明朝体は横画が細い書体ですが、TP明朝ではその横画の太さを選べるようにしました。
鹿野 明朝体は、映像ではごく限られたケースでしか使われてきませんでした。横線が細いため、解像度が粗いと線が消えて読めなくなるのが最大の理由です。しかし明朝体には、ゴシック体では伝えきれない感覚がある。たとえば日本の美術や食などの文化には、明朝体の空気感が似合います。TP明朝でコントラストの低い文字を選ぶと、たとえディスプレイの中で文字が立体的に動いても読みやすい。私の作品「20世紀ボヤージ」も、ローコントラストのTP明朝が最適な書体です。
鈴木 私はWOWの映像に質感や手触りを感じますが、それも日本独自の感性と結びついていると思います。日本語の書体が豊かになることで、明朝体を使うハードルが低くなり、ビジュアルの表現が進化するのは喜ばしい。
鹿野 コントラストが選べて横書きに適したTP明朝は、デジタルの基準になりえるでしょうね。こういう書体があると、いままで英語の表示を日本語に置き換えてきたインターフェイスが、日本人が日本の文化と美意識を活かしてデザインする領域になっていく。それはまったく新しいデザインを生むかもしれない。デジタル機器のインターフェイスは、一日を通して生活の中に存在するものになりました。そんな画面に表示される文字は、注意を引く強い文字でなく、暮らしに寄り添う環境的な存在であるべきなんです。
鈴木 美しいというと崇高で近寄りがたいものという印象がありますが、身近にあって美しいものもあります。民藝では「用の美」といって、日常的に使われる道具などに真の美しさが宿ると考える。ユーザーインターフェイスの文字は、まさに機能をもつ「用の美」なのだと思います。


鈴木 功 Isao Suzuki

タイププロジェクト代表/タイプディレクター

●1967年、愛知県生まれ。愛知県立芸術大学卒業後、アドビシステムズを経て2001年にタイププロジェクトを創立。03年に日本グッドデザイン賞を受けた「AXIS Font」をはじめ、先進的な独自の書体を発表し、高い評価を得ている。


鹿野 護 Mamoru Kano

WOW取締役/アートディレクター

●1972年、宮城県生まれ。東北芸術工科大学卒業。97年創業のWOWの主要メンバーとして、メディアアートや広告などの多様な映像作品や、先鋭的なユーザーインターフェイスを制作。東北工業大学クリエイティブデザイン学科准教授。

Type Project vol. 2<br>“書体”が映像の世界で目指すものとは?

右:NTTドコモのビジョン映像「One Day…今よりほんの少し、未来のわたしたち。」は、AXIS Fontを使用(URL: www.youtube.com/watch?v=XNlFruvpuqo)。左:鹿野護さんの「20世紀ボヤージ」は、20世紀の出来事を伝えるTP明朝の文字が、画面の中の3次元空間を移動。書体のかっちりした印象は、こうした情報にも合う。

●問い合わせ先/タイププロジェクト www.typeproject.com  sales@typeproject.com