19世紀末に欧米に進出し、フロイトやダイアナ妃など多くのファンを魅了した画家・吉田博の回顧展が開催!

  • 文:幕田けいた

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『堀切寺』明治40(1907)年頃 油彩/福岡市美術館蔵

映画やアニメ、マンガというエンターティメントのアート・シーンにおいて、日本の作家たちの海外での高い評価は、すっかり定着した感もあります。多くの作品が翻訳され、賞レースにノミネートされるのも珍しいニュースではなくなっています。果たして、日本の作品の何がウケてるの? 今更ながら、不思議に思う方も多いのではないでしょうか。

そんな日本アートの海外進出の道を切り開いた先駆者が、明治、大正、昭和にかけ、風景画家・版画家の第一人者として活躍した吉田博です。その生誕140年を記念した回顧展『吉田博展 山と水の風景』が開催されます。

19世紀末に画家としてデビューを果たし、「絵の鬼」といわれるほどの研鑽を積んだ吉田は、1899年、仲間と渡米し、デトロイト美術館で「日本画家水彩画展」を開催。その後、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどを巡歴し、パリ万博においては高い評価を得ます。20世紀には再び渡米して各地で展覧会を開催、またインドを始め、東南アジアをめぐり、自然への真摯な眼差しと叙情を重視した作風を確立。洋画の描写法と浮世絵版画の伝統技法を融合させた独自の木版画は、早くから欧米で評価されました。「自然を崇拝する側に立ちたい」との姿勢を貫き通した吉田の作風は、洋の東西、時代を超え、国内外で多くのファンを魅了することになったのです。

あの精神医学者フロイトの書斎やダイアナ妃の執務室の壁に、吉田の木版画が飾られていたことや、敗戦直後の1945年には、いち早くダグラス・マッカーサー夫人がアトリエを訪問した逸話も知られています。

本展では画家としてデビューし、水彩、油彩、木版へと手法を深化させていった最初期から、海外での活躍の時代、日本アルプスの山々を描いた山岳画家としての側面、戦後の晩年期までの作品を「6章」に分け、200余点の作品を一堂に展示。吉田の魅力に迫ります。

吉田の作品には、欧米の作家の発想にはなかった、モチーフを抒情的に捉える描写力や、表現の繊細さがあります。現在の日本の映像作品やマンガが人気なのも、まさに、こうした国民性に基づいた独自のコンセプトによるもの。日本近代絵画史に大きな足跡を残した吉田は、現在の日本人作家たちが、世界で成功するための秘密を内包した原点としても、再評価されるべきではないでしょうか。100年も前の吉田の作品から、2017年の日本のエンターティメント・シーンの未来が見えてくるかもしれませんよ。  

《日本アルプス十二題 劔山の朝》大正15(1926)年 木版/個人蔵

《印度と東南アジア タジマハルの庭》昭和6(1931)年 木版/個人蔵

《ケンジントン宮殿の中にある執務室のダイアナ妃》イギリスの王室雑誌『Majesty』1987年より
写真提供:吉田司

生誕140年 吉田博展 山と水の風景

開催期間:7月8日(土)~8月27日(日)
開催場所:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
 新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
開催時間:10時~18時(入館は17時30分まで)
休館日:月(ただし7月17日は開館、翌18日も開館)
入場料:一般¥1,200 

※開催期間中には講演会などのイベントも開催。
※会期中に一部展示替えあり
【前期】7月8日~7月30日【後期】8月1日~8月27日
www.sjnk-museum.org/