週末のシネマ案内:『禁じられた歌声』―かつて美しい歌声が響い街は、恐怖が支配する場所になった。

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    ティンブクトゥ近郊のテントで優しい父母と暮らす少女、トヤ(右)。彼女たちの慎ましい生活も、イスラム過激派の支配の影響を受けていく。

    『禁じられた歌声』の原題である「Timbukutu(ティンブクトゥ、トンブクトゥ)」とは、アフリカのマリ共和国北部にあり、歴史地区が世界遺産に登録されている古都。サハラ交易で栄え、15~16世紀には各地から哲学者や法律家が集まり、自由と多文化が出合う「知の都」だったのだそうです。2012年、イスラム過激派組織がマリ北部へと勢力を伸ばした事実を基に、本作はつくられています(監督のアブデラマン・シサコはマリの隣国、モーリタニア生まれ。幼少期にマリに住み、現在はフランスを拠点にしている人物)。

    敬虔なイスラム教徒で、おしゃべりや音楽やスポーツを楽しみながら暮らしていたティンブクトゥの人々。そこへ突如、武装したイスラム過激派がやってきて、住民にさまざまな制限を課していきます。スポーツや音楽は禁じられ、タバコも集会も禁止。女性は手袋をすることを強いられます。人々の幸せが少しずつ脅かされていく様子、ささやかな抵抗を試みる人々、尊厳を失わずに生をまっとうしようとする人々を、静かに描いていきます。

    台詞は少なく、寓話を映像化しているような、映像でつづる詩のような、そんな雰囲気があります。個人的にそういったタイプの映画は得意ではありませんが、美しい映像が目を離させません(撮影監督は『アデル、ブルーは熱い色』を手がけたソファニ・エル・ファニ)。乾ききった大地、日干し煉瓦でつくられた家並み、鮮やかな色彩の民族衣装や敷物ははっとするほど美しく、街が失いつつある笑顔も街を覆い始めた恐怖も、印象的に捉えています。

    イスラム過激派組織による暴力描写を最小限にとどめていることにも、アブデラマン・シサコ監督の意図を感じます。禁じられているはずのサッカー談義に花を咲かせたり、曖昧な逮捕の基準に困惑したり、裁かれる者に同情したり。普通の人間の側面を描いているため、刹那に繰り出される暴力描写に衝撃を受け、言いようのない虚しさを感じてしまうのです。いまの世界情勢の一端を、真摯に描いた作品です。(Pen編集部)

    住民のなかにはささやかな抵抗を試みる人々も。ボールを取り上げられた少年たちが取った行動とは?

    いままでの生活が突如として送れなくなる恐怖、理不尽さが本作では丁寧に描かれています。2015年のセザール賞7部門を獲得。同年のアカデミー賞外国語賞にノミネート。

    ©2014 Les Films du Worso (c)Dune Vision

    『禁じられた歌声』

    原題/Timbuktu
    監督/アブデラマン・シサコ
    出演/イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、アベル・ジャフリほか
    2014年 フランス・モーリタニア合作映画 1時間37分
    配給/レスペ
    12月26日よりユーロスペースほかにて公開。
    http://kinjirareta-utagoe.com