ライカの本流“ライカM10”、いよいよ登場。フィルムライクな仕様に、昔からのMシリーズファンも熱狂。

  • 写真、文:ガンダーラ井上

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ライカのレンジファインダー式デジタルカメラの最新モデルM10が、いよいよ発表されました。ライカ創業の地、ウェッツラーで開催された発表会の様子と実機の撮影インプレッションをレポートします。

発表されたばかりのライカM10に群がる世界各国の報道関係者。

ドイツの代表的カメラブランドであるライカ。そのイメージの中核となるモデルがM型ライカです。今回の発表会で設定されたコミュニケーションワードは“LEICA M10 THE CAMERA”。かなりの直球勝負です。永遠の定番としての責務を果たすべく、デジタルの最新機種であるライカM10はどのような仕様になっているのか? 世界各国からドイツ・ウェッツラーのライカカメラ本社に詰めかけたプレス関係者の熱い視線の中、ついにそのベールが剥がされました。

往年のフィルムカメラを思わせる、スリムなボディ。

社主のアンドレアス・カウフマン氏と新旧ライカ。

社主のアンドレアス・カウフマン氏のキースピーチから、会見は始まりました。壇上には、小型速写カメラの原点であるウル・ライカ(ウルはドイツ語で「元祖」の意)の現物が登場。いつもはドイツの某所で厳重に保管され、目にすることが許されないカメラ。人類の秘宝です。すなわち100年以上も継続するライカの歴史を背負うのが、今回登場したライカM10の役割となります。「ライカが掲げるDAS WESENTLICHE(ダス・ヴェーゼントリッヒ)というスローガンは“本質”を意味します。ライカはこれまで培ってきた伝統に基づき、一切の妥協をせず、時代を超える価値をもつ革新的なカメラをつくり続けています。写真撮影の本質を追求することで生まれた新製品、それがライカM10なのです」と、アンドレアス・カウフマン氏はライカM10の登場を高らかに宣言しました。

M型フィルムカメラのようなスリムなボディのライカM10。トップカバーとベースプレートは真鍮からの削り出し。

これがライカM10の外観です。シャープなエッジとスッキリしたフォルムで、ゴテゴテしたデジタルカメラを見慣れた目からすると往年のフィルムカメラみたいにも見える清楚さと凛々しさを感じます。発表会場ではハンズオンできるコーナーが設けられていたので、さっそく触ってみます。気さくな雰囲気の社員の方から、「あなたはフォトグラファー? M型ライカは持っていますか?」と問われ、「そうですね。M3、M4、M5、M6、M7それとM9-Pを持ってます」と答えるとやや驚いた様子の笑顔。「M9-P以外はすべてフィルムのライカですね。フィルムのM型が好きなら、M10もきっと気に入ると思いますよ!」と、比較用にフィルム機のライカM7を出してきてくれました。

ボディのサイズが近い、ライカM7(左)とライカM10(右)。

驚いたことにフィルム機のライカM7とデジタル機のライカM10のサイズは、ほとんど同じなのです。特に厚さに関してはテクニカルデータで見ると0.5ミリしか違わない。実はいままでのMデジタルは、フィルム機のM型ライカより数ミリですけど厚かったのです。その数ミリが気になっていた身としては、手のひらが憶えている“いつものM型ライカ”の近似値を脳が認識してすごく気持ちいい。これは画素数が増えたとか連写速度が上がったとか、何かの数値を倍増させようとする価値観とは別の視点でカメラをつくろうとする姿勢がないとできないことだと思います。

“削ぎ落とす”ことに価値を見出す、伝統の哲学。

ライカM10プロダクトマネージャーのふたり。

商品企画に携わるステファン・ダニエル氏(写真左)と、イェスコ・フォン・オェーハウゼン氏(写真右)によると、新しいM型に寄せられたユーザーの要望に応えたのがライカM10とのこと。最も多かったリクエストはボディの薄型化。次に多かったのはムービー撮影機能の削除だそうです。何か新機能を付加することにはネガティブな反応が多かったとのこと。M型ライカは、写真が撮れれば十分。そんな考えのユーザーに向けてライカM10はつくられているのです。ちなみにオェーハウゼン氏の手にしたライカM10に装着されているのは1930年代につくられていたライカの標準レンズ、ズマール50ミリ。このレンズは昔々、オェーハウゼン氏のお婆さまがお爺さまにプレゼントした品物で、お父さまから受け継いだとのこと。ライカは親子孫の3代にわたって使われるものなのだなと、感心させられました。

