「そこに山があるから」にようやく納得したくなる。クライマーの情熱に迫るドキュメンタリー『MERU/メルー』にあなたは何を想いますか?

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    チームのリーダーは、世界的なトップクライマーとして知られているコンラッド・アンカー。

    なぜ命を落とすかもしれないほどの危険を冒してまで、人は山に登るのか? 「そこに山があるから」と言われても、わかったようなわからないような……。登山についてまったく詳しくないためそう思ってきたのですが、このドキュメンタリーを観て、クライマーの情熱をほんの少し理解することができた気がしました。畏れを感じる絶景が圧倒的な力をもっているのはもちろんのこと(ほとんど垂直に見える岩壁や雪崩はあまりにも恐ろしいけれど、降るように瞬く星空の何という美しさ!)、葛藤や後悔を抱えながらも決断し、前へと進んでいくクライマーたちが率直に語る言葉のひとつひとつが心に迫ってくるからこそ、彼らが感じる生きる喜びをシェアしてもらったような気持ちになったのだと思います。

    ヒマラヤ山脈、メルー中央峰にそびえる岩壁、通称シャークスフィン。コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズタークの3人は、一度は登頂に失敗しながらも3年後に再び集まり、過酷なルートに挑んでいきます。監督を務めたのは、この映画の主人公であり、多くの世界的な冒険家たちとコラボレートしてきたフォトグラファー兼ドキュメンタリー作家のジミー・チン。彼は山で撮影するときのルールについて、「絶対にカメラを落とさないこと」とユーモアを交えて語っていますが、あの山を登りながら撮影までするとは一体どんな神業!と驚愕必至の映像が目の前に現れます。朗らかな彼の笑顔の裏側にはきっと、絶対にこの物語を伝えるのだ、という強い意志と誇りが隠されているのでしょう。

    監督、プロデューサーとしてジミーの妻も名を連ね、再挑戦するまでの間にレナンやジミーを襲った苦難、相棒を失ったコンラッドの過去や友情といった3人のパーソナルな事情や思いを追いかけながら、妻、恋人、姉など帰りを待つ女性たちの心情もすくいとっていきます。リスク管理しなければ生き残ることはできず、リスクテイクをしなければ登りきることはできない難攻不落の岩壁への挑戦を追いかけた『MERU/メルー』。自分が本当に求めるものと信頼の真の意味を知っている人たちの生き方に触れながら、彼らが目にした風景をスクリーンで体感できる、今年の「映画はじめ」にもぴったりのドキュメンタリーです。(細谷美香)

    監督はナショナル・ジオグラフィックの山岳カメラマンであり、ノースフェイス・アスリートチームのメンバーでもあるジミー・チン。

    サンダンス映画祭で観客賞を受賞。日本では昨年の大晦日に公開され、山岳ドキュメンタリーの枠を超えて感動の輪が広がっています。

    © 2015 Meru Films LLC All Rights Reserved.

    『MERU/メルー』

    原題/Meru
    監督/ジミー・チン、エリザベス・チャイ・バサヒリィ
    出演/コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズタークほか
    2015年 アメリカ映画 91分 
    配給/ピクチャーズデプト
    新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー、109シネマズ二子玉川ほかにて公開中。
    http://meru-movie.jp