気張らない撮影現場から、
愛されるCMを生み出す。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    泊 貴洋・文
    text by Takahiro Tomari

    気張らない撮影現場から、
    愛されるCMを生み出す。

    浜崎 慎治Shinji Hamasaki
    CMディレクター
    1976年、鳥取県生まれ。2002年にTYO入社、ディレクターに。13年よりワンダークラブ所属。おもな仕事に、KDDI au「三太郎」、日清カップヌードル「OBAKA'S UNIVERSITY」、トヨタ自動車「TOYOTOWN」、ネオファースト生命「◯◯の妻」、トクホン「ハリコレ」など。

    KDDIのau「三太郎」や家庭教師のトライ、日野自動車などを手がける、おそらくいま日本一忙しいCMディレクター、浜崎慎治。CMディレクターとは、プランナーが考えた企画に磨きをかけながら、映像を撮って仕上げる、映画でいえば監督だ。

    大学4年の時、サントリーBOSSのCMを見て衝撃を受け、業界入り。26歳で大手制作会社の企画演出部に入ったが、実績のない新人監督に仕事は来なかった。そこで、実家の醤油店のCMを自主制作する。

    「賞を獲って、人を振り返らせたいと思いました。でも自腹ですから、お金をかけずに撮りたい。テーブルの上だけで撮影できる企画を考えたんです」
    活け造りの魚と醤油をコミカルに描いたCMが、2005年の「ACC CMフェスティバル」で受賞。依頼が舞い込み始め、出合ったのが、電通のプランナー・篠原誠だ。パイロットや家庭教師のトライなどの作品でタッグを重ね、au三太郎を立ち上げた。

    「篠原さんとは、なんでも話せる間柄。人物設定も、ダベりながら考えたんです。たとえば『桃太郎は正義感が強いけど、正義感強いヤツっていま、いる?』『いない。正義感、なくていいんじゃない?』とか。『浦島太郎は漁師で毎日陽に当たってるから、サーファーみたいな感じ?』『ロン毛でチャラくて、バカキャラだったら?』とか」

    こうして誕生した三太郎のCMが、老若男女に愛され、浜崎の代表作に。ディレクターとしては、中島哲也(温泉卓球の「サッポロ黒ラベル」)や、山内ケンジ(ソフトバンク「白戸家」)に影響を受けたという。会話劇を面白おかしく見せる手腕が光る。

    「僕自身ゆるいから、役者さんにまず自由に演じてもらって、『いいですね〜。今度はこうやってみます?』と修正していくんです。特に三太郎は、和気あいあいと、貪欲に面白さを追求していくことが大事だと思うので、現場はゆるく、アドリブも活かします」

    CMに対する絶妙な距離感も、面白さを生んでいる要因かもしれない。
    「好きだけど、しょせんCM、と思ってるんです。その方がリラックスして演出できるし、監督は緊張するといいことない。緊張しながら『こうして』と言っても、相手が身構えますから」
    するっと懐へ入り、役者やスタッフから、100%以上の力を引き出す。そうして今日も、愛すべき「しょせんCM」を撮り続けている。

    works

    日野自動車 「デュトロ 大工篇」(制作:博報堂+博報堂プロダクツ)。リリー・フランキーと堤真一の不条理劇で「日野の2トン」を訴求。

    KDDI au 「三太郎シリーズ」(制作:電通+AOI Pro.)。それぞれのキャラクターが個性的で愛らしく、2年連続CM好感度1位を独走中。

    ※Pen本誌より転載