50年前の名作チェアをアップデートした、ポール・スミスの手腕。

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:高橋一史

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家具の歴史に偉大な名を刻む北欧デンマークの家具デザイナー、ハンス J. ウェグナーの名作を
華やかなテキスタイルで彩ったポール・スミスへのインタビュー。

ストライプこそ、ポール・スミスの証。

ポール・スミスがアレンジしたのは、ハンス J. ウェグナーの代表的な5種類のチェアとソファ。CH07(シェルチェア)、CH28、CH24(Yチェア 別名ウィッシュボーンチェア)、CH445(ウィングチェア)、CH163です。ここではイージーチェアと呼ばれる、リビングでくつろぐタイプのCH07(上写真左)とCH28(上写真右)をご紹介します。部屋の空間に華やかなアクセントを与えるストライプのテキスタイルが、座面と背もたれに使われています。「ストライプはポール・スミスのアイコン的なモチーフだよ。ストライプを配すると家具のシェイプが際立つこともあって、カール・ハンセン&サンとのコラボレーション企画を進めるうち、このデザインにすることを決めたんだ」とポール。
CH07は美術館のラウンジなどにもよく置かれ、どの角度から見ても見栄えのするフォルム。シートは、天然ウール素材。
CH28は座面が大きい。奥に傾斜したアームレストつきで、ゆったりとリラックスできる。
テキスタイルを製造したのはアメリカの「マハラム」社です。「信頼しているメーカーで、ここのテキスタイルを以前にデザインしたこともある。イギリスにもいい生地屋さんがあるけど、主にスーツ用の服地だからね。マハラム製のものは家具に合う耐久性があり、ハイクオリティ。今回のテキスタイルは撚りを強くして発色を高めた糸を、高密度に織ったものだ。何度もテストを重ねて実現した自信作だよ」。チェアは同じ型でも柄の見え方違いで数バージョンあります。このことにも、ポールらしいユニークなデザインの発想が。「イスを横に並べていくと、ビッグストライプの色がつながって見えるのが分かるかな? 一脚だけでも成立するけど、数脚を配置したときに表れる色の連続性を狙ってみた。CH07とCH28を並べたりして、違うチェア同士を組み合わせても楽しめるよ!」。

アナログな作業によるデザインの良さ。

ハンス J. ウェグナーについて、「とても尊敬している、デザイナーの中のデザイナー」と語るポール。「50年代前後の家具は決して快適ではなかったけど、座り心地の良さと美しさとを兼ね備えるチェアを生み出したのが彼」。ダイニング用のYチェア(1950年)は当時から現在までつくり続けられているベストセラーであり、ほかのチェアも歴史に名を残すプロダクトとして高く評価されています。「3本脚」としても有名なCH07は、実は1963年にデザインされながら、合板を曲げる製法が難しく商品化できなかった幻の逸品。時を経た97年になり、ようやくカール・ハンセン&サンが現代の技術を駆使して復刻させました。ポールいわく「いまでは彼らのアイコニックなチェアになったね」
高い技術により成型された「CH07」。
インタビュー終了後に、カール・ハンセン&サンのスタッフのリクエストでチェアの裏に記した直筆サイン。
インタビューの間中いつも笑顔だったポールの顔つきがシリアスになり、熱く語ったエピソードがあります。それは、手仕事でデザインすることの意義について。「ストライプの配色は、パソコンのモニタを眺めながら簡単に色をチェンジしてつくったものじゃないんだ。アトリエで糸を細く切って並べて巻きつけながら、お互いの色同士がどのように作用し合うかを実際に確かめてる。もちろん、テキスタイルとして織ったときの糸の立体感、色の絡まりや手触りも丹念に調べつつ完成させてるんだよ。現代はフェイスブックやツイッターのインターネット時代。だからこそ実際に目にして、感触も確かめる行為がとても大切なものだと思っている」。ローバー社の小型車「ミニ」をはじめ、「ロディア」のノート、「エヴィアン」のボトルなど多様なデザインのコラボレーションを行う彼による、経験に裏付けられた提言です。時を超えて協業した二人の偉大なデザイナーによる家具を店頭に見に行き、座り心地や手触りの良さを実感してみてはいかがでしょうか。

カール・ハンセン&サン フラッグシップ・ストア
東京都渋谷区神宮前2-5-10 青山アートワークス1F・2F
TEL:03-5413-5421
営業時間:11時~20時(月~金)、12時~19時(土・日・祝日)
www.carlhansen.jp


問い合わせ先/ポール・スミス リミテッド TEL:03‐3486‐1500
paulsmith.co.jp