Vol.2 これからの映像文化を支えるのは? ~企業とショートフィルムの関係~

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    Vol.2 これからの映像文化を支えるのは? ~企業とショートフィルムの関係~

    こんにちは、別所哲也です。いま、新幹線に乗りながらこの記事を書いています。僕は静岡の実家に帰るときに新幹線を利用するのですが、新幹線や電車に乗るとよく思い出す映像があります。それは1896年に公開された、リュミエール兄弟による『ラ・シオタ駅への列車の到着』というショートフィルムです。世界で最初の有料公開映画とも言われるこの映画を見て、映像というものに初めて接した観客は、スクリーンの向こうからやって来る列車に轢かれると思い、席を立って逃げたと言われています。

    『ラ・シオタ駅への列車の到着』


    時は流れて120年後の今日、1日を振り返ってみると、何かしらの映像や動画に接しない日はないのではないでしょうか? 映画の誕生から始まった映像文化は、その後テレビの登場によって進化を迎え、インターネットの普及に伴い爆発的な広がりを見せています。僕が映画祭を立ち上げた1999年でさえ、動画を快適に視聴するのに十分なインターネット環境はまだ整っていませんでした。それから20年も経たないうちに、いまや子どもたちの将来の夢に YouTuberがランクインする時代となったのです。

     これを文化の衰退だと憂うる人もいますが、僕はむしろ真に実力のあるクリエイターにとって、これから大きなチャンスのある時代が到来すると考えています。クリエイターが映画会社やテレビ局の力に依存するのではなく、逆に企業間で実力のあるクリエイターの獲得競争が起きるような、真の実力主義の時代が訪れると思うのです。

    カギを握っているのは、企業のマーケティング部門だ!

    僕はインターネットが普及した現代において、これからの映像文化を支える重要な担い手は、企業のマーケティング部門だと考えています。テレビの全盛期にも映像コンテンツの多くは、企業のマーケティング予算によって制作されてきました。広告出稿先がテレビCMからインターネット動画広告へと置き換わりつつあるいま、企業のマーケティング予算によって、インターネット上で映像文化が花開くというのは自然な流れです。

    そしてインターネットにおいて、広告と映像文化・エンターテインメントの境界線は限りなく薄くなりつつあります。思い浮かべてみてください、スマホの指の操作一つでコンテンツを取捨選択できるいま、強制的に再生される商品説明動画など、いかに早くスキップすることしか考えないのではないでしょうか? いまやストーリー性が優れていたり、エンターテインメントとして価値のあるコンテンツでないと、企業がいくら広告予算をかけても見向きもされない時代なのです。

     このような環境においては、従来のテレビCMと同じやり方で、インターネット用に動画を制作するだけでは十分ではありません。企業が制作するべき動画はどのようなものかを再定義し、新たな価値の尺度を考えていく必要があるのです。

    そこで2016年の映画祭では、新設部門『Branded Shorts』を立ち上げ、企業がブランディング目的で制作した映像(ブランデッドムービー)を取り上げていくことにしました。具体的には映画祭が4つの視点(アイデア、ストーリーテリング、シネマチック、エモーショナル)から高く評価した映像を『Branded Shorts』と定義し、国内外から優れた映像を集めて上映を行っていきます。また動画マーケティングに関するカンファレンスの実施や、マーケター・広告代理店・映像クリエイターらの出会いの場を創出することで、企業のブランデッドムービーづくりを支援していきます。

    第1回「Branded Shorts of the Year インターナショナルカテゴリー」に選ばれたJohnnie Walker Blue Label のブランデッドムービー『紳士の賭け事II』




    「Branded Shorts of the Year ナショナルカテゴリー」には早稲田アカデミーの「へんな生き物」篇


    「Branded Shorts Special Recognition Award」ネスレ日本株式会社



    またこのような映画祭での取り組みとは別に、動画によるブランド価値向上を追求する研究所『Branded Movie Lab.(http://brandedmovielab.jp/)』を設立することに決めました。

    僕はブランドが持つメッセージや世界観を表現するには、ブランデッドムービーの活用が最も効果的だと考えています。そしてコンテンツの魅力とブランドメッセージの発信を兼ね備えたブランデッドムービーを普及させていくことで、クリエイターがきちんと対価を受け取りながら、自身の映像表現を追求していく世界が作れると思うのです。そのためにはブランデッドムービーを作るだけではなく、企業のマーケティング部門に効果分析や今後の映像制作へのフィードバックを行っていくことが不可欠だと考え、Branded Movie Labの設立に至りました。

    まだこのチャレンジは始まったばかり。企業とショートフィルムの接点を作り続けていくことで、映像文化に貢献を果たしていきたいと思っています。

    今回リコメンドするショートフィルムをチェック!

    『クロスワード』

    監督:ヴィンセント・ギャラガー /アイルランド/ロマンス/(2010)13:06

    クロスワードが心の拠り所である孤独な女性ヘザーは、ある日その答えのヒントが自分の周りにあることに気づく。果たしてこれはマジック? 偶然? それとも全く別のもの?

    https://antenna.jp/news/detail/3331149/

    1965年静岡県生まれ。俳優のほかラジオパーソナリティとしても活躍中。1999年にスタートした国際短編映画祭ショートショートフィルムフェスティバル & アジア の代表を務める。 毎年、6月に原宿・表参道、横浜で開催しており、世界中のフィルムメーカーから熱い視線を注がれている。 横浜みなとみらいのブリリア ショートショートシアターの代表もつとめ、世界のショートフィルムの魅力を発信している。

    http://www.shortshorts.org/