101年目の新製品“ライカSL”が、いよいよ登場。

  • 写真、文:ガンダーラ井上

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現代のカメラの原型を生み出したライカ。創業101年目となる今年2015年に発表したのは、フルサイズセンサーを搭載した、ミラーレスカメラでした。創業の地ウェッツラーで開催された発表会をレポートします。

ライカカメラ社CEO オリバー・カルトナー氏と新製品。

APS-Cサイズのセンサーを搭載したライカ初のミラーレスカメラ「ライカT」から1年。今度はフルサイズセンサーを搭載したミラーレスカメラが登場しました。創業から101年目に登場した「ライカSL(Typ601)」の気になる実力とは? ライカの本拠地ドイツ・ウェッツラーで行われた発表会の模様を交え、その魅力に迫ります。

ライカが辿った、革新の歴史。

1914年、初めてライカで写真が撮られた場所を示す記念碑。

私たちが現在イメージするカメラのひな形を生み出したのはライカです。その歴史を紐解けば、ドイツ・ウェッツラーの地で1914年に最初のライカのプロトタイプとして知られるウル・ライカ(ウルはドイツ語で「元祖」の意)によってシャッターが切られたのがすべての始まりです。当時のカメラは大きな木箱にレンズを装着した様式で重く、かさばり、素早く操作することも困難でした。そんな中、エルンスト・ライツ社(現在のライカカメラ社)の技術者オスカー・バルナックは、映画用フィルムを使用する新型カメラを発案。

初めてライカで撮られた場所、アイゼンマルクト。

それまでのカメラとは比較にならないほど自由で軽快な撮影を可能にしたライカは、ほどなく小型速写カメラの代名詞となり、写真の世界に革命をもたらします。ライカで最初に撮影された有名なモノクロ写真があるのですが、その写真と同じ建物が平然とそこにある。これこそヨーロッパですね。日本から持参したライカを構えて記念碑の上に立ち、いまから101年前のライカ設計者の視座を共有させていただきつつ、シャッターを切りました。

ライカ発明の父、オスカー・バルナックとヴィンテージ・ライカ。

ライカの凄いところは、それが戦前のモデルであっても適切な整備がなされていれば現在でも撮影が可能であること。しかも新鋭機と同時に使ってもあまり違和感がない。それは、写真撮影の本質を知っているからこそ可能なモノ作りの精神が継承されているからなのだと思います。

満を持して登場した、ライカSL(Typ601)。

レンズの形をした、ライカカメラ本社へ。

中世の伝統的な街並の残るウェッツラーにおいて、その革新性が際立つのがライカ本社。カメラのレンズや双眼鏡をモチーフにした新社屋には、生産部門、設計部門、マーケティング部門などが入り、写真とカメラの歴史や未来を知るための展示スペースも設けられています。

CEOのオリバー・カルトナー氏(左)と社主のアンドレアス・カウフマン博士。

ライカのこれからを牽引していくCEOと社主の基調講演には自信があふれ、かつてドイツのコンシューマー向けカメラ産業が日本メーカーにより駆逐されたころの面影は一切ありません。すなわち、ライカがライカたり得る理由が明確になったということです。

発表された新製品、ライカSL。

これが、発表された新鋭機ライカSL(Typ601)。フルサイズ2400万画素のCMOSセンサーを搭載した、レンズ交換式のシステムカメラ。デジタル撮像素子の大きさを表すフルサイズとは、フィルム時代にライカが決めた撮影サイズそのもので、別名ライカ判とも呼びます。

ライカSLの透視イラストレーション。

外見はミラーボックスのある一眼レフに似ていますが、それにしてはボディ部分が薄い。その理由はミラーを介さず、レンズからの光を撮像素子がダイレクトに受けるミラーレス式だから。ライカSLの名称は、ドイツ語でミラーレスを表すシュピーゲルロス(SPIEGELLOS)から採用されたとのこと。

一流品の手応えを備えたカメラ。

初公開のライカSLを試す。

実機に触れることのできるコーナーには、世界中から集結したライカフリークが目を輝かしていました。ライカSLを手にした第一印象は、ほかのカメラではあまり感じることのない“一流品”の手応え。優秀な機能に加え、性能表に記載されないずっしりとした仕立てのよさを感じます。

中近東やアジアからも熱い視線が注がれる。

言うなれば、STデュポンのライターやモンブランの万年筆などに通じる、単なる道具以上の何かがもつバイブレーションを感じます。ヨーロッパで生産される逸品の数々は、欧米のみならず中近東やアジアでも人気。もちろん日本人もライカの素晴らしさを理解しています。

ライカSLによるシューティング。

スタジオ撮影で実写体験。ライカSLはボディにシーリングを施したタフな仕様でアウトドアでの活躍が期待されますが、スタジオでの主力機としてもその能力を存分に発揮できることをアピール。このカメラなら、プロの現場でも立ち会いのクライアントさんが一目置いてくれるでしょう。

社主と気鋭の写真家によるトークセッション。

発表会の翌日には、トークセッションも開催。現代におけるフィルムの存在理由や、写真とプリントの関係など写真表現の本質に関わる議論を展開。社主のアンドレアス・カウフマン博士の写真文化に対する深い造詣と洞察力がライカに与える影響は、重大なのであります。

伝統と革新のカメラづくり。

プロダクトマネージャーのステファン・ダニエル氏。

発表会のあとには、工場や社屋を見学。レンズのカタチをしたライカ本社は、螺旋階段で各階にアクセスします。ぐるぐる歩いて登っていくと開発担当のダニエルさんがライカSLで狙っている。こっちもすかさずライカを抜いて、同時にレリーズ。写真を撮るのが大好きでカメラに愛情をもった人であることは、その構え方でわかります。

2014年に操業開始された工場の内部。

新社屋の中にある工場は、操業開始から1年半が経過してもピカピカの宇宙ステーションみたいな雰囲気。このクリーンな環境下で各種ライカの光学、機構、電子部品が組み上げられ、極めて厳格な検査機器による検品を経て製品として世界中に送り出されます。

自動化に頼らない、人の手による工程。

これは、レンズの端に反射防止の黒い塗料をのせるというデリケートな工程。やわらかい光と静寂に包まれた空間で、粛々と作業を進める手さばきが美しい。超近代的な設備の中で、歴史に裏打ちされた手仕事が生きています。伝統と革新が混じり合うことでライカは作られるのです。

ライカSLと標準ズームレンズ。

ドイツ製品らしいシンプルで均整のとれた外観に、革新的な技術と圧巻のパフォーマンスを内包した宝物のようなカメラ。ライカSLは、さまざまな撮影状況に対応するプロフェッショナル向けの製品ですが、もちろん野心的なアマチュア写真家にも最上級の撮影体験を提供してくれるはずです。ライカMとはまた違った魅力をもちながらも、やっぱり所有欲をそそられる、ライカらしい名品といえるでしょう。(ガンダーラ井上)

ライカSL(Typ601)
2400万画素CMOSセンサーを搭載したミラーレスカメラ。センサーは35mmフルサイズ、光学ローパスフィルターレス構造。感度範囲はISO50~50000。11月末発売。ライカストア価格¥993,600

ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.
新世代のミラーレスシステムカメラ、ライカSL用に専用設計されたズームレンズ。11月末発売。ライカストア価格¥669,600

問い合わせ先/ライカカメラジャパン TEL:03‐5221‐9501
http://jp.leica-camera.com/Photography/Leica-SL