会期は残りわずか! 尾形光琳の国宝『燕子花図』と鈴木其一の『夏秋渓流図』で、初夏を楽しみましょう。

  • 文:坂本 裕子

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金箔地に鮮やかな群青の濃淡と緑青で描かれた燕子花だけのシンプルな画面は、装飾的でデザインのようでありながら、今を盛りと咲き誇る花の生命感を伝えます。リズミカルに配される花は、部分的にパターンを繰り返して使用しています。その“コピペ”部分を探すのも楽しい。 国宝 『燕子花図屏風(右隻)』 尾形光琳筆 6曲1双 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵

東京・根津美術館で恒例の展覧会、同美術館が誇る国宝、尾形光琳の『燕子花図屏風』が展示中です。今年は、昨年サントリー美術館で大きな個展が開催され、近年評価が高まっている鈴木其一の『夏秋渓流図屏風』とのダブル展示とあって話題です。琳派の傑作が時を超えてそろい踏み、というわけです。

京都の高級呉服商で豊かな文化環境に育ち、江戸初期の文化人、本阿弥光悦と俵屋宗達に私淑し、彼らの雅をより装飾的に洗練させて、後の「琳派」の名称の元になった尾形光琳。そのモダンなデザイン性は多くのクリエイターを魅了し、絵画にとどまらず、工芸の諸分野にわたって、現代にまで継承されています。

その光琳に惚れ込んで、彼の業績をまとめつつ、自らの画風に採り込んで「江戸琳派」を創始した酒井抱一の一番弟子だった鈴木其一。早くからその画力を認められ、抱一を継承しつつも、彼の死後は、直接宗達や光琳を研究し、やがて独自の世界を創り上げました。各々がおよそ100年を隔てながらその世界を受け継ぎ、新たな表現へと昇華させた、ふたりの琳派の画師。彼らの特徴が最も表れているといえる傑作で、その共通点と相違点を堪能できます。ほかにも宗達の工房作である華やかな『四季草花図屏風』や光琳の大胆な構図がひときわ感じられる『夏草図屏風』、『白楽天図屏風』などの琳派作品、そして其一の生きた江戸後期から、大正期までの江戸=東京で制作された日本画も紹介されます。また、根津美術館のもうひとつのお楽しみは、同時開催されるコレクションのミニ企画たち。季節に合わせた展示は、「行楽を楽しむ器―提重と重箱―」と「新緑のころ―初夏の茶の湯―」。金銀の蒔絵を施したみごとな携帯用の器の数々は、その収納の工夫も含め、ため息ものの美しさです。ゴージャスな提重や重箱をお供に出かける行楽の夢にひたれるかも。初夏を演出する茶道具の数々は、ちょっとずんぐりしたたたずまいが愛おしい『青磁筍花入』を筆頭に、すがすがしい空気をもたらします。
一級品によるきらびやかさとさわやかさの競演、この季節ならではの空間では、夜間開館も実施中です。庭園では本物のカキツバタも満開の季節、陽に輝く庭の花とともに、黄昏のあわいに黄金色の作品とともに、お好みでお過ごしください!

こちらもまた緑青の苔むす岩場を群青の渓流が流れる鮮やかな画面。夏は山百合、秋は桜紅葉がそっと彩りを添えます。絢爛な風景なのに、どこかねっとりとしてシュールな静けさがただようのは、“琳派の奇想”、其一の真骨頂です。木にとまる蝉、熊笹のグラフィカルな表現にもご注目。『夏秋渓流図屏風(右隻)』 鈴木其一筆 6曲1双 日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵

写真の右隻には、桜咲く庭で蹴鞠を楽しむ公家や僧侶たち。左隻には垣根の外で待つ従者たちが描かれます。典雅な春の情景は、観ているわたしたちをもゆったりとした平安の世界へと誘います。左右隻の非対称な人物配置は、光琳の『燕子花図屏風』にもつながります。比べて観られる嬉しい趣向です。『桜下蹴鞠図屏風(右隻)』 6曲1双 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

「東海道五十三次」などの浮世絵版画で知られる歌川広重は其一と同時代人。実は彼も上品な美人画を残しています。山形の天童藩が御用金を調達した商人へ下賜するために注文したという肉筆画には、当時売れっ子の花魁高尾太夫と、お得意の風景画で吉原へと客を運ぶ船の情景が描かれます。『高尾大夫・吉原通船図(右幅)』 歌川広重筆 2幅 日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵

今年100回忌で、改めて評価が高まっている明治期の画家・渡辺省亭の作品にも出逢えます。印象派とも交流があったという彼は、卓越した筆遣いと画面構成に、透明感のある空気まで描きます。手前から奥へ、点々と色を添える睡蓮の花が、牧童の見やる遠景へと収斂するみごとな風景です。『不忍蓮・枯野牧童図』 渡辺省亭筆 2幅 日本・明治~大正時代 19-20世紀 根津美術館蔵 福島静子氏寄贈

根津美術館は、質の高いコレクションとともに庭園や茶室も自慢です。この季節、満開を迎えるカキツバタが尾形光琳の傑作とともに楽しめます。夜間開館では庭園内のNEZU CAFÉで17時からシャンパンも提供。名画と自然美、おいしいお酒、この時期だけの贅沢空間です。 根津美術館 庭のカキツバタ

特別展 「燕子花図と夏秋渓流図」

開催期間:~5月14日(日) 
開催場所:根津美術館
東京都港区南青山6-5-1
開館時間:10時~19時(入館は閉館30分前まで)
TEL:03-3400-2536
入場料:一般¥1300
www.nezu-muse.or.jp/