27歳でこの世を去った“あの”歌姫の、魂のきしみを描いた映画『AMY エイミー』で人生を見つめ直しましょう。

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    監督を務めたのは『アイルトン・セナ~音速の彼方へ~』で注目を集めた映像作家、アシフ・カパディア。
    ©Rex Features

    一度聞いたら忘れられない成熟した歌声と、リハビリについての歌詞なのに軽快なテンポが耳に残る「Rehab」。この楽曲でエイミー・ワインハウスという名前を知った後、ゴシップ誌でよく目にしたのは、夫とともに顔面傷だらけ、虚ろな目をして汚れたシューズのままでふらふら歩いている姿でした。彼女はグラミー賞を受賞しながらも、ドラッグとアルコールで身を持ち崩し、多くの伝説的なミュージシャンたちのように27歳でこの世を去っています。彼女の短くも濃密な生涯を追いかけたドキュメンタリーが『AMY エイミー』。これはスキャンダラスなセレブリティの記録ではなく、ただ歌えるだけでラッキーだと思っていた痩せっぽちな普通の女の子の、痛ましくも美しい魂の記録です。

    子どもの頃からジャズに親しみ、10代でレコード会社と契約。20歳でデビューアルバムを完成させ、セカンド・アルバムは世界的なヒットを記録しました。ドラッグ中毒の夫に引き込まれるように薬物に依存するようになった彼女は、やがてライブもできないほどに堕ちていくのです。幼少時のエピソードも交えながら、映画はエイミー・ワインハウスという才能あふれるミュージシャンが生きた証を、公私にわたる映像の数々と家族や友人、関係者たちの音声のみの証言によって、ほぼ時系列で描き出しています。

    このドキュメンタリーを観ながら、もともと不安定なところのあるエイミー自身がトラブルを抱えていたのだから、そんなシンプルな問題ではないことを理解しながらも、薬物中毒だった元夫や娘を利用したようにしか見えない虚栄心あふれる父親に対する怒りを、どうしても抑えることができませんでした。もしも誰かが救いの手を差し伸べることができたのなら、茨の道をくぐり抜け、その先に光を見つけたエイミーの歌声を聞くことができたかもしれないのに、と。

    けれども観終わったときに最も胸に残ったのは、実生活から生まれた感情を素直に綴っていたという歌詞です。エイミーが残した歌が流れるたびにスクリーンには文字が浮かび上がり、その時々の彼女の心情や暗闇に寄り添うように、訴えかけるように、歌詞と歌声が迫ってきます。両親の離婚に傷ついた少女の頃から、きっとエイミーは音楽をつくり、歌うことで自分の心と折り合いをつけてきたのでしょう。人を求めるように音楽を求め、決して有名人になりたかったわけではないエイミー・ワインハウスの魂のきしみが聞こえてくるようです。彼女が残した音楽を通じて人生を見つめ直す、誠実な姿勢に貫かれたドキュメンタリーだと感じました。(細谷美香)

    今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞やグラミー賞をはじめ、数多くの賞を受賞しています。
    ©Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky

    『AMY エイミー』

    原題/Amy
    監督/アシカ・カパディア
    出演/エイミー・ワインハウス、ジャニス・ワインハウスほか
    2015年 イギリス、アメリカ合作映画 2時間8分
    配給/KADOKAWA
    7月16日より角川シネマ有楽町ほかにて公開。
    http://amy-movie.jp