法王フランシスコの過酷な半生を描く、『ローマ法王になる日まで』がいよいよ公開。

  • 文:細谷美香

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主人公のベルゴリオを、『モーターサイクル・ダイアリーズ』のロドリゴ・デ・ラ・セルナが演じています。

ローマ法王が題材の映画として記憶に新しい作品といえば、イタリアの名匠、ナンニ・モレッティ監督の『ローマ法王の休日』。コンクラーヴェ(法王選挙)を経て新しい法王となった主人公が、あまりのプレッシャーから街へと逃げ出してしまう“ローマの休日”を、コメディの要素を交えて描いた作品です。モレッティ作品で助監督を務めた経験ももつダニエーレ・ルケッティ監督が手がけたのが、2013年に第266代ローマ法王に就任したフランシスコの半生を描く『ローマ法王になれる日まで』。コンクラーヴェのためにバチカンを訪れ、これまで歩いてきた道のりを振り返るところから映画がはじまります。

1960年、ブエノスアイレスの大学に通っていたホルヘ・マリオ・ベルゴリオは、神に仕えることを決意。学友やガールフレンドに反対されながらも翻意することなく、イエズス会に入会します。30代の若さでアルゼンチン管区長に任命されますが、ほどなくして軍事独裁の時代となり、反政府的な活動をしていた者たちは神父といえども命を奪われる時代へと突入していくのです。

ローマ法王フランシスコといえば、ロックスターにたとえられるほどの人気を誇り、カトリック信者ならずともその動向に注目してしまう型破りな人物です。自らツイッターのアカウントをもって本音で語り、住居や車はあくまでも質素。バチカン銀行の不正やマフィアとの癒着、『スポットライト 世紀のスクープ』でも描かれている聖職者による児童への性的虐待にもメスを入れ、さまざまなスキャンダルを一掃してきました。メキシコとの国境に壁を作るというトランプの主張に対し「壁ではなく橋を造るべき」と発言したり、同性愛者への寛容なコメントなども伝えられています。

とことん立派、なのに親しみやすさももつ最強のローマ法王という人物がいかにして形成されていったのか――。その半生について詳しく知らなかったため、この映画を観て驚かされたのは、その道のりのあまりの苛烈さです。弾圧にあった恩師や友人たちが飛行機から投げ落とされる場面には言葉を失い、「苦悩の結び目をマリア様が解いてくれる」という女性の言葉に涙を流すベルゴリオの姿には、神をもたない者の胸にも迫ってくる厳かさを感じました。混沌とした世界の光となり得る唯一無二のスーパースターの闘いの記録であるとともに、他者への本物の慈悲とは何か?という宗教を超えた命題について考えるきっかけをくれる作品です。

サンピエトロ寺院の前で過去を振り返る法王フランシスコ(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)。監督は『我らの生活』などがカンヌ映画祭でも高い評価を得ているダニエーレ・ルケッティ。

若き日の法王フランシスコ(右)。当時は日本での宣教を望んでいて、いまも訪日を願っているという。

©TAODUE SRL 2015

『ローマ法王になる日まで』

原題/Chiamatemi Francesco - Il Papa della Gente
監督/ダニエーレ・ルケッティ
出演/ロドリゴ・デ・ラ・セルナ、セルヒオ・エルナンデス、ムリエル・サンタ・アナほか
2015年 イタリア 1時間53分
配給/シンカ、ミモザフィルムズ
6月3日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマほかにて公開。
http://roma-houou.jp