諷刺画の概念を変えたパイオニア、ウィリアム・ホガースの軌跡を辿る。

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    《娼婦一代記》第1図 1732年 伊丹市立美術館所蔵

    大衆向けの新聞が生まれ、ジャーナリズムが台頭した18、19世紀のヨーロッパ。当時の絵画はまだ自己を表現するようなものではなく、歴史的な事象や宗教に関する出来事を描き、後世に残すことを目的としていました。しかし、その時代のイギリスにおいて、ウィリアム・ホガースは社会、風俗、人間の内面を映し出したジャーナリスティックとも言える風刺画を生み出し、近代絵画の幕開け、風刺画が隆盛するきっかけをつくったのです。

    1697年に教師の息子として生を受けたホガースは、収入が少なく借金もあった両親の影響で自立するまで非常に貧しい生活を強いられます。17歳で銀細工職人の徒弟となり24歳で独立。皿に挿絵を描く仕事などで生計を立て、アートスクールに通いながら本格的に美術を学びます。それとほぼ同時期に制作したのが、当時イギリスでブームになっていた投機をモチーフにした《南海泡沫事件》と題した銅版画。この作品によって、ホガースは高い評価を得ました。

    《当世風結婚》第5図 1745年 伊丹市立美術館所蔵

    9月17日から伊丹市立美術館ではじまる「ウィリアム・ホガース “描かれた道徳”の分析」で展示されるのは、ホガースが画家としてのキャリアを本格的にスタートさせ、大きな反響を起した連作版画を中心とする約50点です。最初期の《ヒューディブラス》、ホガースの4大連作と呼ばれる《娼婦一代記》《放蕩者一代記》《当世風結婚》《勤勉と怠惰》などに加え、ホガースの美術論をまとめた著書「美の分析」の図解説も展示されているため、作品に残された記号を読み解きながら、鑑賞を進めることができます。


    ホガースは作品を通して道徳のあり方を提示し続けました。恵まれた環境で生活できなかったからこそ生み出すことができたオリジナリティ。ホガースの軌跡を辿れば、諷刺画の概念が変わった瞬間を垣間見ることができるかもしれません。(大隅祐輔)

    《勤勉と怠惰》第1図「織物工場にいる二人の徒弟」 1747年 伊丹市立美術館所蔵

    『ウィリアム・ホガース “描かれた道徳”の分析』

    開催期間:9月17日(土)~ 11月3日(木祝)
    開催場所:伊丹市立美術館 
    兵庫県伊丹市宮ノ前2-5-20
    開催時間:10時~18時
    休館日:月曜日
    入場料:¥300(一般)
    http://artmuseum-itami.jp/