ネーデルラントが生んだふたりの天才奇想画家、ブリューゲルとボスに出逢える「バベルの塔」展を見逃すな!

  • 文:坂本 裕子

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ウィーン美術史美術館所蔵の作品に比べてやや小さめではありますが、画面に対して塔がより大きく、高く描かれ、そのスケール感を強く感じさせます。塔の偉容だけではありません。ミリ単位で精緻に描かれる建設に携わる人びとも驚嘆の描写です。しっかり接近してじっくり観てください! ピーテル・ブリューゲル1世 《バベルの塔》 1568年頃 油彩、板 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

かつて世界は同じ言葉を使い、同じ言語で話していました。東方から移動してきた人々は、シンアルの平地に至り住み着きます。そこで煉瓦を焼いて石の代わりに、アスファルトを漆喰の代わりに、「天まで届く塔のある町を建てて有名になろう。そして全地に散らされることのないようにしよう。」と計画します。これを見た神は、こんなことを始めたのはひとつのところに集まり、ひとつの言葉を話すせいだ、と彼らの言葉を混乱させ、人々を全地に散らしたので、塔の建設は中断しました。言葉の混乱(ヘブライ語のバラル)の原因となった塔は「バベル」と呼ばれるようになりました――。

旧約聖書にある人間の傲慢を罰した神のエピソードは、多くの画家によって描かれてきました。その中で最も有名なのが、16世紀ネーデルラントで活躍したピーテル・ブリューゲル1世のもの。彼の油彩画で現存するものは40点余、少なくとも3点の「バベルの塔」を制作したといわれますが、油彩画の2点のみが確認されています。その1点、ボイマンス美術館所蔵の傑作が24年ぶりに上野・東京都美術館に来日しています。
展覧会には、やはりネーデルラントの巨匠で、奇妙な世界や動物を描き出したヒエロニムス・ボスの油彩2点も初来日。宗教的なテーマの中に不思議な風景を持つ彼の油彩画の現存数わずか25点のうち、オランダが所蔵する貴重な2点が一挙公開されます。同時にこのふたりの天才を取り巻くアーティストたちで構成された、ボイマンス美術館が誇る珠玉の所蔵品展にもなっています。
地平線まで見はるかすパノラマと極小細密で描かれる人々の、圧倒的な想像力と驚嘆の技が、シュールな現実感をもたらす《バベルの塔》はもちろんですが、ボスやパティニールらの影響を受けながら、独特の観察眼で表した彼の数々の版画も必見です! 奇想画家ボスも、多くの他の画家たちが追随したそのイマジネーション豊かで奇天烈な世界に惹きこまれること間違いなし。いずれも敬虔な宗教観から制作されながら、写実と想像が結合したフランドル独特の世界にたっぷり浸れる空間です。

再来日を記念して、漫画家・大友克洋がインスピレーションを得た作品も入り口に特別展示されます。『INSIDE BABEL』と名づけられたそれは、ブリューゲル好きの彼が、《バベルの塔》の綿密な構造の検証と自身の想像力によるスケッチを実作と合成させて塔内部を描き出しています。こちらも見逃さないで!

タイトルの通り、その身なりや靴、持ち物から、彼が定職者ではないことが示されます。振り返る家は白鳥の看板、抱き合う男女や用を足す男から娼家であることがわかります。後ろ髪をひかれるのか、立ち寄ったことを後悔しているのか、入れずに悔しがっているのか・・・。人生には多くの誘惑と選択の瞬間があることを表すそうです。 ヒエロニムス・ボス 《放浪者(行商人)》 1500年頃 油彩、板 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

ある巨人が子どもを背負って川を渡ると、だんだん重たくなってきます。子どもに問えば、「世界と世界を創造する者を背負ったからだ」との答え。子どもはキリストであることを悟り、以後「キリストを担ぐもの」と名乗った聖人を絵にしたもの。背景の廃墟には怪物、木の上には水差形の住居、熊を吊るす猟師など、意味深で不思議なものが配されているのがボスらしいです。 ヒエロニムス・ボス 《聖クリストフォロス》 1500年頃 油彩、板 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands (Koenigs Collection)

ブリューゲルの下絵によるこの版画には「ヒエロニムス・ボスの構想による」と添えられたものもあるそうです。ネーデルラントのことわざを描き、次々と大魚から小魚が出てくるのが面白いです。足の生えた魚や空飛ぶ魚など、不気味でかわいい(?)ボスの使用した不可思議な生物も描かれています。 下絵:ピーテル・ブリューゲル1世、彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン《大きな魚は小さな魚を食う》 1557年 エングレーヴィング Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

その退廃ぶりが神の怒りに触れ、焼き尽くされた街ソドムとゴモラ。右端に唯一救われたロト一家が天使に導かれて街を去る姿があり、岩場の左にふり向くなという神の禁止に背いたロトの妻が小さく石に変わっています。聖書の意味は隅にやられ、夜空を焼く業火が強烈な風景となっています。デューラーも敬愛したネーデルラントの最初期の風景画家の作品。 ヨアヒム・パティニール 《ソドムとゴモラの滅亡がある風景》 1520年頃 油彩、板 Loan Netherlands Cultural Heritage Agency, Rijswijk/Amersfoort, on loan to Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

初期ネーデルラントの聖像彫刻は大きな工房を構え、国内外の教会の需要に応えていたそうです。表情も衣服の襞もみごとな木造にも注目です。奇怪な化物を描いたボスも、民衆の生活を描いたブリューゲルも、こうした敬虔な宗教的土壌から作品を生み出し、これら彫刻家の祭壇を飾ることもあったのです。 アルント・ファン・ズヴォレ(推定) 四大ラテン教父(聖アウグスティヌス、聖アンブロシウス、聖ヒエロニムス、聖グレゴリウス) 1480年 オーク材 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

ボイマンス美術館所蔵「バベルの塔」展

開催期間:~7月2日(日)
開催場所:東京都美術館
東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9時30分~17時30分(金曜日は20時まで、入室は閉室30分前まで)
休室日:月曜
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入室料:¥1600

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