生まれかわった東京都写真美術館で、時間を超えた“杉本博司劇場”を堪能する。

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    「廃墟劇場」シリーズの展示風景。今回、世界で初めて披露された。

    総合開館20周年を迎える、恵比寿の東京都写真美術館。新たな愛称を「TOP MUSEUM」とし、この9月にリニューアル・オープンしました。その記念すべき幕開けは、現代美術の巨匠、杉本博司の大規模な個展「杉本博司 ロスト・ヒューマン」です。“人類と文明の終焉”という壮大なテーマを掲げ、2フロアにわたるインスタレーションで構成されたこの展示。日本では初公開となる<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>、新シリーズ<廃墟劇場>、<仏の海>の3部作からなり、杉本さんの世界観や歴史観をたっぷりと味わうことができます。

    まずは美術館の3階部分からスタート。衝撃的なタイトルからも引き込まれていく<今日、世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>は、来たるべき文明の終焉を33のシナリオと、杉本さんが蒐集した古美術、化石、書籍……などで組まれたインスタレーション作品です。全33話である理由は、後白河法皇が現世に “あの世”を実現しようと試みた三十三間堂にちなむもの。宇宙飛行士、美術史学者、カー・ディーラーなどさまざまな職業の33人がそれぞれ「今日、世界は死んだ。もしかすると昨日かもしれない。」という一節で始める架空の物語は、どこか滑稽でありながら恐ろしいほどのリアリティを帯びています。仕掛けや細部へのこだわりに満ちた空間は、写真のみならず、建築や演劇と多方面で活躍する杉本さんの集大成ともいえます。

    さて2階展示室へ降りると、1970年代から発表されているシリーズ<劇場>を発展させた<廃墟劇場>の写真作品群が。このシリーズは、実際に廃墟と化した劇場にスクリーンを設置して映画を投影。上映一本分の光量で長時間露光し撮影されたという、大掛かりなプロセスを経ています。朽ちていく空間の中で真っ白に輝くスクリーンが、“無”なのか無数の物語の集積なのか、また、過去なのか未来なのか……と想像させます。文明や歴史の枠組みを超え、“時間”という概念そのものへと導かれるわけです。

    さらに、長期間に及ぶ交渉の末に撮影された三十三間堂・千手観音の写真シリーズ<仏の海>では、“末法”の世に造られた仏の姿が、時を超えて蘇ります。杉本さんは、こう話します。

    「御堂は、朝の30分だけディフューズされた日光が射し、像の金箔がすごく美しい。それをあえて白黒で撮影したのです。今回の展示では、美術館の3階から2階へ移動し、(最後は)仏様に救われて帰ってもらいたい、と思っています」

    実際、すべてをたどり終えると、浄化されたような気持ちに。まるで一つの演劇作品を見た気分にもなる“杉本劇場”を、とくとご堪能あれ。(文、写真:中村志保)

    33の物語で構成されたシリーズ<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>の展示風景。写真は、美術史学者の部屋。

    同じく、シリーズ<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>の展示風景。写真は養蜂家の部屋より。

    同じく<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>シリーズの展示。各部屋には物語の主人公による手書きの言葉が貼られている。写真はカーディーラーのシナリオ。

    東京都写真美術館のリニューアル・オープン展を飾った、杉本博司。<廃墟劇場>シリーズの前で。

    「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展

    2016年9月3日(土)〜11月13日(日)
    東京都写真美術館 
    東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
    TEL:03-3280-0099 
    開館時間:10時〜18時(木、金は20時まで) 
    休館日:月曜 ※ただし9/19(月)、10/10(月)は開館、9/20(火)、10/11(火)は休館
    料金:一般¥1,000、学生¥800、中高生・65歳以上¥700
    http://topmuseum.jp