ライカM10のために新設計された撮像素子ユニット。2400万画素フルサイズセンサーを採用。

M型ライカの伝統を正しく具現化すべく、ライカM10用には撮像素子ユニットを新設計しているそう。何層にも連なる光学・電子デバイスの配置を見直してまで薄型化を図る。1954年に登場したライカM3以来のM型ライカ特有の光学式レンジファインダーを継承するだけでなく、ボディの厚みに起因する握り心地も伝統のM型ライカに近づける。何とも粋な方法論で最新技術を使っているのもライカらしいです。

ライカカメラ社CEOをライカM10で撮影。

ライカカメラ社CEO、オリバー・カルトナー氏によると、ライカのシリーズの中でもM型に関しては日本を含むアジア地域で特に人気が高いとのこと。そして最近では若い年齢層のユーザーからもM型ライカは関心を向けられている。そんな分析結果が後押ししてくれたのか、何とドイツ滞在中にライカM10で試写させてくれることに。まずは、お互いに最新のライカM10で撮り合いです。昨夜のハンズオンですこし触っただけですが、いきなりの本番撮影でもM型ライカの使いかたを知っていれば何の違和感もなく自然に操作して撮れました。これこそM型ライカの真骨頂です。

ウェッツラーの風景をライカM10で撮影。

日の短い季節ですが、ライカM10を持ってウェッツラーの市街に出てみます。レンズはライカ ズミクロンM F2/35mmASPH.。それにしても、1月のドイツは寒いです。夕暮れ時で気温はマイナス4℃。光が少なくなってきたので絞りは開放のまま。そして感度を1600に上げます。この操作が、フィルムカメラだと巻き戻しノブがあった所に新設されたISOクリックダイヤルを引き上げて回すという極めてアナログ的な操作で可能になっています。背面モニターのボタンも数を絞り込んで大型化しているので、手袋をしていてもプレイバックの操作などストレスなく実行できました。

モニター横に設けられたボタンは3つのみ。

ライカM10の背面を見るとモニターの横にあるボタンは3つだけです。これが5個だと、たぶん手袋をしている時点で操作性に問題が出てくるでしょう。要素を絞り込むことで、利便が生まれる。この潔い決断こそライカ流です。

ライカM10は、ライカの中のライカ。

フランクフルトの街並みをライカM10で撮影。

翌朝もライカM10に定番の広角レンズ、ライカ ズミクロンM F2/35mmASPH.を装着して歩き回ります。コンパクトで高性能なレンズで、カメラを持っていることを周囲にひけらかすことなくササッと撮るには好適な組み合わせ。感度ダイヤルは100にセット。絞りはf8でフォーカスリングは2mにセット。あとは出会い頭にフレーミングして撮ります。M型ライカは、いわゆるスナップショットの技法で撮影するのが楽しいカメラです。まるでフィルム機のM型ライカみたいな握り心地と、歯切れのいいシャッターの感触。これこそライカ。と写欲がモリモリと湧き上がります。数日の試用でしたがライカM10、かなりの好感触でした。

シルバークローム仕上げのライカM10。正確無比な光学式レンジファインダーを搭載。

伝統と革新技術の融合により、写真撮影に必要なものだけを凝縮した最新カメラ。1954年のライカM3から脈々と連なるフィルム機のM型ライカを知る人にも、これから初めてM型ライカの世界に踏み込もうとする人にもお薦めしたい、カメラの中のカメラです。(ガンダーラ井上)

ライカM10

¥918,000(ライカストア価格、レンズ別売)
問い合わせ先/ライカサポートセンター TEL:0120-03-5508