オーデマ ピゲ、ヴェールを脱いだ2016年の新作とは?

  • 写真:宇田川淳
  • 文:並木浩一

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スイス・ジュウ渓谷のル・ブラッシュで、1875年に創業された機械式時計の名門ブランド「オーデマ ピゲ」。2016年1月、ジュネーブでお披露目された華麗なる最新作を、いちはやくご紹介しましょう。

いまを遡ること約140年、1875年にスイス・ジュウ渓谷のル・ブラッシュで創業された、機械式時計の名門「オーデマ ピゲ」。世代を超えて受け継がれてきた伝統に最新テクノロジーを融合させ、時計ファンの心を揺さぶりつづけているこのブランドから、2016年も素晴らしい新作が発表されました。1月のジュネーブ、高級時計の国際見本市であるSIHHにて世界にお披露目された“噂の時計”の全貌を、いちはやくお届けしましょう。

ミニッツリピーターの歴史を変えた“スーパーソヌリ”

ジュネーブでお披露目された最新作「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」。

オーデマ ピゲからこの時計が今年誕生したことは、永く忘れられない出来事になるでしょう。「歴史に残る腕時計」はそうそう生まれるものではなく、その貴重な瞬間に一度立ち会えたことは、間違いなく記憶に残す価値があります。

「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」は、それだけの価値がある腕時計です。音で時刻を知らせる腕時計の超絶機構をフランス語で「ソヌリ」と呼びますが、ミニッツリピーターはその中でも時・分をオンデマンドで知らせる、ソヌリの最高機能であるといってよいものです。さらにこの時計が“超ソヌリ”=「スーパーソヌリ」を名乗ったということは、“最高を塗り替えた”という、恐ろしいほどの自信に満ちた宣言なのです。

ミニッツリピーターであり、トゥールビヨン機構を備えたクロノグラフでもある超複雑時計ですが、この時計は既にその位置にとどまってはいません。革新されたのは、ミニッツリピーターの本質である“音”そのものです。従来のミニッツリピーターの音は、しばしば「か細く可憐な」と表現されてきました。それは息を止めて耳を澄まし、愛でるのにふさわしい音色です。一方「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」は、懐中時計のような音響で、しかも豊かな音色を奏でるのです。

特徴的なケースバック。裏蓋にうがたれた開口部から、“サウンドボード”で増幅されたゴングの音色を響かせる。

それはざわめきの中でも、その澄み渡る音色が鳴ることに気づいてふと皆が耳を澄ますような、魅力的な強度と能動性をもった未知の音色です。打鐘ではなく打奏する、チャイムではなく楽器と呼んでいいミニッツリピーターが、初めて人間の手で完成したといってもいいでしょう。音はただ大きいだけでなく、心地よく鼓膜を刺激します。音叉のような乾いた単音ではなく、豊富な上音と倍音を含む金属の体鳴楽器の音が奏でられるのは、誰にとっても魅惑の初体験なのです。この「より大きく伸びやか、より豊かで美しい」奇跡的な音色を導くためには、きわめて高度で独創的な技術が開発されたことはいうまでもありません。

ミニッツリピーターの音は、細いゴングを小さなハンマーで叩くことで生まれます。従来のミニッツリピーターでは、ゴングはムーブメントに固定され、ケースは防水性をもたせているために、音の伸びには制限があります。一方「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」では、そのゴングを時計部分から完全に独立させ、金属製の“サウンドボード”に接続する独創で、音の詰まりを解放しました。こうしてより増幅された、伸びやかな音のダイナミズムが開けたのです。

さらに打奏の構造を素材レベルから再検討し、増幅される原音にはよりピュアで正確な音階とピッチ、ハーモニーが課されました。革新的なシステムが導入され、リピーター機構のレギュレーターのノイズも、ほぼ無音に追い込まれています。

「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」手巻き、トゥールビヨン、クロノグラフ、チタン、ケース径44mm、ケース厚16.50mm、パワーリザーブ約42時間、シースルーバック、ラバー製ストラップ、防水20m。¥64,530,000(予価、9月発売予定)

バイオリンの名器のように芸術のレベルで評価される音を備えた超絶腕時計の誕生は、決して偶然や幸運の恩寵ではありません。発想から製作にいたるすべての段階で人智の最高難度を達成した結果であることの証拠は、いたるところに見つけることができるでしょう。たとえば、本来ミニッツリピーターは時・15分の倍数・1分の順に時刻を鳴らすものです。
そのためいままでのミニッツリピーターでは、毎時1分から14分の場合には“素”のタイムラグが生じていたのですが、「スーパーソヌリ」は15分の打奏をスキップし、ただちに次の音に移る、いままでにない新機軸を備えています。また典型的な故障の原因である「リューズを引いた状態でリピーター機構を操作」しようとすると、リューズ自体が引っ込む秀逸な安全機構にも注目です。
これだけの複雑さの一方、20mの防水までも装備しています。美術品クラスの存在であり、その誕生自体がひとつの歴史的な出来事でもある「ロイヤル オーク コンセプト・スーパーソヌリ」は、間違いなく実用できる腕時計でもあるのです。

