ジョディ・フォスターの監督4作目『マネーモンスター』は、現代社会への問題提起を込めたリアルタイム・サスペンス

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    ジャーナリズム精神を持ち合わせていないパーソナリティを演じて、サスペンスに笑いを吹き込んだジョージ・クルーニー。番組の冒頭で披露されるダンスはジョージのアイデアだとか。

    金は天下の回りものというけれど、もはや我々には見えないくらいはるか上の方でぐるぐる回っているだけ。リーマンショックの裏側を描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は笑いも刺激もあるとても面白い映画でしたが、資本主義社会で生きるのが嫌になるような作品でもありました。ジョディ・フォスターも、そんな時代の空気に憤りを感じていたひとりなのかもしれません。これまで『リトルマン・テイト』など家族の絆を描いてきたジョディが「ものすごく“今日的”な映画」だと語るのが、監督作4本目となる『マネーモンスター』です。

    人気財テク番組「マネーモンスター」のパーソナリティは、いかにもチャラそうだけれど練れたトークでわかりやすく投資についてのアドバイスを繰り広げるリー・ゲイツ。いつものように生放送がはじまったこの日、この番組の情報を鵜吞みにして株で大金を失ったという男が、スタジオに乱入してきます。銃と起爆装置でリーを脅す犯人をなだめながら、株価暴落の裏側へと迫ろうとするスタッフたち。男に大損をさせた投資会社に接触しつつ、アルゴリズムを設計したプログラマーを探り、すべてを生放送しながら真実を暴いていきます。

    スタジオから巻き起こった事件が瞬く間に世界のいまを伝え、最後まで緊張感が途切れないテンポのよさで、99分はあっという間! 軽薄な役が反則級に似合いすぎるジョージ・クルーニーがこのパーソナリティを演じているからこそ、やがて犯人の男との間に奇妙な連帯感が芽生える『狼たちの午後』を思わせる展開にも、観る者の心をつかむドラマが生まれています。イヤホンを通してリーに常に冷静な指示を与えるディレクターを演じたジュリア・ロバーツのがっしりとした存在感も、リアルタイムで進んでいくサスペンスを支えています。

    金融界やジャーナリズムへの違和感が描かれた作品ですが、重々しい社会派映画としてではなく、あくまでも骨太なエンターテイメントとして問題提起をしたジョディ・フォスター。弱者へ寄せる眼差しが生むやるせなさを感じさせると同時に、エンタメ界に身を置く主人公たちのたくましさも感じさせる後味には、複雑さもあります。ハリウッドで活躍する女性監督の少なさを憂う声も聞かれる今、ジョディ・フォスターが次にどんな映画を撮るのか、次の監督作が俄然楽しみになってきました。(細谷美香)

    『オーシャンズ12』以来の共演となるジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツ。ふたりの相性の良さを感じさせる作品になっています。

    アンジェリーナ・ジョリー監督作『不屈の男 アンブロークン』で注目を集めたジャック・オコンネルが事情を抱えた犯人に。

    『マネーモンスター』

    原題/Money Monster
    監督/ジョディ・フォスター
    出演/ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ、ジャック・オコンネルほか
    2016年 アメリカ 1時間39分
    配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
    6月10日よりTOHOシネマズ六本木ほかにて公開。
    www.moneymonster.jp