過去と未来、西洋と東洋のハイブリッド。 銀座メゾンエルメスのローラン・グラッソ展が必見です。

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    Studies into the Past|Oil on gold leaf|200 x 130 cm
    ©Laurent Grasso / ADAGP, Paris, 2015

    銀座メゾンエルメス フォーラムで、フランス人アーティスト・ローラン・グラッソの日本初の展覧会「Soleil Noir(黒い太陽)」が開催されています。ローラン・グラッソ氏は2008年に、フランス在住の最も革新的なアーティストに与えられるマルセル・デュシャン賞を受賞。近年注目を集めるマルチアーティストです。その作風は、歴史的資料や科学文献を徹底的にリサーチし、そこから得た神秘的な出来事や伝説、超常現象などを独自の表現で描き出し、それは映像から絵画、彫刻にまで至ります。作品は時間、場所、民族を超越したようなまるでSFの世界のようであると同時に、歴史的史実に基づく真実を写し出しているのです。

    今回のテーマである「ソレイユ ノワール(黒い太陽)」は、ジェラール・ド・ネルヴァルの「幻想詩集」に収録されている詩の一節から引用されているもの。作品は絵画、大理石、鏡、ネオンやヴィデオなどの中で再構成されており、見る人に様々な謎を投げかけます。

    会場構成も見どころのひとつ。日本建築の要素が独自の解釈で取り入れられており、これは、彼にとっての新たなチャレンジであり、作品の一部です。
    「自分の仕事は強いて言えば映画監督のような役目です。この空間も自分で構成しましたが、来る人が最初に目にするイメージが展覧会ではとても大切。それを意識して作った空間です。また今回は、日本初の本格的な展覧会ということもあり、日本のことをリサーチました。そうしていくうちにカソリック教徒が迫害されていた時代があったとか、兵庫県の高砂市に謎めいた巨石があるということを知り、そういったことも作品に取り入れてみました」

    制作された絵画には深い渓谷で人々がこの巨石を発見する様子が描かれており、この個展のテーマである黒い太陽が同時にその人々を照らしています。また隠れキリシタンに関しては、彼らが当時仏像の裏にキリスト像を隠していたという史実をもとに、木製の仮面の裏に黒い太陽が描かれ、設置された鏡を通してそれを見ることができます。

    こういった謎めいた作品の中でも、印象的なのは「過去についてのスタディ」の三部作。その中に巨石の作品も含まれていますが、馬上にいる人間が天にある奇妙な物体に捉えられ、あるいは照らされているような油彩画があります。これは、あきらかにUFOです。そしてこの作品も、他と同じように中世だと思われますが、時代も、どこの国かも明確には分かりません。

    同じように金箔を貼った地に絵を描く屏風の手法を取り入れた三部作や中世ヨーロッパの僧侶像と縄文時代の日本偶を組み合わせた立像など、西洋と東洋が交錯しながら、そのどちらでもないという事が強い違和感をもたらし、同時に見るものを何とも落ち着かない不安な気持ちにさせます。

    しかし、なぜかその不安感が心地良いと感じるのもまた事実。それはここにあるローラン氏の作品ひとつひとつがハイレベルで美しいというのは当然の理由ですが、自分の中に常にある漠然とした不安が形になって目に見える、そこにあるというある種の達成感を感じられるからではないでしょうか。

    そして、それを集約したような印象を受けるのが映像の「ソレイユ ノワール」。ポンペイ遺跡とストロンボリ島の噴火口をドローンを使って撮影されており、まるで火山の真上にいるように体感できます。廃墟のような遺跡にふいに現れた白い犬に導かれ歩くパラドックスに陥るような映像も神秘的かつ詩的で美しく、いつまでも、何度でもその映像を見ていたくなるような心が揺さぶられる風景です。

    このように真実とフィクション、東洋と西洋、過去と未来のハイブリッドのような作品すべてから強いメッセージ性が感じられます。
    「見る人に何かを気付かせる、あるいは考えになるベースを与えるということはアーティストの仕事です。例えば、私は地球温暖化など様々な今の私たちが抱えている問題を、私たちが振舞いを変えるのではなく、新しい科学技術によって解決するということは、とても恐ろしいことだと思っています。火山に大きな爆発物を入れてもっと大きな噴火にすることだってできるのです」。

    鋭い洞察力、説得力のある内容、豊かな才能、静かな口調、柔らかな態度、穏やかな眼差し。ローラン氏自身もハイブリッドな人柄。もしかしたら、ローラン氏自身が宇宙からの使者なのかもしれません。(大嶋慧子)

    Studies into the Past|Oil on wood panel|120 x 90 cm
    Courtesy : Edouard Malingue Gallery, Hong Kong.
    ©Laurent Grasso / ADAGP, Paris

    Studies into the Past|Oil on wood panel|50 x 31 cm
    ©Laurent Grasso / ADAGP, Paris

    Soleil Noir|16mm film transferred|11’40’’|2014
    Photos : Claire Dorn Courtesy : Galerie Perrotin, Paris.
    ©Laurent Grasso / ADAGP, Paris, 2015

    ©Laurent Grasso / ADAGP, Paris, 2015
    Photo: Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’entreprise Hermès, Edouard Malingue Gallery, Hong Kong.

    ローラン・グラッソ Laurent Grasso
    1972年、フランス・ミュルーズ生まれ。パリ、およびニューヨーク在住。パリ国立高等美術学校、クーパー・ユニオン(ニューヨーク)、セントラル・セント・マーチンズ(ロンドン)にて学び、ヴィラ・メディチ(ローマ)や ISCP(ニューヨーク)でレジデンス・プログラムに参加。近年の主な個展に、「Soleil Double」(ギャラリー・ペロタン/ショーン・ケリー・ギャラリー、2014年)、「Future Archeology」(エドワール・マラング・ギャラリー、2012年)、「Uraniborg」(ジュ・ドゥ・ポーム国立美術館、2012年)、「The Horn Perspective」(ポンピドゥー・センター Espace 315、2009年)などがある。

    「Soleil Noir(黒い太陽)」ローラン・グラッソ展

    開催期間:2015年11月11日(水)~2016年1月31日(日)
    銀座メゾンエルメス フォーラム
    東京都中央区銀座5-4-1 8階
    開館期間:11時~20時(月~土) 11時~19時(最終入場18:30)
    ※最終入場は閉館30分前まで
    休館日:不定休 ※年末年始はエルメス銀座店の営業時間に準ずる。
    入場無料
    TEL:03-3569-3300