【年末年始に行きたい展覧会】選りすぐりのヨーロッパ近代絵画を上野の森美術館で堪能。「デトロイト美術館展」を見逃しちゃもったいない!

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    弟テオを頼ってパリに来て、印象派を知ったころの自画像。それまでの暗い画面から一転、明るい画面は、右下の指の跡もお見逃しなく! 《自画像》 フィンセント・ファン・ゴッホ 1887 City of Detroit Purchase

    東京・上野の森美術館には、ただいまデトロイト美術館からヨーロッパ近代絵画の巨匠たちの名画が来日中です。

    自動車の街にあるこの美術館は、アメリカらしく、そうした企業や市民たちのメセナで支えられています。市の財政破綻によるコレクション散逸の危機も彼らによって守られ、以後1点も失うことなく、ヨーロッパおよび自国のアーティストの作品を一貫した蒐集方針で充実させています。アメリカの公共美術館として、ゴッホやマティスを初めて購入したところでもあります。

    その膨大なコレクションから選りすぐりの52点で構成された内容は、ルノワール、モネ、ドガ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、マティス、ピカソ、モディリアニ…と錚々たるラインアップで、しかも日本初公開作品15点を含みます。印象派からはじまり、ポスト印象派、ナビ派、そして20世紀美術へ、と時系列の会場はゆったりと余裕を持ち、ひとつひとつの作品をじっくり鑑賞し、対話できる贅沢な空間になっています。

    見どころのひとつは、この美術館の特徴でもあるドイツ表現主義のまとまったコレクションです。第一次大戦前夜の狂乱と不安を、激しい筆致と色彩で暴き、自然回帰を謳いあげた、カンディンスキーらによる「青騎士(ブラウエ・ライター)」とキルヒナーらによる「橋(ブリュッケ)」。大戦で世界初の近代兵器による大量死を経験した世代から生まれた「抽象表現主義」と「新即物主義」。そのアヴァンギャルドな活動が、ナチスドイツにより「退廃芸術」として弾劾されていく、悲劇と苦難の画家たちの特徴をよく表した作品が揃っています。

    もうひとつの見どころは、やはり20世紀のふたりの巨匠です。ピカソはパリに来たころの若き日の作品から、キュビスム、新古典主義時代、晩年のものまで、画業を通観できるみごとなバリエーションです。マティスはアメリカの公的美術館初収蔵の作品を含め3点が来ていますが、いずれも彼が目指した「観る人が安楽椅子に座っているような作品」としての到達点を示す傑作です。

    はるか大西洋を越えて焼失や散逸を逃れたこれらヨーロッパの名作が、今度ははるばる太平洋を渡ってきたことを思うと感動もひとしお。名作展は多いけれど、こんな粒ぞろいで観る西洋近代絵画史にはそうはお目にかかれません。ぜひお見逃しなく!(坂本 裕子)

    セザンヌが繰り返し描いたテーマ。水彩のような淡い色彩ながら、山の存在感がしっかり描かれています。 《サント=ヴィクトワール山》 ポール・セザンヌ c.1904-1906 Bequest of Robert H. Tannahill

    タヒチから一度戻ったころの自画像。傲岸な表情には、結局作品を理解されず、ふたたびタヒチに戻ることになる彼のさみしさも感じられるような…。 《自画像》 ポール・ゴーギャン c.1893 Gift of Robert H. Tannahill

    ベルリンで「青騎士」のグループ活動をしていたころの作品。まだ抽象と具象が揺れ動く躍動感ある画面が魅力です。 《白いフォルムのある習作》 ワシリー・カンディンスキー 1913 Gift of Mrs. Ferdinand Moeller

    ドレスデンで「ブリュッケ」のリーダー的存在だったキルヒナー。ナチスに追われ最後は自殺する彼の作品は、どこかあやうい不安をかきたてます。 《月下の冬景色》 エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー 1919 Gift of Curt Valentin in memory of the artist on the occasion of Dr. William R. Valentiner's 60th birthday

    マティスお気に入りのテーマ。アメリカの公共美術館で初めて収蔵されたマティス作品とのこと。床も壁も判然としないのにしっかりと室内に感じるのは、考え抜かれた構図と目に気持ちのよい色彩の配置のせい。 《窓》 アンリ・マティス 1916 City of Detroit Purchase

    「デトロイト美術館展 大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち」

    ~2017年1月21日(土)
    開催場所:上野の森美術館
    東京都台東区上野公園1-2
    開館時間:9時30分~16時30分(金曜は20時まで) 入館は閉館30分前まで
    休館日:なし
    TEL:03-5777-8600
    観覧料:¥1,600

    http://www.detroit2016.com/