なぞ多き戦国の画僧「雪村」に見る、“奇想”の源流と細部へのまなざし。

文:坂本 裕子

なぞ多き戦国の画僧「雪村」に見る、“奇想”の源流と細部へのまなざし。

龍頭に乗り手にした壺から小さな龍を出して天龍と対峙する、中国・八仙のひとり呂洞賓の姿は、他には見られない図像で雪村の代表作です。極端な角度で天に向かい気炎を吐く仙人の表情、反対方向になびく衣服と髭、波の表現はうずまく風を感じさせ、その迫力は強烈な印象を残します。 雪村筆 《呂洞賓図》 重要文化財 1幅 119.2×59.6cm 奈良・大和文華館蔵 【展示期間:3月28日~4月23日】

戦国時代、文化の中心地・京都ではなく、東国各地を遍歴しながら生きた画僧がいました。その名は、雪村周継(せっそんしゅうけい)。武家に生まれながら早くに出家、絵師として生地の茨城や福島、神奈川などを遍歴したその生涯は、生没年を含め謎に包まれています。しかし、遺された作品は、高い技術力とともに独特の奇抜さを持ち、いまなおその革新性に驚かされます。室町期の画僧・雪舟を継ぐ者として、自ら「雪村」と称したといわれる彼は、人気の若冲や蕭白、国芳ら “奇想の系譜”の絵師たちの先駆けとも位置づけられています。その15年ぶりの過去最大規模の回顧展が、東京藝術大学大学美術館で開催中です。雪村の作品は海外でも人気が高く、戦後かなりの数が流出しました。今回、日本の重要文化財作品はもちろん、メトロポリタン美術館、ミネアポリス美術館からも里帰りを果たし、主要な作品で彼の画業を堪能できる、豪華なラインナップです。会場は彼の滞在地を基本に時系列に綴られ、生地での修業時代から、多くの作品に触れ、画風を大きく拡げた鎌倉時代、そして彼を「奇想」と印象づける独自の大胆な作品が生まれる奥州時代、衰えない筆力の晩年までをたどります。最終章では後継者として、弟子の雪洞や雪閑、栄信ら江戸狩野の絵師たち、狩野芳崖や橋本雅邦の明治に至るまでを紹介、その影響の強さを感じます。また、琳派の立役者、尾形光琳の雪村への私淑ぶりを表す作品たちが並ぶテーマ展示では、一見対照的に思える光琳の視点から、彼を魅了したおおらかさや洒脱さを示し、より多角的に見せています。さらに、禅画って難しい…という印象も払拭する、見どころや画題のエピソードの分かりやすい解説も嬉しい配慮です。

仙人の奇妙なポーズ、山水の特徴的な描法、動物たちの精緻ながらどこか飄々とした愛らしさには、同時に波、風、空気が、みごとに表されます。しかしすべてに通じているのは、細部への視線。大きな屏風も小さな山水画も、仙人たちの豊かな表情や豆粒ほどでもしっかり描かれる風景の中の人々が…。そこには自然の移り変わりと人間の営みへの限りない愛情が感じられます。画僧・雪村の魅力は、その先駆的な表現のみならず、小さなもの、見えないものへ注がれる、その万物への愛着に由来するのかもしれません。「奇想」の源流とともに、ぜひこの細部への温かいまなざしを楽しんでください。

なぞ多き戦国の画僧「雪村」に見る、“奇想”の源流と細部へのまなざし。

魂を飛ばす鉄拐は、飛んでいるうちに弟子に身体を燃やされて戻れなくなり、近くにあった死体に入ったという仙人。ここでは彼に負けじと蝦蟇を使う蝦蟇仙人との対決が描かれます。各々が飛ばす魂と蝦蟇の軌跡がマンガのように線で描かれるのがユニークです。蝦蟇仙人が使役した蝦蟇は三本足だったとか。その描写にも注目です。 雪村筆 《蝦蟇鉄拐図》 2幅 各151.5×205.9cm 東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives 【展示期間:3月28日~4月23日】

なぞ多き戦国の画僧「雪村」に見る、“奇想”の源流と細部へのまなざし。

道術を極め、風に乗って浮き上がり移動することを得たという列子を描きます。地面と列子の姿だけのシンプルな画面ですが、いままさに“ふわり”と浮かんだ瞬間が、衣服の動きと、右上から左下へと描かれる一陣の風とともにみごとに表されています。 雪村筆 《列子御風図》 1幅 127.5×56.0cm 公益財団法人アルカンシエール美術財団蔵 【展示期間:3月28日~4月23日】

なぞ多き戦国の画僧「雪村」に見る、“奇想”の源流と細部へのまなざし。

雪村の特徴的な波濤とともに描かれる海から吹きつける激しい風が、陸の樹木をしならせ、茅屋根をひしゃげさせ、小さな画面とは思えない迫力で、自然の猛威を感じさせます。風に翻弄されつつも必死に櫓を握る一層の舟。こんなところにも、人間とその営みに対する雪村の視線が注がれています。 雪村筆 《風濤図》 重要文化財 1幅  22.1×31.4cm 京都・野村美術館蔵 【展示期間:4月25日~5月21日】

なぞ多き戦国の画僧「雪村」に見る、“奇想”の源流と細部へのまなざし。

「龍の子を取ってくる」と言って水に入った師を約束の日に待つ弟子たちの前に、巨大な鯉に乗って現れた仙人琴高は、中国の伝記集『列仙伝』に基づいたもの。思い思いの表情の弟子たちもですが、なにより暴れる鯉を足で抑え、髭を手綱代わりに飛び出した仙人の、必死(?)というか不安げ(?)な表情に注目です。 雪村筆 《琴高仙人・群仙図》 重要文化財 3幅 (中央) 121.5×54.0cm (左右) 121.0×56.cm 京都国立博物館蔵 【展示期間:4月25日~5月21日】

なぞ多き戦国の画僧「雪村」に見る、“奇想”の源流と細部へのまなざし。

奥州に滞在した雪村絶頂期といわれる時期の作品。龍虎図も彼にかかると、両者の緊張感よりも、それぞれの姿態や風景が自由闊達に描かれて、どこかしらユーモラスな雰囲気すら漂わせます。細やかな虎の毛並みや龍の鱗と、マンガのような水、背景の霧や雲の濃淡の違いを楽しんで。 雪村筆 《龍虎図屏風》 6曲1双 各155.6×350.4cm 東京・根津美術館蔵 【展示期間:4月25日~5月7日】

特別展「雪村―奇想の誕生―」

開催期間:~5月21日(日) ※会期中展示替えがあります
開催場所:東京藝術大学大学美術館
東京都台東区上野公園12-8
開館時間:10時~17時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(ただし5/1は開館)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般¥1600
http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2016/sesson/sesson_ja.htm