デヴィッド・ボウイの人生がここにある! 4月9日まで開催の大回顧展『DAVID BOWIE is』を見逃すな。

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    ちょうど1年前、最新アルバム『★』の発売からわずか2日後に突然この世を去ったデヴィッド・ボウイ。半世紀にわたる彼のキャリアを総括する大規模な展覧会『DAVID BOWIE is』が、70回目の誕生日になるはずだった1月8日に、東京・天王洲の寺田倉庫G1ビルでいよいよ始まりました。

    本展がロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で開幕したのは、2013年3月のこと。日本では一周忌を記念する追悼イベントであるかような印象を与えますが、当時のボウイは10年ぶりの新作『ザ・ネクスト・デイ』を発表したばかり。むしろカムバックを歓迎する祝賀イベントと目され、大きな話題を呼び、連日会場は満員状態。マスコミにも絶賛されて、以後ベルリンからサンパウロまで世界9都市を巡回し、同博物館が企画した展覧会としては最高記録の計160万人を動員しました。そして彼の死を受けてさらに再評価の声が高まり、ファッションデザイナーから映画監督まで全方面のクリエイターたちに及ぼした影響力の大きさが改めて論じられる中、10カ所目の、アジア唯一の開催地として東京に上陸したというわけです。

    この展覧会を可能にしたのはほかでもなく、ボウイ自身のアーカイブ。彼は10代の頃から密かに、自身の創作活動にかかわるあらゆる資料を大切に保管していたのです。その総アイテム数は75000点に上るとされ、「ボウイ自身は一切内容に関与しない、その代わりにアーカイブにあるものは何でも使っていい」との条件下で、同博物館のシアター&パフォーマンス部門のキュレーターたちは『DAVID BOWIE is』を企画。そのひとりのジェフリー・マーシュは、「私たちは大勢のロックスターのコレクションを見ていますが、たいていは雑誌の切り抜きや衣装が数点あるだけなんです。しかしボウイは、何もかも保管していた。その完璧さは圧巻でした。まるで、自らがつくり上げたキャラクターを通じて自分自身を分析していたように感じさせます」と、300人を集めたメディア内覧会で語りました。

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    会場に到着するとまずは、“デヴィッド・ボウイはここにいる”と記されたこのビジュアルが目に入る。

    ボウイがステージで纏った衣装の数々。ティエリー・ミュグレーによるグリーンのスーツ、ボウイを敬愛するエディ・スリマンが提供したブルーのシルクのスーツも含まれている。

    まだ混乱状態にあった、第二次大戦後の英国で育ったボウイの幼少期を紹介するコーナーより。看板は、彼の生家があるロンドン南部の通りに立っていたもの。

    “お宝”を並べただけではない、巧みなキュレーションに魅了される。

    エントランスに飾られているのは、1973年の『アラジン・セイン』ツアーで着用した、山本寛斎作のボディスーツ。歌舞伎の“引き抜き”を応用した仕掛けが施されている。

    そんなアーカイブからセレクトした衣装、写真、スケッチ、自筆の歌詞に加えて、背景事情を解説する資料や映像を含め、300超の展示物で構成された『DAVID BOWIE is』。大ヒットを博した理由は、単に“お宝”を年代順に並べただけではない、巧みなキュレーションにあるのでしょう。各コーナーとシンクロした音声が聴けるヘッドフォンを渡された観覧者は、ボウイがジギー・スターダスト時代に身に着けた山本寛斎作の衣装「トーキョー・ポップ」に迎え入られると、まずは幼少期から下積み時代の足跡を辿ることになります。そして労働者階級の英国家庭に生まれた彼がどんな社会で育ち、どんなカルチャーに触れてミュージシャンを志したのかを掘り下げたのち、ライブパフォーマンスやソングライティングといったテーマごとに、常に変化し続けたボウイのクリエイティビィティを検証。アート、映画、文学、舞台芸術などなど実に幅広いインスピレーション源を咀嚼し、最適なコラボレーターを起用して、抗し難い魅力をもつ作品に転化していったプロセスを、丁寧に解き明かしてくれるのです。

    ボウイにとって最初のヒット曲となった69年の『スペイス・オディティ』については、アポロ11号の月面着陸を前に宇宙への関心が高まっていた、当時の社会背景を併せて紹介。

    まだデビューしたばかりのアレキサンダー・マックイーンに注目し、コラボを持ちかけたボウイ。このフロックコートを97年のアルバム『アースリング』のジャケットで着用した。

    このように、お馴染みのミュージックビデオやアルバムジャケットの数々にまつわる興味深いストーリーを伝える本展のなかでも、最も貴重な展示と言えば、彼が構想を練っていた幻のミュージカル映画のコーナーかもしれません。そのアイディアは1974年のアルバム『ダイアモンドの犬』に転用されるのですが、キュレーターたちはアーカイブで自筆の絵コンテやスケッチを発見。初めて全貌が明らかになりました。また日本と特別な絆で結ばれていたボウイが主演した映画『戦場のメリークリスマス』に特化したコーナーも、東京のみの特別な展示とあって必見。もちろん、この音楽界きってのスタイルアイコンが着用した、前述した山本寛斎やアレキサンダー・マックイーンらが手掛けた衣装だけでも約60点を数え、見ごたえはたっぷりあります。

    そしてもうひとつ特筆すべき点は、展覧会の空間デザインそのものの美意識の高さ。殊に、70年代後半にベルリンで生活していた時期にフォーカスする、モノクロでまとめた一角は、壁崩壊前の街の気分を見事に再現しています。

    「本展の見どころはボウイの哲学そのもの――つまり心を開いて、多様な生き方や異文化を受け入れて、型にはまらないという姿勢です。これは現在の社会で揺らいでしまっている価値観であり、そういう意味で彼は、従来以上に重要なインスピレーション源なのではないでしょうか」と訴えたのは、ジェフリーとともにキュレーションを行ったヴィクトリア・ブロークス。確かに、死後ますます存在感を増しているようにさえ感じられるボウイ。『DAVID BOWIE is』で彼の世界に浸れば、そのビジョンと想像力のスケールに圧倒されるだろうことは間違いありません。(文:新谷洋子 ムービー:HIROBA)

    日本開催に際して新たに用意された映画『戦場のメリークリスマス』のコーナーでは、ボウイとの共演を振り返る北野武と坂本龍一のインタビューを見ることができる。

    DAVID BOWIE is

    会期:2017年1月8日(日)~4月9日(日)
    開場時間:10時~20時 ※毎週金曜日は21時まで。入場はいずれも閉館1時間前まで。
    会場:寺田倉庫G1 ビル(天王洲)
    住所:東京都品川区東品川二丁目6 番10 号
    休館日:毎週月曜日(ただし1/9、3/20、3/27、4/3は開館)
    入場料:一般¥2,400(¥2,200) 中高生¥1,200(¥1,000)
    ※( )内は前売り、小学生以下は無料。詳細はこちらをご覧ください
    http://davidbowieis.jp/