本場の流儀でオーダースーツを愉しむ。

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:小暮昌弘

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「ベルベスト」のソフトな味わいを選ぶか、「ディージ&スキナー」で英国流の男らしい仕立てを望むか……。いま、いちばん旬なオーダーメイドのスーツを紹介します。

「ベルベスト」の名前を世に出したのは、バーニーズ ニューヨーク。レディメイド(既製服)のスーツでもそのソフトなフィット感とエレガンスなテイストには定評がありますが、パターンオーダーではさらにサイジングやフィット感を高め、自分好みの生地や仕様が愉しめます。
イタリア屈指の名門ファクトリー、ベルベスト

「べルベスト」は、1964年、アルド・ニコレット氏によって、北イタリアのパドヴァで創業されたブランドです。ブランド名は、イタリア語で「美しい服」という意味で、北イタリアらしい職人的なスーツづくりに加え、旬な味わいを表現できるスーツ専業のファクトリーとして知られて、ヨーロッパの一流メゾンのスーツなども手がける名門中の名門です。
バーニーズ ニューヨークでは、オリジナルレーベルのスーツの製作を1970年代からこの名ファクトリーに依頼し、ものづくりの確かさに敬意を表し、「ベルベスト フォー バーニーズ ニューヨーク」(以下べルベスト)のブランド名を付けたスーツを世界に先駆けて販売しました。ソフトで軽い着心地とエレガントさが薫る仕立ては世界中のスーツファンから絶賛され、襟付けや袖付けなどはいまだに職人的なハンドメイドという逸品です。パターンオーダー(バーニーズでは、「メイド・トゥ・メジャー」と呼んでいます)はイタリアからモデリストが来日して採寸を行い、日本とは異なるイタリア独自のメジャーメントが実際に体験できるのも嬉しいポイントです。
ミケーレさんとともに日本でのオーダー会のために来日したフランコ・マラゴンさん。「フランク・シナトラもオーダーでスーツをつくりましたよ」。
毛芯を使った本格的かつエレガントな仕立て。パドヴァのファクトリーには300人のスタッフがスーツを製作しています。
フィットしていく様子がわかる、名人の採寸テクニック

日本でもパターンオーダーでスーツをつくる時には、「ゲージ服」といわれるサイズ見本のスーツを着ますが、ベルベストの場合はゲージ服を着るまでは一緒ですが、そこからが日本とは違います。モデリストがゲージ服にピンを打ち、細部を詰めてフィットさせます。ビスポークの仮縫いに近い感覚で、着る人もフィッティングの具合を確認できます。
「メーカーそれぞれが独自の方法で採寸していますが、ベルベストではずっとこの方法でやってきました」とモデリストのミケーレ・ジアレッタさんは語ります。彼がスーツ各所にピンを打った後、寸法を計測し、オーダー表にサイズや修正事項などを書き入れます。顧客の体型や注文されたモデルによっても、選ぶ型紙や中の構造物も違ってきますので、採寸するのは、ミケーレさんのような本社のモデリストだけです。現在は2人が世界中を回って注文を取っているそう。工場の縫製の工程と職人たちのテクニックから生地による仕立ての違いなど、ベルベストのスーツづくりのすべてを熟知していなくては、顧客の要望に応えるスーツはつくれないと信じているから、こうした手間のかかる方法で注文を取っているのです。しかし一度採寸すればデータが本社に保存されるので、後は好みの生地や仕様を選んで、いつでも新しいスーツをオーダーすることが可能なのです。

べルベスト、イタリア流スーツの真髄。

モデリストのミケーレさんは、ベルベストのスーツにおいていちばん肝心なところは「肩とアームホールだ」と語ります。「肩とアームホールのフィットがしっかり決まれば、自ずと胸=チェストが美しく仕立てられます。これらが上着を着た時にいちばん最初に感じる部分で、べルベストのスーツづくりの基本ともいえます。日本人は猫背で前肩の人が多いのですが、手をやや前方に付け、後ろと前の身頃のバランスを変え、体型に合うように注意してつくります」と言うミケーレさん。すでに何度も日本で採寸しているので、欧米人と日本人の体型の違いや好みもよく知っている様子。最近、日本では上着の着丈を短めに仕立てる人が多いのですが「それもイージーですよ」と笑いながら話します。しかもベルベストは、日本やイタリア、アメリカをはじめ、ワールドワイドなマーケットをもっているので、世界のスーツトレンドやスーツ好きな人の嗜好をすばやく吸収しながら、製品に反映し、最新モデルを開発します。こうしたモデルも含め、イタリアの旬なスーツをオーダーできるのもベルベストのパターンオーダーの特徴のひとつに違いありません。
フィッティングは背中から。背中にピンを打って、余分な生地をつまんでいきます。
各所にピンを打って、フィッティングを完璧にした後、メジャーでサイズを計測します。ピンを打つ様子は仮縫いのような雰囲気で、着ている人にもフィット感が確かめられます。
オーダー表。各所のサイズと注意事項などを書き込むのもモデリストの役目です。こうしたオーダースーツの価格は23万~(未定)。次回のイベントは、2014年2月7~8日(銀座店)、2月9日(横浜店)、2月11日(新宿店)、2月14~15日(神戸店)、2月16日(福岡店)で予定されています。
イタリア流のオーダーメイドを日本で堪能。

