【EOS M6×6senses:写真×ファッション】デザイナー・菊池武夫にとって、“写真”はいかなる存在なのか?

  • 文:三木匡
  • 写真:TISCH
  • ムービー:谷山武士/ディレクション、TISCH/撮影、ホンマカズキ/編集、INDEEA/音楽

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日本のファッションシーンを作り上げた伝説的存在にして、いまなお精力的に活動し続けるデザイナー、菊池武夫。そのクリエイションと写真の関係に迫りました。


1970年代、日本中を席捲したDCブランドブームの火付け役としてシーンに登場して以来、日本におけるメンズファッションの第一人者として、およそ50年にわたり活躍を続けるデザイナー・菊池武夫さん。シーズンごとのコレクションの撮影など、ファッションにとって「写真」は切り離せない存在です。
「ファッションという“瞬間のもの”をつくっているので写真にはすごく憧れがある」と語る菊池さんご自身、日常的にカメラを持ち歩き、写真を撮られるといいます。2012年に「TAKEO KIKUCHI」ブランドのクリエイティブ・ディレクター復帰と同時にオープンした旗艦店、「TAKEO KIKUCHI渋谷明治通り本店」2階に構えるアトリエに菊池武夫さんを訪ね、そのクリエイションと写真の関係に迫りました。

菊池武夫さんのクリエイティブの原点には写真があった。

60年代に注文服の制作からキャリアをスタートした菊池武夫さん。顧客から直接得た服に対するリアルな要望を原点に、既製服のシーンでは現実感のある“リアルクローズ”の旗手として注目を集め、いまや伝説的と言える存在となっているのはご存じのとおりです。そんな菊池さんにとって、クリエイティブの原点の一部になっているのが「写真」なのだそう。

「子どものころ、よく写真を模写してイラストを描いていました。鉛筆一本で、写真をそのとおりに描くっていうのが好きでした。人物というより、クルマの写真なんかをね。写真がもっている陰影──当時はほとんどモノクロでしたから、余計に白から黒に至るグラデーションにすごく惹かれて」

菊池さんはご自身でも、かなり写真を撮られるといいます。
「仕事ではプロの写真家の方にすべてお任せしますが、海外に出かける時にはよく写真を撮っています。一回の旅行で1000枚くらい撮ることもあります。普段も、自宅から1時間強かけてアトリエまで歩くんですが、その間、好奇心を刺激されればシャッターを押します。カメラはデジカメとスマホ、両方使います」

“仕事”でシーズンごとに発表されるコレクションの撮影は、毎回そのテーマに合ったフォトグラファーを起用。これまで国内外のフォトグラファーと、数多くコラボレーションされてきました。

「1985年には、アーヴィング・ペンにニューヨークのヴォーグのスタジオでポートレイトを撮ってもらったのがすごく嬉しいことでした。1981年のメンズビギ時代に、繰上和美さんと撮ったコレクションの写真も大好きで大事な写真です。ロンドンから招聘した素人の子たちをモデルに、代々木公園で撮ったんです。パリから帰国後、最初のコレクションで、私の服作りのテーマであるリアルクローズの原点を表現できたことが、第2の出発点にもなった。繰上さんの写真は服作りとシンクロしてました」

ファッションと写真のつながりは、その後もさらに続いていきます。
「植田正治先生とは、1983年に京都で行ったコレクションのテーマがノスタルジックな雰囲気とアバンギャルドの融合だったこともあって、この時初めて仕事が実現しました。後から知りましたが、当時、正治先生は奥様を亡くされた直後でもう二度と写真は撮りたくないと漏らしていたそうです。それでも仕事が実現したのは以前から友人であり、アートディレクターとして活動されていた正治先生のご子息、植田充氏の熱い説得によるもので、今まで一度もファッション写真を撮られたことがなかった正治先生も大いに創作意欲が湧いたそうです。植田正治調の作品の中に私がデザインした服がすっぽりとはまった感じで、後にも先にも、あんなに素晴らしい写真はないと思う」

