「パロディ」とは何か? 70年代視覚表現にその意味とパワーを見る「パロディ、二重の声」展が必見です。

  • 文:坂本 裕子

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亀倉雄策の有名な1962年のオリンピックポスターをアレンジした白黒作品から残った雑誌用の版下。ピカソやリキテンシュタイン、ビュッフェ風のスターター、「芸術品」は「芸術貧」、日の丸は缶詰のフタにしたみごとな諧謔と批判の精神は、サイズに関わらずタイトルともに軽やかにオリジナルのインパクトを凌駕しています。 横尾忠則 《POPでTOPを!》 1964年頃、作家蔵

「パロディ」。わたしたちがちょっと古さを感じながらもあたりまえに使うこの言葉。しかし、実はその意味をあまり意識せずに受け入れてはいないでしょうか。「引用」「模倣」「オマージュ」「風刺」などとどこが同じで、どこが異なるのか? どういった時に使われてきたのか? この「パロディ」に真っ向から迫った、ユニークで挑発的、そして思索的な展覧会が東京ステーションギャラリーで開催されています。

1960年代から日本のアーティストが実践し、70年代に入るとその言葉とともに社会的に大流行した「パロディ」。モダンからポストモダンへ、闘争と反抗に彩られた60年代から醒めた軽やかさを持った70年代へ。展覧会では、この時代を象徴する文化現象としての「パロディ」の技術や形式を改めて振り返り、その知略と批評のパワーと、笑いの感覚に迫ります。

レストランのメニューのような副題(これもパロディ?)が付された3章の構成は、「パロディ」定着前、「パロディ」隆盛時代、「パロディ」が提起した問題、をテーマに、視覚文化から時代の姿を浮かび上がらせます。ここでは、あえてその定義を広く捉え、時代や社会への反骨精神の表れとして表現されたもの、そうした批判も含めて醒めた目で茶化したもの、笑いそのものを楽しんだもの、と「パロディ」が時や場面に応じて変容していくさまが見られるようになっています。アート作品はもちろん、パフォーマンス、ビデオ作品、コミック、投稿型の雑誌から宣伝ポスターまで、時間軸の「前後」とともに、表現の幅としての「左右」を捉え、さまざまなジャンルや作品から立体的に検証しているのが特徴です。最後の章ではこの空前のブームの背後で進展していた裁判、いわゆる「パロディ裁判」を追います。作品は係争の対象となった表現のみで裁判の判決文と当時の報道資料で構成された、美術館の展示としては冒険ともいえる空間は、著作権法の枠外にあった「パロディ」の存在、表現とその権利についての鋭い問いを残します。

オリジナルに依拠しつつ、そこから自立した表現として軽やかに皮肉や笑いのパワーを発する「パロディ」。この表現形式がもつ“二重の声”は、コピーや加工、剽窃さえもより容易にしたデジタル時代の現代にも、時を超えてその楽しさと危険、それゆえにまとう問題を提起します。「パロディ」が放つ刺激、その幾重にも広がる軽妙な、しかし強烈な“ちから”を改めて感じてください。

「イミテーション・アート」の発想から、雑誌で見たラウシェンバーグの作品を“模作”、本人の了解を得て量産されました。社会同様、アートもアメリカからの輸入で成り立つ日本の文化状況を、POPへの賛美とともに皮肉る屈折が、ユニークで辛辣なコンセプトになっています。これも広義の「パロディ」の端緒として示されます。 篠原有司男 《Coca-Cola Plan》 1966年、個人蔵

60年代、破壊は創造であると謳い、過激な活動で知られたネオ・ダダのメンバー、吉村の作品。フランスのデザイナーによるハムの広告ポスターをリアルな3次元にし、当時盛り上がっていたウーマン・リブをもじったタイトルをつけることで、ジョークをさらに反転させて提示、加えて社会問題までをパロディ化します。 吉村益信 《豚;PigLib》 1994年、大分市美術館蔵

1974年9月から始まった営団地下鉄のマナーポスターの一枚。河北による一連の作品は、ポスターが広告を超えて部屋を飾るものとして受容された時期でもあり、希望者や盗難が相次ぐほど人気だったとか。パロディ的手法を使いながらも作者に意図がなかったものまでブームの中でパロディとして受け取られました。 河北秀也(AD) 《独占者》 1976年、公益財団法人メトロ文化財団蔵

1970年代、「パロディ」という言葉を社会に定着させたのが雑誌『ビックリハウス』でした。読者投稿を多用、パロディを前面に押し出して当時の若者たちに支持されたこの実践的パロディの体現誌は、「日本パロディ展(JPC展)」の開催につながるブームを引き起こします。創刊から全誌が並ぶ壁はその活況を伝えて壮観です。 『ビックリハウス』創刊号、1974年

モンドリアンの代表作が扉になったキャビネット。彼のミニマムな表現は、服やバッグなどデザインに多く借用されてきました。原作を忠実に再現しつつ立体化された作品は、タイトル通り「オマージュ」としての借用もパロディのひとつの形として紹介されます。 倉俣史朗 《Homage to Mondrian #1》 1975年/Cappellini 2009 ©KURAMATA DESIGN OFFICE, Special Cooperation with Cappellini Point Tokyo_Team Iwakiri Products

「パロディ、二重の声 【日本の一九七〇年代前後左右】」

~4月16日(日)
開催場所:東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1
開館時間:10時~18時(金曜日は20時まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(3/20は開館)、3/21
TEL:03-3212-2485
入場料:¥900

http://www.ejrcf.or.jp/gallery/