Creator’s file

アイデアの扉
笠井爾示(MILD)・写真
photograph by Chikashi Kasai
伊藤なつみ・文
text by Natsumi Itoh

音楽は時空を超えて、美しいものを共有できる。

セイホー Seiho
ミュージシャン
1987年、大阪府生まれ。ジャズが流れる寿司屋の長男で、幼少時からジャズに親しむ。レーベル「Day Tripper Records」を主宰し、2012年アルバムデビュー。10年代のビートメイカーを代表する存在でSugar’s Campaignとしても活躍。YUKIのリミックス、矢野顕子との共演も。

「なにかをつくるのが好きで、しかも外に出して見える形になるのがすごく好き。それは自分が〝ここにいる〞という意思表示、多分コミュニケーションという行為と一緒。だから音楽は100%自分のためだけじゃなくて、100%他人のためにつくってる、みたいなところがありますね」と、表現者であるセイホーは話す。 

中学生の時に電子音楽に興味をもち曲づくりを始める一方で、トロンボーンに熱中し、高校へは音楽の推薦で進学。ジャズに興味をもったのも、「ジャズの〝吹く〞行為はカンバセーション(会話)でありながらゲームみたいなところが面白くて」。ただ、海外のミュージシャンとセッションした際、言葉のスピード、反射神経、肉体的な違いに圧倒され挫折してしまった。 

音大を諦めて普通の大学に進み、4年間を自分のつくりたい音楽制作に費やす。自主レーベルを設立、海外でも演奏するなど我が道を開拓してきた。そして、「いま鳴っている音楽にしか価値がない。音楽は、絶対に未来予知をしないと意味がない」と断言する。そんな彼は、自身を次のように分析。

「アーティストには2パターンあるという説があって、ひとつは事件が起こっているのを客観的に見てニュースを正確に表現できる報道者タイプ。もうひとつは、事件に巻き込まれて問題を話す当事者タイプ。僕は報道タイプではあると思うけど、巻き込まれてしまう事件の〝当事者〞でもあるので、自分のものを完全に抜いて客観的に事件を見ることができないんですね。あと、僕が音楽で奇跡体験を受けたから、絶対に自分も奇跡体験をつないでいく役割があると思っています」 

最新作『Collapse』で、日常にある音を素材として電子音楽にコラージュしたのも、その姿勢からだろうか。彼が語る奇跡に宿るのは〝美しいもの〞。飽きっぽい性格というが、唯一長く続いている音楽以外でも、刺繍や生け花などの美しいものに惹かれ、徹底的に凝る。いろいろ体験しつつ、その本質を分析していくのが好きだという。

「人は痛みや悲しみに共感しやすいけれど、美しいものに共感してつながったほうがすごく人間的だし、人間に生まれてよかったと感じる。音楽には、時空を超えて同じ綺麗なものを共有している瞬間がある。僕は、そこに惹かれるんです」

works

ライブでは演奏しながら自ら生け花をするなど、音楽だけにとどまらないセイホー・ワールドが全開。彼の異能ぶりを堪能できる。

ワールドデビューとなったアルバム『Collapse』。自分の思い出などを録音したサウンドを電子音とコラージュした美しい音楽。

※Pen本誌より転載