「ロイヤルオーク」の魅力を広げた、イエローゴールドの登場。

ケース素材にイエローゴールド、ダイヤルカラーにブルーを纏い、新たな魅力を見せつけた「ロイヤル オーク」。

ことしオーデマ ピゲが打ち出したロイヤル オークの“イエローゴールド”の新作コレクションは、腕時計界に大きな話題を提供しました。サイズも機能も、またジェンダーすら異なるレディス向けモデルを同じ素材で統一することで、まったく新しいダイナミズムが生まれ、それがきわめて魅力的であったからです。

その新しい試みのフラッグシップ的な存在が「ロイヤル オーク・パーペチュアルカレンダー」のブルー文字盤モデル。鮮やかな青とイエローゴールドの輝きが目を射抜く、水際立った存在感は斬新の一言です。イエローゴールドは時計の伝統的な高級素材であり、オーデマ ピゲも創業時の懐中時計から用いていた貴金属です。最近では多彩なマテリアルがケースに使われますが、そうした現代であるからこそ、イエローゴールドがいま、むしろ新鮮に映るともいえるでしょう。昨年登場したピンクゴールド、SS(ステンレススティール)と合わせて、魅力的なトリニティが完成したことになります。

「ロイヤル オーク・パーペチュアルカレンダー」自動巻き、18Kイエローゴールド、ケース径41mm、ケース厚9.5mm、ムーンフェイズ、パワーリザーブ約40時間、シースルーバック、18Kイエローゴールド製ブレスレット、防水20m。¥10,260,000(予価、3月発売予定)

「一生もの」の腕時計をひとつの理想像とするのであれば、永久カレンダーはその理想をさらに未来に向けて延長する存在です。閏年をも判別して正確な暦を刻んでいく天文系の複雑時計は、世代から世代に受け継がれ、世紀を超えていくための品といってもいいでしょう。ブルーダイヤルにイエローゴールドケースを纏って登場した新作「ロイヤル オーク・パーペチュアルカレンダー」は、そうした「世紀もの」にふさわしい品格を備えた腕時計です。

曜日、日付、月、閏年表示、“アストロノミカル“ムーン、インナーベゼルのポインター式の52週表記を備えた、複雑で多彩な要素を、“グランド・タペストリー”パターンのブルー文字盤がスタイリッシュに統合します。ムーンフェイズのアベンチュリンベースの色味も深く、魅力的な夜空を描いています。

そもそもスイス・ジュウ渓谷のル・ブラッシュの時計ブランドであるオーデマ ピゲは、永久カレンダーはじめコンプリケーション・ウォッチの手練。その技術が遺憾なく発揮された複雑時計が、しばしば複雑時計の桃源郷とも評されるジュウ渓谷の夜空のような、紺青の文字盤を纏うのです。理知の極みがロマンティックであるという、奇跡的な高みにある腕時計です。

新たな魅力をアピールする、クロノグラフと37mmケース。

「ロイヤル オーク・クロノグラフ」自動巻き、18Kイエローゴールド、ケース径41mm、ケース厚10.8mm、パワーリザーブ約40時間、18Kイエローゴールド製ブレスレット、防水50m。¥6,102,000(予価、3月発売予定)

イエローゴールドの「ロイヤル オーク・クロノグラフ」の登場は、今年のSIHHで心躍るニュースの代表格でした。そもそも現代を代表するラグジュアリーなスポーツウォッチ、しかも人気のクロノグラフである上に、新たな魅力のイエローゴールド。新しいスター誕生の予感が説得力をもって伝わってくる、オーラに満ちたモデルです。

オーデマ ピゲならではの大胆な造形の妙と、それとは裏腹に繊細な仕上げがどちらも遺憾なく発揮されています。フェイスのほぼ全体に効かせたヘアラインは、エッジに施されたポリッシュ仕上げと、絶妙のコントラストを描きます。サブシダリー・ダイヤルをゴールドで囲ってみせる、粋なブルー文字盤も魅力的。イエローゴールドの存在感をほどよく抑制した上品な光沢は、操作ボタンまわりの古典的なフォルムと相まって「ゴールドで上品」という時計上級者の課題を、華麗にクリアして魅せます。

「ロイヤル オーク・オートマティック」自動巻き、18Kイエローゴールド、ケース径37mm、ケース厚9.8mm、パワーリザーブ約60時間、シースルーバック、18Kイエローゴールド製ブレスレット、防水50m。¥4,752,000(予価、3月発売予定)

「ロイヤル オーク」の魅力を再確認するラグジュアリーかつシンプルな魅力のモデルが、新たな流行を予感させるサイズの37mmケースで登場したことは、今年のSIHHで見逃せない話題に挙げられます。イエローゴールドの新作コレクションの魅力が最もピュアに伝わってくる3針モデル、「ロイヤル オーク・オートマティック」の誕生です。

タペストリーパターンの文字盤は、ニュアンスのあるブルーと清冽なシルバーの2色がお披露目されました。腕時計史上の傑作と評されるロイヤル オークの特徴的な8角形のフォルムは、あえて小さめの37mm径を採ることで、端正なプロポーションが引き立ちます。そして濃密なラグジュアリー感、ノーブルな佇まい。手首の細い日本人に的確なサイズを得て、親密な感情を初めて抱くファンの増加が確実な、名品ロイヤル オークのニューフェイスです。(並木浩一)

問い合わせ先:オーデマ ピゲ ジャパン TEL 03-6830-0000