美しい島で暮らす子どもたちと犬の時間、 阿部高嗣写真展「島いぬ 」に注目です。

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    写真集「島いぬ え!? 私って犬だったの?」(雷鳥社)の作品を中心とする、写真家・阿部高嗣さんの展覧会が新宿のコニカミノルタギャラリーで開催されます。瀬戸内海の伯方島在住の阿部さんは、現在も船舶会社の社員です。彼の写真におもに登場するのは、美しい自然に囲まれた島で成長する3人の子どもたちとジャックラッセルテリアのアロ。見る人の心をホッと温かくする一枚一枚の写真には、阿部さんの家族と島への愛情が詰まっています。


    取材をしたこの日も、阿部さんは、会社の出張で伯方島から東京に来ていました。貨物船の船長をしていた阿部さんが、ある日、子どもたちを撮るためにふいに手にとったペンタックスの一眼レフカメラ。そこから物語が始まりました。

    「一眼レフというもので写真を撮りだしたのは今から6、7年前です。特に勉強もせず、誰かに教わることもなく、たまたま応募したコンテストで入賞しました。もちろん落選する方が多かったんですが(笑)、とにかく撮影することが楽しかったんです」


    現在は、陸上で勤務をしている阿部さんですが、その頃は家に戻るのは3ヶ月に1回。戻った時は、自分がいない時間をうめるように、まだ小さかった3人の子どもたちを撮影していたそうです。

    そこで、ある日登場したのがジャックラッセルテリアのアロ。ペットショップでアロに一目惚れした阿部さんは、自分が普段いないのにも関わらず、アロを家族に迎え入れてしまいました。


    その後、何をするにもアロは子どもたちと一緒。毎日美しい伯方島の山や海を遊びまわります。そして、阿部さんのカメラを通して映し出されるアロと子どもたちの日常は、毎日がワクワクするような冒険の連続です。

    この写真展は、美しい島で暮らす彼らの成長記録です。しかし、そうであるとともに、なぜか見る人をどこか切ない気持ちにさせます。

    「一度、海に出ると3ヶ月は戻らないという生活を続けてました。でも、そういう風に島にいないからこそ、島の良いところが見えてくる。いつも島にいる人が『なんでここが?』という場所も見えてくる。海外や遠くに行かなくても良いものや素晴らしいものは意外に身近にあります。3ヶ月間島にいないという事が、それに気づかせてくれました」


    「島いぬ」を阿部さんが撮り出した頃は、一番上のお姉ちゃんのアカリちゃんは小学生。現在は中学2年生だそうです。アロがきたときに小学校に入った2番目ゲンくんは、現在小学校5年生。末っ子のヤマちゃんは3年生になりました。


    子どもたちは成長し、いつか島を出てゆくかもしれません。そして、当然ですが犬の寿命は人間より短く、いつか子どもたちと別れる日が必ずやってきます。しかし、阿部さんが切り取った子どもたちとアロの日常は、この写真の中でいつまでも、まるで宝石のようにキラキラと輝き続けます。

    小さな楽園のような島で、幸福に暮らす子どもたちと小さな犬との時間。ゆっくりと、ゆったりと流れる彼らの日々は、限りなく遠くうらやましく、同時に愛しく感じられます。


    いわゆる「犬と子ども」という鉄板ともいえる写真とは、ひと味ちがうと感じるこの写真展。今回は、子どもたちとアロの成長を時系列を追いながら、アロが阿部家にきてから現在までの写真が展示されています。成長した子どもたちや大人になったアロに会えるのも楽しみです。(大嶋慧子)

    阿部高嗣写真展「島いぬ」
    2015年年5月9日(土)〜5月19日(火)
    コニカミノルタプラザ ギャラリーA

    東京都新宿区新宿3-26-11 新宿高野ビル4F
    ※JR新宿東口、地下鉄丸の内線「新宿駅」A7出口から徒歩1分(フルーツの新宿高野4F)
    開館時間:10時30分~19時(最終日は15時まで)


    阿部高嗣(あべ・こうじ)1970年 伯方島出身

    2009年 よみうり写真大賞ファミリー部門 年間大賞
    2011年 写真集「しまなみライフ」出版(雷鳥社)
    2012年 写真展「しまなみライフ」(エプサイト)
    2013年 よみうり写真大賞ファミリー部門 年間大賞
    2014年 写真集「島いぬ え!? 私って犬だったの?」出版(雷鳥社)