「山崎博 計画と偶然」に、クールなコンセプトに裏打ちされた静謐と豊饒を観る。

文:坂本 裕子

「山崎博 計画と偶然」に、クールなコンセプトに裏打ちされた静謐と豊饒を観る。

1985~89年まで現代思想の季刊誌『クリティーク』の表紙として発表されたシリーズの一枚。山崎は表紙と同時に特集にゆるやかに関連した散文も発表していました。これは太陽の軌跡が「計画」した部分で、鉄塔の反射は「偶然」の部分。展覧会タイトルを象徴する作品となっています。 〈CRITICAL LANDSCAPE〉より 1985年 作家蔵

東京都写真美術館では、総合開館20周年記念の一環として、「山崎博 計画と偶然」展が開催中です。

山崎は、1966-67年、学生時代から寺山修二らの劇団「天井桟敷」に参加、68年には大学を中退し、カメラマンとして活動を開始します。寺山や赤瀬川原平、土方巽、粟津潔など、当時の前衛芸術家・舞踏家たちの活動のドキュメンタリー写真や、映画フィルムの制作をしていましたが、やがて写真に対する思索を深め、独自の作品を生み出しました。その追求は現在も続いており、コンセプチュアルな写真・映像の先駆者と位置づけられています。45年以上のキャリアを主要な作品シリーズで追う、山崎博の作品世界。美術館では初めての展覧会であり、「コンセプチュアルな表現」を現代の視点で問い直す、示唆的な内容になっています。

光と時間をとらえる“機械”が生み出す写真という“像”の特質に着目した彼は、70年代初めより、「いい被写体を探して撮る」ことへの疑問から「被写体を選ばずに撮る」ことを模索し始め、自宅からの景色や、特徴を持たない海景など、提示された枠組みの中で表現が持つ力を引き出す、というスタイルに行き着きます。それは、タイトルにある通り、枠組みを定義する「計画性」と撮影することで起こる「偶然性」が共存する作品に昇華しました。

「太陽」や「海」「桜」など、自然が持つ普遍性と、彼が切り取る刹那が、拮抗し、同居する作品は、光と時間の推移をとらえ、時に抽象的な世界に通じながら、詩的な美しさとニュアンスある静謐な世界を魅せます。同時に写真装置とそれがとらえる対象、そこに映る像と生み出されるイメージとの関係性へも意識を促します。

限りなくミニマムなコンセプトがみごとに作品の中に込められ、「与えられた風景」の多様な表現と強さを提示する空間は、コンセプトそのものが重視されがちな現代の表現に対する、ひとつのアンチテーゼにも感じられます。

「限定された方法(コンセプト)とは、決して不自由な方法を意味せずに、シャープな方向性を確保するための装置であるのだろう。そのようにとらえれば、写真はコンセプトに従属せず、コンセプトは写真に奉仕する」
写真機という装置を見つめ、コンセプトという装置を定め、表現の可能性を模索する――クールな視線から生まれる、「在」と「非在」、「静」と「動」、「永遠」と「刹那」、「具象」と「抽象」がせめぎ合う、緊張とイメージの豊饒を感じてください。

「山崎博 計画と偶然」に、クールなコンセプトに裏打ちされた静謐と豊饒を観る。

写真家としての初期の作品。ジャズピアニストの山下洋介が、粟津潔の作品《ピアノ炎上》のピアニストとして、灰になるまで演奏した時のドキュメントであり、山崎の表現でもあります。寺山修二をはじめ、赤瀬川原平や土方巽など、当時の前衛芸術のメンバー兼目撃者としての作品も会場に並びます。 〈EARLY WORKS〉より ≪山下洋輔≫ 1973年 東京都写真美術館蔵

「山崎博 計画と偶然」に、クールなコンセプトに裏打ちされた静謐と豊饒を観る。

後年まで続く自身のスタイルを見いだしたシリーズ写真のひとつ。以後、彼は「被写体を探す」のではなく、「与えられた風景」をどこまで多様な方法で写しうるのかを模索していきます。自宅の窓から見える風景に自身の手を入れることで、画面は偶然と意図とが混在する不思議な空間を提示します。 〈OBSERVATION 観測概念〉より 1974年 東京都写真美術館蔵

「山崎博 計画と偶然」に、クールなコンセプトに裏打ちされた静謐と豊饒を観る。

「カメラを水平に構える」というルールに則り制作されたシリーズ。センターに水平線を固定する制約の中で、何が捉えられ、何を捉え得るのか、ストイックなまでの「撮る」ことへの追求は、作品に抽象性を与え、その空間は、静けさと強さを併せ持って、「物」と「概念」の関係性をあいまいにしていきます。 左:〈水平線採集〉より 1994 年/右:〈水平線採集〉より 《鵠沼海岸》 1981 年 ともに作家蔵

「山崎博 計画と偶然」に、クールなコンセプトに裏打ちされた静謐と豊饒を観る。

太陽と桜の花の位置関係を固定化し、太陽の光に合わせて移動しながら長時間露光したシリーズ。カメラの「光を捉える」という原理でストレートに写したそれは、「時間の推移」を写し取ったともいえます。リアルな桜の映像が、幻想的な雰囲気をまとい、魅力的な作品となっています。会場では映像作品とともに。 左:〈櫻〉より 1989年/右:〈櫻花図〉より 2001年 ともに東京都写真美術館蔵

「山崎博 計画と偶然」に、クールなコンセプトに裏打ちされた静謐と豊饒を観る。

展覧会のために制作された新作。75年の同タイトルのバリエーションでもあり、暗室の中でストロボを光源として、水と光の揺らめきが生み出す「動き」を印画紙に写し取りました。作家の手が入ることで、初期の〈OBSERVATION 観測概念〉と呼応し、過去と現在がつながって、展覧会を永遠の回帰の中にまとめます。 〈Untitled(水のフォトグラム)〉より 2017年 作家蔵

「山崎博 計画と偶然」

~5月10日(水)
開催場所:東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10時~18時(木・金曜日は20時まで) (入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし5/1は開館)
TEL:03-3280-0099
観覧料:一般600円ほか

http://topmuseum.jp