12 年ぶりの写真集「たまきはる」を刊行する、神藏美子の写真展。

    Share:

    私生活を赤裸々に綴った前作の写真集『たまもの』から12 年、神藏美子の新作『たまきはる』が1月16日に刊行されます。また、その写真集のなかから「父の死」をテーマにした作品を展示する展覧会『たまきはる- 父の死』が、1月25 日まで恵比寿のNADiff GALLERY にて開催中です。写真集と展覧会から見えてくるものとは……。


    『たまきはる』は、写真集と呼ぶにはボリュームがありすぎる厚さの全232 ページ。表紙には、神藏美子の夫で、『写真時代』や『パチンコ必勝ガイド』で一世を風靡した編集者、末井昭の横顔の写真。末井の耳には十字架のピアスが見え、横長の白い帯に赤い文字で書かれた言葉は「神さまがいるとしたら、ここ」。表紙をめくると、雨に濡れた葉、窓ガラス越しに見上げるネコ、バドミントンに興じる末井昭……と7枚の写真が続き、その次のページには余白たっぷりのスペースに下記の文章が記されています。


    「神さまは、いるの」と、なぎちゃんに聞かれた。

    「うん、神さまは、いるよ」

    「わたしのこと見ているの?」

    「うん、見ているよ」

    「『神さまは、感謝するものに、より多くの恵みを与える』って聖書に書いてあるよ」


    左ページには、どこか悲しそうな表情で口に手をあてるクリエイターの野田凪の写真。

    ここまでで、11 ページ。そのあとはもう、ページをめくる手が止まりません。


    銀杏BOYZ のライブで涙ぐむ青年。搬送先の病院で横たわる父親。昔の家族写真。末井昭との日常。障害者プロレスのがっちゃん。試写室の田中小実昌。イエスの方舟の千石剛賢。『パチプロ日記』の田山幸憲。そして寺山修司。写真と文章がシンクロし、父とは、夫とは、家族とは、友達とは、神とは、といった問いかけが続きます。


    230 ページに書かれた最後の6行にはしびれました。

    「パパ、愛してる」の一文で写真集は終わります。

    この言葉を紡ぐために、前作から12 年の月日が必要だったのかもしれません。


    最初から最後まで、写真と文章の並べ方が絶妙だと思っていたら、奥付に「本文レイアウト」として、末井昭の名前。なるほど、嫉妬したくなるほど構成がうまいわけです。なお、NADiff GALLERYでは、1 月10 日(土)16 時から、神藏美子と内田真由美(アート・コーディネーター)のトークイベントが開催されます。(Pen 編集部)

    神藏美子写真展『たまきはる ― 父の死』
    ~2015 年1 月25 日(日)

    NADiff GALLERY
    東京都渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff A/P/A/R/T B1F
    TEL:03-3446-4977
    開館時間:12 時~ 20 時
    休館日:月(月曜が祝日の場合は翌日)
    入場料:無料
    www.nadiff.com

    トークイベント
    2015 年1 月10 日(土)16 時~18 時
    出演:内田真由美 (アート・コーディネーター) 神藏美子
    場所:NADiff A/P/A/R/T
    入場無料(予約不要)