クリエイティブを刺激する、本、映画、音楽を紹介する「Penが選んだ注目のカルチャー」。注目すべき作品を、一挙にご紹介します。
[BOOK/本] 文:今泉愛子
アメリカの国家運営は、大統領の気分しだいか!?
『FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実』
ビジネスマンだったドナルド・トランプが大統領に立候補し、就任したのは2017年1月のこと。それからわずか1年余りの間に政権の中枢メンバーはころころと入れ替わった。ジャーナリストの著者は、アメリカでこれまでトランプほど感情のままに決断する人間が大統領に就任したことはなかったと指摘。多数の証言をもとに、あらゆる政策や人事について意見が二転三転する政権運営の様子を伝え、トランプ大統領の功罪を明らかにする。
IT立国エストニアが証明する、人と技術革新の幸福な関係。
『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた つまらなくない未来』
エストニアがIT技術を駆使して実現している社会は、人口の少ない小国が豊かに生きるヒントにあふれている。99%の行政サービスがオンラインで利用できる他、外国人を仮想住民として認め、ビジネスを展開しやすくするイーレジデンシーを実施。海外から来たフリーランスの人に1年の居住許可を与えるデジタルノマドビザ構想も進行中。ビジネスや教育の実例も、未来への示唆に富んでいる。
気にくわない者には水を吹く⁉果たしてタコは意志をもつのか。
『タコの心身問題--頭足類から考える意識の起源』
タコは心をもっているのではないか。研究室の水槽で気にくわない者に水を吹きかけることもあれば、周囲の人間を一人ひとり識別し、相手によって態度を変えることもあるというのだ。こうしたタコの行動はどんな仕組みによるものか。生物の知能は、脳の大きさに比例しないし、言語能力がなくても複雑な思考は可能だ。哲学者でダイバーでもある著者は、進化の歴史をひも解き、全身にニューロンが分布しているタコの心の謎に迫る。
[CINEMA/映画] 文:細谷美香
国も宗教も超えた、心の絆。
『ヴィクトリア女王 最期の秘密』
ヴィクトリア女王即位50周年記念式典で記念金貨を贈呈する役割を与えられた青年、アブドゥル。女王は英領インドから海を渡ってイギリスへとやって来た彼を気に入り、従僕として傍に置くようになる。『クィーン』でも英国王室の物語を描いた名匠、スティーヴン・フリアーズが知られざる真実をもとに映画化。国境も宗教も超えて心でつながったふたりの物語は、多様性を求めながらも困難な現代にこそ光を放つ。
監督/スティーブン・フリアーズ 出演/ジュディ・デンチ、アリ・ファザルほか 2017年 イギリス・アメリカ合作映画 1時間52分 Bunkamura ル・シネマほかにて公開中。
デンマークから届いた、緊張感みなぎるサスペンス
『THE GUILTY/ギルティ』
ある事情によって警察官から退き、緊急通報指令室にオペレーターとして勤務しているアスガーは、誘拐された女性からの通報を受ける。電話から聞こえてくる情報だけで事件を解決しようと試みるが……。デンマークから届いた、犯人の息遣いやクルマの音など会話と音声のみで最後まで進む「ワンシチュエーション」ものの最新系。既にハリウッドリメイクが決定しているというのも納得の、緊張感みなぎるサスペンスだ。
監督/グスタフ・モーラー 出演/ヤコブ・セーダーグレンほか 2018年 デンマーク映画 1時間28分 新宿武蔵野館ほかにて公開中。
ギリシャの鬼才が描き出す、権力を巡る争いの行方。
『女王陛下のお気に入り』
18世紀初頭、フランスと交戦中のイングランド。病と孤独を抱えた女王は幼なじみのサラに操られていた。ある日、サラの従妹が召使として働き始め、女王の寵愛を求めるふたりの争いが巻き起こる。『ロブスター』などで知られるギリシャの鬼才が、才能あふれる女優3人とタッグを組んだ人間ドラマ。権力を巡る女たちのなりふり構わぬパワーゲームの行方を、奇妙な美しさを宿す魅惑の映像と黒い笑いで描き出した。
監督/ヨルゴス・ランティモス 出演/オリビア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズほか 2018年 アイルランド・イギリス・アメリカ合作映画 2時間 全国にて公開中。
[MUSIC/音楽] 文:山澤健治
耽美でトリップ感のある、「不眠症のためのドリームポップ」
『トリアージ』
オーストラリアはパース発、ジェイク・ウェブ率いるサイケ・ポップ・バンドの2年ぶりの3作目。ダークな色合いと内省的なニュアンスを深めつつ、推進力のあるサイケデリック・ポップを展開する。「不眠症のためのドリームポップ」と称した海外メディアもあるが、まさに言い得て妙。陶酔感漂う歌声とギター・サウンドにニューウェーブ系のグルーヴやシンセ音を重ねた、耽美なトリップ作。
軽快かつしっとり聴かせる、ベテランの歌声に酔う。
『サム・オブ・ザット・サンシャイン』
グラミー賞ノミネートの栄誉に5度輝くジャズ歌手/ピアニストによる、3年ぶりの新作。これまで13枚のアルバムを発表してきたベテランだが、今作は初めて彼女のオリジナル曲だけで構成。ブルージーなナンバーからバラードまで、秀曲を揃える。曲ごとに軽快に、しっとりと歌う表現力はさすが。表題曲のレジーナ・カーターのヴァイオリン・ソロ他、名演も聴きどころのジャズ・ボーカル盤。
FKAツイッグスとも共振する、注目の大型新人。
『ザ・クアンタ・シリーズ』
海外メディアが絶賛する、新人エレクトロニック・コンポーザー/ボーカリストのデビュー盤。揺れ動くビートとサンプリングしたボーカルを駆使して描くサウンドスケープは、ビョークやFKAツイッグスとも共振するもの。生まれ育ったLAを離れ、祖国シリアの親戚の死を乗り越えるべく自己発見の旅に出た彼女の歌声に、漆黒の闇を照らす光のような救いの響きが宿る。音楽という名のアート。