ぐにゃぐにゃになり、丸まり、これを革靴と呼べるのか !? フィレンツェ在住靴職人、深谷秀隆のアートを表参道で。

  • 文:高橋一史

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溶けて床に流れそうにも、液体から生まれ出てくるようにも見える靴。

靴をパーツとして用いたアート作品は、世の中に少なからずあります。人が履き込んだ靴を集めた作品、陶器のような異素材を使った彫刻的オブジェなどはその代表的なものでしょう。しかし、ここにご紹介するアート展、「靴の彫刻 ー伝統工芸の町の仲間とー」に並んでいるのは、革靴そのものです。ただ一つ異なるのは、どれも原型を留めないほどに変形され、見たことのない造形になっていること。おそらく、いわゆる芸術家なら、自分では形にできない作品のはずです。紐結び式のドレッシーな紳士靴が、本格的な製法でつくられているのですから。作品を手掛けた深谷秀隆さんは、なぜこうしたリアルとファンタジーが融合したユニークなアートを生み出せたのでしょうか。答えは、彼の職業に隠されています。

深谷さんは、イタリア・フィレンツェに自身の店とアトリエを持つ靴職人であり、シューズデザイナーでもあります。「イルミーチョ(IL MICIO)」と名付けられた店が送り出すのは、イタリアでも屈指の手縫いの高級靴。 靴の本場で認められた日本人として知る人ぞ知る存在です。セレクトショップ「トゥモローランド」のみで展開するメンズ既成靴、「ヒデタカ フカヤ ペル トゥモローランド(Hidetaka Fukaya perTOMORROWLAND)」で覚えのある人もいるでしょう。1998年にイタリアに渡り、キャリアを積んだ靴のプロフェッショナルが試みたアートへのアプローチが、今回の展覧会なのです。

フィレンツェの現代美術館「マリーノ・マリーニ」で、15年に開催された展覧会の巡回展です。今回はさらに、富山県の越中瀬戸焼などとのコラボレート作品もお目見えします。深谷さんがこれらの作品に込めたテーマ、「誕生」、「捻くれ者」、「叫び」などが聞こえてくる空間になるはず。開催場所は、東京・表参道の商業施設、「GYRE」内のギャラリーにて。ファッションタウンの中で、道具としての役割を放棄した靴を眺めるのもきっと格別な楽しさです。

長い爪先、ヒール、本体のフォルムとすべてが誇張され、変形。

自分の内面に入るように丸まって。

爪先でしがみついているのか、よじ登っているのか。

「靴の彫刻 ー伝統工芸の町の仲間とー」

開催日時:7月4日(火)〜30日(日)
開催場所:EYE OF GYRE(GYRE3階)
東京都渋谷区神宮前5-10-1
営業時間:11時〜20時
入場無料
gyre-omotesando.com