歴史的建造物を保存整備し、世界文化遺産をより楽しむ。

  • 写真:相馬ミナ
  • 文:晴山香織 

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2020年10月にグランドオープンした富岡製糸場の国宝「西置繭所」。日本の産業遺産を、ただ保存するだけでなく継承するため生まれ変わったカルチャースポットで、115年の創業の歴史を体感したい。

西置繭所の1階多目的ホール。ガラスのハウスインハウスが圧巻。

2014年ユネスコの世界文化遺産に登録された、群馬県富岡市に位置する富岡製糸場。広大な敷地の最奥に、ひときわ存在感を放つ建物が現れる。そこは、2020年秋に保存整備工事を終えた国宝「西置繭所」だ。

富岡製糸場は、官営の器械製糸工場として1872年に操業する。主要な建物の図面をひいたのはフランス人のエドモン・オーギュス・バスティアン。よって、木の骨組みにレンガで壁を積み上げた西洋の建築方法「木骨煉瓦造」が特徴的だ。生糸の原料である繭を乾燥させたあと、貯蔵していた西置繭所は、2棟ある繭倉庫のひとつ。今回、整備するにあたり、これまでの国宝建造物を保存するというイメージを超えて、積極的で先駆的な活用が考えられた。この歴史的建造物の保存整備にかけられた歳月は、6年にも及ぶ。

入り口の天井は、あえて漆喰が剥がれたまま保存し、ときの移り変わりを体験できる。

1階はドイツの産業遺産などで目にする、ハウスインハウスという手法を用いた。耐震補強の鉄骨を骨組みに壁と天井をガラスにして、もとのスペースのなかにガラスの部屋をつくった。壁や天井がライトアップされているので、歴史ある建造物のつくりをつぶさに観察することができる。操業当時の新聞や週刊誌が貼られた壁を眺めると、まるでタイムスリップしたかのようだ。今後、ホールでは会議やコンサート、ウエディングなどを行う予定。ギャラリーでは、富岡製糸場の歴史を伝える資料を展示している。

2階には、当時の繭の貯蔵のために使われていた間仕切りが残っている。

一方、2階は、操業停止までの115年間、繭を貯蔵する場所だったことから、その時代の様子をダイレクトに体感できる。壁や床、天井などがブリキの鉄板のままの部分も多いのは、保管に適した環境にするため。繭袋を積み上げて操業当時を再現した空間もあれば、今回の保存整備に際して使った模型や工事中に見つかったという、かつての部材なども展示されている。

建物を保存するだけでなく、時代に合わせて活用していく。実際にその空間に身を置くことで、当時の様子はもちろん、いまここにある価値を実感することにもつながっている。歴史的建造物を通じて世界遺産を体験できる富岡製糸場には、何度でも足を運びたくなる魅力と発見があるのだ。

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