ベルベスト流のオーダーメイドの仕方を簡単に説明しましょう。まず上着を着ないで胸とウエストを測って、試着するゲージ服を選びます。これにピンを打って採寸していくので、ゲージ服がないモデルは残念ながらオーダーすることはできません。背中からピンを打ち始め、肩甲骨などの部分のフィット感を計測します。裾を持ちながら上着自体を前後に引っ張り、日本人特有の体型などの調整も忘れません。脇の下などの生地をつまんでアームホールを完璧にフィットさせた後は、肩まわりのフィットをチェックし、なで肩やいかり肩などの調整ももちろん行います。そのほか各所にピンを打った後、上着を脱いでモデリストのジアレッタさんが各部の実寸サイズと注意事項などをオーダーシートに書き込みます。オーダーシートは本社に保存され、仕立てられたスーツの織りネームには、顧客の名前も入ります。体型さえ大きく変わらなければ、次回からは生地を選べば、いつでも自分仕様のスーツをつくることができます。
現在バーニーズ ニューヨークでオーダーできるのは、ソフトコンストラクションの535モデル、モード的な180モデル、クラシックな610モデル、大見返し仕様のナロースタイルの125モデルなど多数。535モデルではピークドラペルのフォーマルスーツをつくることも可能です。生地はスーツ、ジャケットとも100種類以上が用意され、30種類以上のボタン、20種類以上の裏地も選べます。完成までの製作期間は約3カ月となっています。

サヴィルロウの伝統を日本にいながら味わえる。

英国スーツの故郷といわれるロンドンのサヴィルロウは、日本の「背広」の語源ともいわれる場所です。そのサヴィルロウで1865年に創業された老舗が「ディージ&スキナー」で、今でも創業者一族によって運営されている数少ないテイラリングハウスのひとつです。サヴィルロウ10番地にあるテイラーでは今でも昔ながらのビスポーク=フルオーダーのスーツのみを手がけていますが、5代目の当主ウィリアム・スキナーさんが、イセタンメンズとコラボレーションして2013年秋に日本で発表したのが、メイド トゥ メジャーのラインです。ブランド名も自身の名を冠して「ザ・スタイルゲイト サヴィルロウ バイ ウィリアム・スキナー」(以下ウィリアム・スキナー)と名付けました。サヴィルロウのスーツといえば、構築的な肩のつくりと美しいシルエットをもつ「イングリッシュドレープ」と呼ばれるモデルが特徴ですが、このスーツもそのエッセンスを活かしながら、モダンなデザインにリファインしたモデルといえます。スーツ好きにはホットなニュースではないでしょうか。
アーカイブモデルをベースに現代的なエッセンスをプラスしてデザインされたスーツ。
英国では、エリザベス女王の護衛兵や王立騎馬砲兵隊のスーツを仕立てていますが、1984年から王室御用達を授かっています。
今回はスタイルの提案もしたいと、気に入ったネクタイやチーフなども一緒に展示。ロンドンではシャツのビスポークやパターンオーダーも行っています。
英国王室御用達の名テイラーがデザインした自信作。

150年近い歴史をもち、エリザベス女王をはじめ、バーレーンやオマーンからもロイヤルワラント(王室御用達)を授かる名門テイラーの当主ウィリアム・スキナーさん。自身の名を冠したブランドのために選んだのは、自身作のスーツ1型のみ。シングルブレストで、幅広のラペルと高めのゴージラインをもったモデルは「男らしく、しかもファッショナブルなラインで、英国的なウエストのシェープがポイント」とスキナーさん。ディージ&スキナーのアーカイブにあったモデルをベースに現代的に洗練させたモデルで、随所にサヴィルロウらしい味わいが残されています。「英国の伝統的なスーツを若い方の気持ちに合わせてデザインし直し、なおかつ新しいスーツの着方も提案していきたい」と語ります。パンツはウエストがノープリーツでフレッシュさが薫るデザインですが、「生地の薄いものに関してはダブル、生地の厚いものはシングルで裾を仕上げることを提案していきたい」と着こなし術をも含めて提唱します。生地の違いによるスタイルの提案は新鮮で、テイラーらしい気配りともいえます。オプションでベストもつくれるので、英国らしいスリーピーススーツの着こなしも愉しめます。今回のスーツの製造は日本の信頼あるファクトリーで行われていますが、4代目マイケル・スキナーさんとともに工場まで出向き、縫製からプレスの仕方まで現場で指導するほどの熱の入り方で、インタビュー時にスキナーさんが着用されていたのも、自身がデザインした日本製のスーツです。
日本には4度目の来日。「スーツでもカジュルでもきっちりと着こなしている人が日本は多いですね」と日本のファッションセンスの高さを語ります。今回のプロジェクトでは「自分の着たいものをデザインしたい」とボディを堂々と見せる美しいシルエットの自身のブランドのスーツを着こなします。英国と日本が見事にコラボしたパターンオーダーモデルといえます。
英国流をエレガントに、フレッシュに表現したスーツ

「お客様をエレガントでスタイリッシュに見えるようにスーツをつくることが私の使命です、それに着心地がうおく、着ていて愉しい。このすべてが成立しないと、そのスーツを着たくないでしょう。スマートで、カッコよく見えて、きれいに見える、これが私の仕事です」と語るスキナーさん。彼によるメイド トゥ メジャーのスーツを着られるのは日本だけ、です。まず店内にあるゲージ服を着て採寸を行い、各所を調節して、フィットをより完璧に。英国らしさたっぷりのスーツを自分仕様で注文できます。生地は、伊勢丹新宿店メンズ館「紳士服メジャーメイド」で扱う豊富な生地の中から好みの素材を選べますのが、その数なんと1,000種類以上。必ずや好みの生地を探すことができるでしょう。2013年9月には、デビューを記念してウィリアム・スキナーさんを招いての採寸会が行われましたが、今後もこうしたイベントやオーダー会限定の素材なども計画されています。価格は¥99,750からとコストパフォーマンスも非常に高く、製作期間は約4週間から。サヴィルロウまで行かなくても、日本で英国流のスーツづくりができるのです。