【EOS M6☓6senses:写真×音楽】くるり・岸田 繁を勇気づけた、写真家たちとの刺激的なセッション。

  • 文:高野智宏
  • 写真:日高正嗣 ​
  • ムービー:谷山武士/ディレクション、日高正嗣/撮影、INDEEA/音楽

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多彩な音楽性でシーンに独自のスタンスを築くロックバンド「くるり」のフロントマン、岸田 繁。彼が「大いに影響を受けた」という写真家たちへの想いや、趣味として楽しむ写真との関わりについてお話を伺いました。


ロックを根底にジャズやテクノ、クラシックにワールドミュージックと、アルバムごとに多彩なサウンドアプローチを展開し変容し続けるバンド「くるり」。ヴォーカルとギターを担当する岸田 繁さんは大半の楽曲制作も手がける、まさしくバンドのフロントマンです。

そんな岸田さんにとって写真は、幼少の頃より家族や生まれ育った京都の自然、そして、自他ともに認める〝鉄ヲタ〟らしく、電車などをカメラに収めてきた身近な趣味。また、「焦りや不安ばかりだった」約20年前のデビュー当時には、知り合った写真家たちから「勇気をもらった」と振り返ります。そんな、岸田さんと写真、そして、彼を奮い立たせた写真家たちとの出会いを、創作の現場であるプライベートスタジオで語ってもらいました。

“本物感”を感じられるカメラに愛着がわきます。

岸田さんのインスタグラムには、美味しそうな料理に草花など自然の風景がズラリ。もちろん、テレビ番組「タモリ倶楽部」の人気コーナー「タモリ電車クラブ」では、数少ないゴールド会員にも選ばれるほどの鉄道ファンだけに鉄道写真も多いかと思いきや、その割合は意外にも少なめのようです。

「撮るよりは乗りたいというか。また、僕はいわゆる“音鉄”なんで、乗ってモーターの音を録音してる方が多いですね(笑)。いや、鉄道写真の世界ってものすごく厳しいというか難しい世界で、極めている方を尊敬はしますけど僕はその世界には入り込めないな、と。なので、いまは電車の写真もスマホで自分の観賞用に撮るくらいですね」

簡便さから現在はスマートフォンでの撮影が多いという岸田さんですが、カメラとの付き合いは古く、子どもの頃からインスタントカメラなどで撮影を楽しんでいたと振り返ります。

「また、高校の頃には、親父の一眼レフを借りて海や草花、動物や電車などを習慣的に撮っていましたね。いや、全然使いこなせていなかったんですけど……」

カメラとの付き合いは、岸田さんが本格的に音楽活動を始めた大学生時代にも続きます。メジャーデビュー前のインディーズ時代には、ライブを告知するフライヤーやCDジャケット用にと、バンドメンバーとよく撮影していたといいます。

「当時はプロのカメラマンに頼むお金なんてありませんから、そこは自分らでと(笑)。ただそのかいがあってか、メジャーデビュー後のセカンドシングル『虹』では、ベースの佐藤征史が撮った写真がCDジャケットに採用されたんです。川面に空や山のシルエットが映った雰囲気のあるいい写真だったので、『あ、これにしよう』って」

いまもデジタル一眼レフカメラをはじめ、複数台のカメラを所有し撮影を楽しむ岸田さんは、カメラを「愛着というか、すごく好きなモノのひとつです」といいます。

「スマホも便利なんですが、カメラといえばやはりちょっと重さがあってファインダーを覗けるヤツがいい。実はギターも肩に掛けた時にドシッとくる感じのヤツが好きなんです。しっくりくるというか“本物感”みたいなものを感じるんでしょうね」

機械との向き合い方が、個性として現れる。

昨年、バンド結成20周年を迎え、デビュー曲「東京」から最新曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」を収録した3枚組の記念アルバム「くるりの20回転」をリリース。プロのミュージシャンにもファンが多く、音楽シーンに確固たる地位を確立する「くるり」。しかし、デビュー当時はその独特な音楽性やスタンスが、華やかなエンタメ業界の雰囲気や当時のシーンの潮流に「僕らが存在すべき位置がわからない焦りや不安があった」と語ります。

「京都のローカルバンドで、東京に音楽仲間なんていません。ましてや当時はCDバブルの真っただ中。このきらびやかな世界で何をどうしていいのかわかりませんでした」

そんな岸田さんに勇気を与えたのが、知り合ったカメラマンの存在だったといいます。

「この世界に入って、佐内正史さんをはじめHIROMIXや大橋仁くんなど、多くのカメラマンと出会いました。彼らの作品の、ぼんやりした時代感に潜んだエッジーな感覚、そして、コンセプト作りから撮影、プリントにいたる手作り的な手法が、僕らの音楽や考え方ととても近かった。それを知った時、僕らは間違ってへんなと勇気をもらいましたね」

