泥やマスキングテープで、平面から立体を生み出す。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    青野尚子・文
    text by Naoko Aono

    泥やマスキングテープで、平面から立体を生み出す。

    淺井裕介Yusuke Asai
    アーティスト
    ●1981年、東京都生まれ。99年、神奈川県立上矢部高等学校美術陶芸コース卒業。美術館での初個展『淺井裕介‐絵の種 土の旅』展は、2016年2月28日まで神奈川県の彫刻の森美術館(TEL 0460-82-1161)で開催。

    泥や、マスキングテープを貼った上にマーカーで描くなど、自由な発想で独自の世界を生み出す淺井裕介。彫刻の森美術館での個展では、新しい試みにチャレンジしている。そのひとつが泥絵を描いたパネルの展示だ。これまでは展覧会ごとに壁に直接、泥絵を描き、終了後は消してしまっていた。今回は、以前の展覧会で描いた泥絵のパネルを持ち込み、パネルの組み合わせを変えて展示している。

    「消してしまうから描ける線や、消えてしまうものだけがもつ強さがあると思う。それを知った上で、今回は前に描いたものを組み換えることにしています。残ったものを取り込んで新しいものと混ぜることで、消すこととは違う形で残すことの意味を考えたい」 
    別の作品ではマスキングテープで立体的なオブジェをつくり、その上にマーカーで着色している。これまでは壁にマスキングテープを貼った、平面的な作品をつくっていた。
    「壁の作品が空間にせり出して立体化しています。絵画と彫刻の境界線があやふやになる感覚がいいと思う」 

    展覧会のタイトルは、「絵の種 土の旅」だ。
    「自分がつくりたいものをつくっているというよりは、場所を耕して〝絵の種〞を育てる感じです。僕の外にある力に反応して、それをどう翻訳して形にするかを考えます」 
    淺井が素材にする泥は原則として、描く場所で採取した土を使う。
    「場所によっては地面を少し掘るだけで2億年ぐらい前の地層が出てきたり、畑を耕すと8000年前の縄文時代の土が出てきたりします。その大きな流れの先に、いま自分がつくっている平面や立体の作品があるんだなと思っています。さまざまな形に変化しながら、土自体が旅をしているようなものなんです」 

    今回の個展では、ろうそくの光で作品を観賞するというスペシャルイベントも開かれる。
    「火で作品を照らしてみたいと思っていました。屋外などコンディションが一定でない環境で作品を見たり、美術館に泊まったりと、いろいろな絵の見方があってもいいと思っています」 
    時間がくると照明が消えて懐中電灯で作品を見る、窓のカーテンが開閉して絵の見え方も変わる、いつかそんな空間もつくりたいという淺井。アーティストとして活動を始めて10年、新たな始まりになりそうだ。

    works

    『Creating Here』2014年『この場所でつくる』(アラタニウラノ)展示風景。マスキングテープで立体的なオブジェをつくり着色。
    撮影:三嶋一路 写真提供:彫刻の森美術館

    『種を食べた獣』2015年 廃校になった小学校をアーティストのアトリエにした「飛生アートコミュニティー」常設作品。通常は非公開。
    撮影:国松希根太

    ※Pen本誌より転載