銀塩写真の魅力と未来を改めて感じる。『ゼラチンシルバーセッション 「GSS Photo Award」受賞者展』。

  • 文:坂本 裕子

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いまは遺された施設跡として静かに陽の光を受けるアウシュビッツの施設。「労働は自由への道」と掲げられたスローガンがそのあまりにも重い記憶を示します。 「ラーゲルの記憶」より © 叶野千晶

富士フイルムフォトサロンはフジフイルム スクエアの中で、写真の歴史や最新商品とともに、さまざまな写真作品を展示してきました。今年開館10周年を迎え、改めて「写真の過去・現在・未来」を見据えた企画を展開、その一環で「ゼラチンシルバーセッション(GSS)」が主催する「GSS Photo Award」の歴代受賞者による合同写真展が開催されます。

GSSとは、デジタルの台頭により急速に縮小しつつある「銀塩フィルム・銀塩プリント」の独特の表現とその維持を訴えて、日本を代表する銀塩写真作家4人が2006年に始めた活動です。2013年には写真の歴史を築いてきた銀塩感光の味を、現代にどのように表し、そして未来へつなげるか、その成果を競い、新たな世代と集うために「GSS Photo Award」が創設されます。今回第3回グランプリ受賞を果たした叶野千晶と、過去のグランプリ受賞者、嶋田篤人と池田裕一の3名による、現代の“銀塩写真”の秀作で、その魅力と可能性を提示します。

今年の受賞者叶野は1971年生まれ。高校に通えなくなり孤独と絶望にさいなまれていた青年期に出逢った『アンネ・フランクの日記』の記憶から2008年と11年に訪ねたポーランドのアウシュビッツ=ビルケナウ跡地のラーゲルがテーマです。人類史上最大の犯罪といわれるナチス・ドイツのユダヤ人虐殺を象徴する施設を、彼らの宣伝や記録にも不可欠であった「写真」の技術で写す作品はわたしたちに何を伝えるでしょうか。
第2回受賞者の池田は1980年生まれ。2011年に独立し14年からギャラリーも主催する彼の作品は、日本の両最端、北は利尻島と礼文島、南は八重山諸島で、「風」を捉えます。ともにその先は“日本”ではない、ギリギリの場所。そこからはじまり、あるいはそこでおわる、日本の風を視覚化する試みは、人間とのかかわりの中で自然の貌を情緒豊かに表し、“日本”という国への省察をうながします。
第1回受賞者である嶋田は1989年に生まれ、房総半島を中心にモノクロプリントを制作し続けています。今回は新作での展示です。お気に入りの房総半島で出会ったモノや風景を、敢えてその地の由来を感じさせないアングルで切り撮った作品は、何かを目的として提示するでもなく、そこに人為があっても意図を主張するでもなく、“そのまま”に写し撮られることで、却って表現としての力を獲得しています。

銀塩フィルムから生まれる銀塩プリント、その素材と技術が生み出すデジタルにはない独特のフォルムとたたずまいを、3人3様の詩情で感じてください。

雪の中に崩れた屋社は収容されていたユダヤ人たちの過酷な環境を思わせ、人が犯し得る残虐の可能性を今も示します。 「ラーゲルの記憶」より © 叶野千晶

日本の最南端八重山諸島の浜辺で凪いだ波の音とともに感じる海風は、やさしく、もの哀しげで、太古のはじまりといま、そして未来をつなぎ、同時に終焉をも含んでいます。 「風のはじまり」より © 池田裕一

最北端利尻の雪景色は、きびしい冬を感じさせつつも、どこか包みこむような空気を持っています。それは閉ざされながらも開く可能性を持つ“門”のせいかもしれません。 「風のはじまり」より © 池田裕一

空き地に落ちていた木には人為の傷がいくつもつけられています。意味もない傷痕が嶋田のファインダーを通して“写真”としての表情を獲得した時、モノクロームの中に豊かな詩情が生まれてきます。 「木偶の房(でくのぼう)」より © 嶋田篤人

木組みの建築物も、いまは無言で人間の手の跡だけを示します。作為というにはあまりにもそっけないその人為が手触りとともに表現となって・・・。 「木偶の房(でくのぼう)」より © 嶋田篤人

FUJIFILM SQUARE 開館10 周年記念写真展
「ゼラチンシルバーセッション 「GSS Photo Award」受賞者展」

6月16日(金)~6月22日(木)
開催場所:FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)
       富士フイルムフォトサロン東京 スペース2
東京都港区赤坂9-7-3 (東京ミッドタウン・ウエスト)
開場時間:10時〜19時(最終日は16時まで) 会期中無休
TEL:03-6271-3350
⼊場料: 無料

http://fujifilmsquare.jp/