ホロコースト以前に起こった‟ジェノサイド”をめぐる物語、映画 『THE PROMISE/君への誓い』が静かな感動を呼んでいます。

  • 文:赤坂英人

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主人公の医学生ミカエル役を演じる、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』などでも活躍するオスカー・アイザック(右)と、運命の女性アナを演じるシャルロット・ルボン。©2016 THE PROMISE PRODUCCIONES AIE-SURVIVAL PICTURES,LLC. ALL Right Reserved.

アフリカ中央に位置するルワンダで起きた約100万人におよぶ「ジェノサイド」の状況に直面しながら、多くの避難民を救ったホテルマンを描いた映画『ホテル・ルワンダ』(ドン・チードル主演、2004年)。この映画はアカデミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされ、日本でも上映運動が起きた秀作です。この映画を監督したテリー・ジョージ(1952年北アイルランド・ベルファスト生まれ)が、新たに挑戦した映画『THE PROMISE/君への誓い』(2017年)が、劇場を訪れた観客たちの静かな感動を呼んでいます。

『THE PROMISE/君への誓い』は、第一次世界大戦中の1915年に、オスマン帝国(現トルコ共和国)によって約150万人ものアルメニア人たちが大量虐殺された事件を描いたものです。それはナチスのホロコースト以前に起きていた20世紀初期の最大規模の「ジェノサイド」なのです。しかし、トルコ共和国はこの事件を現在も認めていません。

今回、映画ではこうした歴史的事実と、あるラブ・ストーリーが重層します。3人の人物、医学を勉強するために田舎から首都のコンスタンチノープル(現イスタンブール)にやってくるアルメニア人の青年ミカエル(オスカー・アイザック)、パリ帰りのアルメニア人女性のアナ(シャルロット・ルボン)、彼女のパートナーであるアメリカ人ジャーナリストのクリス・マイヤーズ(クリスチャン・ベイル)が中心的キャラクターとして登場します。他にもミカエルの婚約者マラルを演じるアンジェラ・サラフィアン、アメリカ大使役のジェームズ・クロムウェルをはじめ、演技派の俳優がストーリーを引っ張っていきます。ミカエル、アナ、クリスの関係が深まるなかで、第一次世界大戦が勃発、アルメニア人たちへのいわれのない弾圧と虐殺が始まり、物語は急速に展開し、人々の運命を翻弄します。

ジョージ監督の流れるような撮影と演出は見事です。観客はまるで登場人物たちの目線で現場に立ち会っているかのようです。強制収容所を脱出して故郷に帰ろうとするミカエルが目にするのは、財産を奪われ、家族はばらばらにされ、最終的に闇の中に葬り去られる人々の姿です。もともと正当な理由などありはしないのです。ただ理不尽と不条理さのなかで約150万人のアルメニア人が虐殺されたのです。

来日したジョージ監督は、映画の題名についてこう言いました。
「題名には3つの意味があります。第一に、ミカエルが婚約する女性マラルに、『必ず村に帰ってくる』という約束です。この約束はアナと恋に落ちた彼につきまとうことになります。第二に、モーゼ山に避難した時に、ミカエルとアナが交わす『生き抜こう、サバイバルしよう』という約束です。第三の約束は、この映画の製作費を捻出したアメリカの実業家カーク・カーコリアンが何年も前に友人と交わした、『映画をつくろう』という約束です」

実際、映画製作についてはさまざまな困難があったようです。約9000万ドルといわれている製作費は、そのほとんどを虐殺から生き延びた家族をもつアルメニア系アメリカ人であったカーク・カーコリアンが捻出したといいます。カーコリアンにとって映画の公開は、友人との約束であり、長年の悲願だったのです。しかし、残念ながら彼は映画の完成を待たずして、2015年6月に98歳で亡くなりました。

この映画のエンドロールの前に、アルメニア系アメリカ人の小説家ウィリアム・サローヤンが書いた詩の一節が引用されます。その詩は、アルメニア人とアルメニアの文化の不滅を高らかにうたっているようでした。

人道派のジャーナリスト、クリスを演じるのは『ダークナイト』三部作の“バットマン”として知られる、クリスチャン・ベイル(左)。 ©2016 THE PROMISE PRODUCCIONES AIE-SURVIVAL PICTURES,LLC. ALL Right Reserved.

『THE PROMISE/君への誓い』

監督:テリー・ジョージ
出演:オスカー・アイザック、シャルロット・ルボンほか
2016年 スペイン・アメリカ合作映画 2時間14分
配給:ショウゲート
全国順次公開中
www.promise-movie.jp