岩佐又兵衛の『山中常盤物語』、全十二巻一挙公開中のMOA美術館リニューアルオープン記念第2弾は4/26まで!

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    母の敵の盗賊たちをおびき寄せ、軽やかに激戦に臨む牛若は余裕なのか、戦闘好きなのか、笑みを浮かべています。さまざまな武器を手に取り囲む盗賊のひとりはすでに斃されています。刀を交える音まで聞こえてきそうな動きと迫力の描写は、マンガの劇画にもつながります。 《山中常盤物語絵巻》 伝 岩佐又兵衛勝以 江戸時代(17世紀) 紙本著色 全十二巻のうち、巻九から

    時は平安末期、平家討伐に燃える源義経がまだ牛若として、修行と応援を請うために奥州へ下ります。彼を訪ねて母の常盤が侍女とともに旅しますが、途中で病気になり、療養していた宿で盗賊に襲われて、命を落とします。夢枕に立った母の最期を知った牛若は、ひとりその宿に向かい、みごと盗賊たちを討ち果たし、母の無念を晴らして、奥州藤原氏の軍勢を引き連れての上京の際に、母の墓前に回向するのでした・・・。

    悲劇あり、活劇ありの古浄瑠璃の詞書きとともに、豪華な金彩と鮮やかな色彩に臨場感あふれるシーンが描かれたこの物語は《山中常盤物語絵巻》。江戸初期に活躍した絵師・岩佐又兵衛の全長150m超、全12巻の壮大な物語絵巻です。又兵衛がものした絵巻の中でも最高傑作といわれ、重要文化財にも指定されています。
    この《山中常盤物語絵巻》が、先月リニューアルオープンしたMOA美術館の記念第2弾として、一挙公開されています。全巻公開は3年ぶり、なかなか通しで観られる機会は少なく、貴重な公開です。

    戦国時代の武将・荒木村重の子と伝えられ、緻密さと大胆さを併せ持つ独特の画風で知られる又兵衛は、伝統的な漢画と大和絵の技術に加え、時代の庶民の風景を活き活きと描き、後世に大きな影響を与えました。ゆえに「浮世絵の祖」ともいわれます。工房を持ち、大きな特徴といわれる豊かな頬と面長の風貌と色鮮やかな画を継承させたこの絵師は、長く歴史に埋もれていましたが、近年、遺された作品の魅力と幅広い才能とが注目され、人気が高まっています。

    この絵巻でも、場面ごとに感情を露わにする牛若の表情や、常盤が旅する町の人々の営み、盗賊たちの個性あふれる野趣と殺害の凄惨さ、京に上る牛若と軍勢の豪華な武者姿など、観ているだけで彼らとともにハラハラし、涙し、喝采を上げて、物語世界へと入り込んでしまう魅力たっぷり。なるほど現代のマンガやアニメの先駆ともいわれる楽しさは、新しい低反射のガラスで細部までじっくり観られるのも嬉しい空間です。

    会場にはほかに、彼の水墨の名品《柿本人麻呂・紀貫之図》や、大和絵の精緻が光る《伊勢物語》、舞うような立姿が美しい歌仙絵の《女官図》、そして死の直前の《自画像》などの重要文化財、重要美術品の逸品たちも展示、その技量の広さと独自性をより感じさせ、傑作絵巻の誕生に厚みを加えています。

    短い展示期間ですが、今回は撮影もOK。いまこの時期にこそ、必見の展覧会です。

    物語は平家討伐のために奥州へ下った牛若とそれを迎える藤原秀衡の饗宴のシーンから始まります。初々しい牛若と、金彩豪華な宴の場面があでやかです。その牛若を訪ねて、母の常盤が侍女と道程を行く姿を描く巻三では、町の暮らしや人々の営みもリアルに活き活きと描写されているのが見どころです。 《山中常盤物語絵巻》伝 岩佐又兵衛勝以 江戸時代(17世紀) 紙本著色 重要文化財 全十二巻より、上:巻一、下:巻三から

    病を得た常盤と看病する侍女に目をつけた盗賊たちが宿に押し入る巻四は、荒々しい野盗たちと、非力な女性の凄惨な情景が描かれ、作品の白眉ともいうべきシーン。衣服をはぎ取られ、小袖を残す情けもないならいっそ殺していけ、という常盤の叫びに腹を立てた盗賊により、ふたりは無残にも殺されます。黒髪をひっつかみ、胸に刀を刺す場面には、思わず声を上げそうになります。 《山中常盤物語絵巻》 伝 岩佐又兵衛勝以 江戸時代(17世紀) 紙本著色 重要文化財 全十二巻より、巻四から

    軍勢を引き連れて平家討伐のために上京する牛若は、豪華な鎧の堂々たる若武者ぶりです。途中、仇討に協力した宿の大家に褒章を与え、母の墓前に回向する牛若で物語は終わります。付き従う武士もしぐさや顔立ちが各々豊かに描かれ、牛若の表情も武士として、上位者として、息子として、丁寧に描かれ、色もひときわ鮮やかな最終巻です。 《山中常盤物語絵巻》 伝 岩佐又兵衛勝以 江戸時代(17世紀) 紙本著色 重要文化財 全十二巻より、巻十二から

    又兵衛は、王朝文学をテーマにした大和絵も多数残しています。『伊勢物語』から、東国へ下る在原業平の宇津の山路を描いた一枚。彼の特徴である銀泥と墨を使った「霞引き」が金泥の背景に美しく、霧かかる遠景を見やる業平のしぐさや衣装は細やかに描かれ、静謐な空気をたたえた秀作です。 《伊勢物語図》 岩佐又兵衛勝以 江戸時代(17世紀) 紙本著色

    死の直前に、福井に住んでいた妻子に残したものと伝えられ、家系譜と直筆の書状が添えられているそうです。竹の椅子に腰かけ竹竿を持つ老人の姿は、戦国武将の子として生まれながら、数奇な運命で画家として生きた彼の、ありのままのようで・・・。シンプルな写実に彼の生涯を思わせます。 《自画像》 岩佐又兵衛勝以 江戸時代(17世紀) 紙本著色 重要文化財

    「義経伝説全12巻一挙公開
    奇想の絵師 岩佐又兵衛 山中常盤物語絵巻」

    ~4月25日(火)
    開催場所:MOA美術館
    熱海市桃山町26-2
    開館時間:9時30分~16時30分(入館は16時まで)
    休館日: 木曜日(休祝日の場合は開館)
    TEL:0557-84-2511
    観覧料:一般¥1,600

    http://www.moaart.or.jp