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アイデアの扉

モノトーンの絵から、温もりが伝わってくる。

平松 麻 Asa Hiramatsu
画家
1982年、東京都生まれ。大学卒業後、設計事務所で空間デザインを学ぶ。その後、銀座のギャラリーに勤め、2012年より本格的に制作を始める。美術の枠にとらわれない自由な発想で、絵画の新たな世界を追求している。寺田美術(東京・青山)にてこの夏、新作展を開催予定。

平松麻が本格的に筆をとったのは5年前。設計事務所や銀座のギャラリーで古美術や現代作家の作品に触れながら感性を磨き、じっくりと熟成させながら描いた世界は独特だ。「立体的に絵具を積層させ、乾いたらペーパーで研磨し、ミリ単位で細かな凹凸をつくっていきます。絵は平面であると同時に立体でもあると思っていて、自分が絵と過ごした時間と、その時々の気持ちの積層なんです」 

白いカンヴァスではなく、床材やベニヤ板の木っ端に描く。いまは額装しないことの方が多い。「絵は正面からだけでなく、横から見るのも絵具がこぼれた様子が見えて私にとっては見どころのひとつです。額装すると空間との境界線が生まれて、厚みや凹凸が見られなくなる。空間に馴染んで暮らしの中に絵が溶け込むのが、いまの私にとっては豊かなこと」 

キュレーターを志した学生の頃は、手当り次第に展覧会へ出かけ美術と対峙した。気に入った作品の前で、その理由が浮かぶまで、何時間でも立ち続け、答えを探してきた。「美術に興味をもち始めたきっかけは、子どもの頃のお膳の準備でした。母が集めた食器の中から、料理に合わせて器を選び、並べる仕事を毎日任されました。その中にあった漆器の表面が経年変化で変わっていく。その漆の肌に憧れて絵を描いています」

絵具を厚く塗り重ね、下地をやすりで砥ぎ出す描き方のベースにあるのは、和歌山の伝統工芸、根ねごろ来塗りだ。「根来塗りは下地に黒漆を、その上に朱漆を塗る。使えば使うほど朱色が透けて、下の黒色がにじんで出てきます。お椀の使い方ひとつで透け方やにじみが美しく変化すると、愛着も増していくんです。自分の感覚で自由に、経年変化を絵具で再現してみたい」 

感情を一気に叩きつけるのではなく、冷静に時間をかけて描かれる作品は、モノトーンだが、なぜか温かみがある。画家の温もりが絵から伝わる。「油絵はゆっくりと固まるので、積層した時に絵具と一緒に自分自身が埋もれるように気持ちも少しずつ固まっていく。ネットリとした泥の中を歩くような泥臭い感じがいまの私には合っているのかな」

神秘的で大胆さを備えた素朴で温かな作品は、観る者の純粋な心をわしづかみにする。

works

最新作『轍』(わだち)。木板に幾重にも絵具を塗り重ね、やすりで研磨したなめらかな絵肌が印象深い。

幼少時から平松自身が好んだ雲をモチーフにした『皿の上の黒煙』(2016年)。上部に見える木肌から画材が床板の木っ端であることがわかる。

※Pen本誌より転載