また、彼らの姿勢には、楽曲制作にも多大な影響を及ぼしたといいます。

「みな表現の方向は違えど一貫した世界観をもった方たち。そんなカメラマンたちとの撮影では、僕らは同じ風景を見ていたんだと感じる瞬間が何度もありました。写真から影響を受けて曲ができたということはないのですが、そうした一瞬でわかりあえる瞬間の感覚は、楽曲制作の意識的な面において大いに影響を受けているとは思います」

デビュー当時の岸田さんが仕事を通じてカメラマンから勇気づけられた半面、岸田さんの楽曲に励まされたという若手カメラマンとの出会いもあったようです。

「奥山由之くんという若手のカメラマンから、逆に僕が話したようなことを言ってもらえました。彼は僕が影響を受けたカメラマンと同様のアナログな手法で、いまを切り取っている人。佐内さんやヒロミ(ックス)ちゃん、大橋くんらを彷彿させるカメラマンですよね。童貞くさかったのに、いまやお洒落カメラマンになりやがってと思いますけど(笑)」

ファインダーが撮影する悦びを教えてくれる。

撮影することはもちろん、「写真鑑賞も大好きなんです」という岸田さん。鑑賞となる対象は、人物や動物、自然に建築物と多岐にわたるといいます。

「写真集が好きなんです。人物なら荒木(経惟)さんや大橋くんの写真がすごく好きで。あとは動物や植物ですね。動物といってもパンダとかじゃなく、なんというか生態系を感じたり新種発見的なもの。そう、ナショナルジオグラフィックで取り上げるような珍しい動植物モノはめっちゃ好きですね。沼地に咲いたわけわからん花とか、そんな写真集を見つけてはしょっちゅう買ってます。いや、もちろん、パンダもかわいいんですけどね」

その一方、撮られることに対しては「未だに苦手ですよ」と苦笑します。

「アーティスト風の雰囲気を要求されると厳しいですね。ただ、撮る人の主張や気持ちを感じられる撮影は楽しいし、撮ってもらってよかったと思います。あ、以前、人のアホな瞬間を天才的にキャッチする梅佳代ちゃんに、わりと重要な写真を撮ってもらったのですが、すべての写真で僕のチャックが全開だったことも。さすがですよね(笑)」

そんな、撮影と被写体双方の楽しさを知る岸田さんに、キヤノンからこの春に発売された新型ミラーレスカメラ「EOS M6」の印象を伺いました。

「ちょっと懐かしさを感じるデザインもいいし、なによりこの持った感じのフィット感がいいですね。さっきも少し言いましたが、スマホやコンパクトカメラにはない適度な重量感も感じられる。うん、やっぱこう持った時に、これやなって感覚を覚えますよね」

また、なにより岸田さんがM6に共感を覚えたのが、電子ビューファインダーの存在です。

「やはりファインダーを覗くという行為が、カメラで撮影している気分にさせてくれますよね。これは感覚的なことですが、ディスプレイを見て撮るのとファインダーを覗いて撮るのでは、撮影する楽しさはもちろん出来上がりにも差が出ると思う。あの、僕、望遠鏡を覗いて遠くを見るのが好きなんですが、その感覚と似てますねぇ、うん」

「せっかくだから」と、スタジオを飛び出しM6で撮影を始める岸田さん。元来のカメラ好きとあって、神田川沿いに咲き始めた桜を夢中に撮影します。

「やはり、こういうカメラを持つと撮影にハマりますね(笑)。もちろん、『あぁ、キレイやなぁ』と思う風景や光景にカメラを向けるんですが、あまりにもキレイすぎると逆に撮れない。カメラマンさんみたいにその美しさを写真で表現できる腕がないですから。そんな時は写真家やったらなと、ちょっと悔しさを感じますね」

では、岸田さんならM6でどんな被写体を撮影するのでしょうか。

「なんだろう、カッコつけて言うとやはりインスピレーションを感じるモノなんでしょうが、たとえば日本海沿いの田舎町や東南アジアの国へ行って、風景や草花、昆虫などをパシャパシャと5枚ほどね(笑)。や、僕あんまりたくさん撮らないんですよ。誰に見せるわけでもないし、プロが作品撮るのとは違い自分の観賞用ですから。うん、でもこのカメラだったら、もうちょっと撮りたくなるかもしれませんね」