二度と戻ってこない一瞬を残す、写真の重要性。

写真を撮ることも好きで、数々のフォトグラファーとコラボレーションも実現してこられた菊池さん。その創作活動にとって、「写真はある種、勉強の教材」なのだそう。

「写真集が大好きで、長い創作活動の中で集めた色々なジャンルの写真集を持っています。デザインに直接関係するものはあまりないのですが、過去の時間を切り取った写真の中からしか、その時代の雰囲気を見ることが出来ないので、貴重な参考書になっています。19世紀末から20世紀初頭の写真集からは、洋服の原点のようなナチュラルな服づくりに大いに刺激を受けた時期もありました。それは現代の工業生産的な服づくりとは違う、人の手を感じさせる服づくりの良さなのです。そういう意味もあって写真の大事さを強く感じてしまいます」

冒頭の「写真への憧れ」も、そんなファッションと写真の関係とつながっています。
「僕らの仕事は、デザインして、それがいくつかの工程を経て服になり、店頭に並びます。シーズンが過ぎればいつの間にか新しい服に変わってしまうのが宿命なのです。それは産業としては健全な成り立ちですが、一瞬の出来事として終わってしまいます。写真は、素晴らしい写真家の人たちを通して、その出来事を永遠に残すことが出来る。だから写真は私にとって重要なのです」

写真への憧れを率直に口にされる菊池さんご自身、写真を撮られますが、その写真表現にはどんなこだわりが?

「僕はプロじゃないんで(笑)、写真での表現というところまではあんまり入り込んではいないですね。ただ普通に切り取った画面じゃなくて、僕流の目線がちゃんとわかるような写真の撮り方をしたい、とは思ってますけど。普段からそうやって撮ってるから、コラボレーションするフォトグラファーを選ぶときに、“この人はこういう写真か”というのはすぐにわかります」

そういう菊池さんの撮った膨大な写真を拝見していると、ビルや路地などとりとめもなく見えるスナップ群に、だからこそ菊池さんならではのスタイルが感じられてきます。
「撮るのは風景が多いんだけど、もう、上を見たり下を見たり、めっちゃくちゃ(笑)。見境ないでしょ? でも、非日常的なものではなく、日常の風景が好き。日常を、あんまり日常に見えないように撮りたい。他のデザイナーでもね、写真を撮るのが好きな人がたくさんいますよ。自分のスタイルを完成している人は、みんな写真がうまい。びっくりするくらい、普段見ているものの目線が違う。だから、写真って面白いなって思いますね」

目の前の風景をいろんな視点で写真に切り取ってみることで、クリエイティビティが刺激される。“リアルクローズ”は、そうやって生み出されてきたのかもしれません。

人が触れるものにはすべて、デザインが必要だ。

写真の模写を原体験に、日常を独自のスタイルで写真に切り取り続ける菊池さん。日常的に身に着けるカメラには、デザインが不可欠だといいます。

「僕ね、人が触れているものはすべて、デザインを優先すべきだと考えているんです。機能優先でデザインになるっていうこともありますけど、基本的にデザインが欠けていると、世の中、美しくなくなって人間というのは集中力がなくなるから。お洒落をすれば、それなりの動きを意識するでしょ。いつも意識がある、つまりいつもデザインを身に着けていることが大事なんじゃないかな。そういう意味では、カメラも装身具の一部かもしれない」

今回の新型ミラーレスカメラ「EOS M6」にどんな印象をもたれたのでしょうか?
「かわいいね、サイズが小さくて。でも、手に持った感じがすっごい安定してていい。それと、ダイヤルの造形がいいね。最新のデジタルカメラなのに、昔のフィルムカメラと同じような感じで、この打っているような、削っているような質感がすごくいい。機能としてもよいのだろうけど、美しさもあるよね。特に男性の特性だと思うけど、道具を工芸品のように意識するところがありますよね。カメラはそれが最も強いんじゃないかと思う。それを意識してデザインされているから、すごく深く満足できる可能性がある」

普段から撮影に親しんでいる菊池さんの手にも、「EOS M6」はすっと、最適なポジションで収まったのが印象的でした。ファーストインプレッションはまだまだ続きます。
「古い人はファインダーのほうが撮りやすいんだけど、電子ビューファインダーをセットすれば、レンジファインダー的に撮れる。モノクロも撮れる? じゃあすごくいいね。シャッターの押し心地も位置も、小さいけど手の動きがすごく研究されていますね」

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