“丸見え”の焙煎工場が楽しい、スタバの新しい旗艦店。

  • 写真:齋藤誠一

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焙煎工場を併設した「スターバックス・リザーブ・ロースタリー・アンド・テイスティングルーム」が、昨年10月シアトルに誕生。世界中から注目を浴びる斬新なコンセプトストアを、現地で徹底取材!

焙煎作業を見学しながら、リザーブコーヒーを味わう。

1920年築の建物を改築してつくられた店舗。
日中は多くの地元住民や観光客で賑わう。
成田空港から直行便で約10時間。アメリカ北西部に位置するワシントン州最大の都市シアトルにやってきました。緯度のわりには温暖で過ごしやすい一方、雨の多い地域といわれていますが、取材時は雲ひとつない晴天。現地に着いてさっそく「スターバックス・リザーブ・ロースタリー・アンド・テイスティングルーム」を訪れると、店内は多くの観光客や地元の住民らで大賑わいでした。

食品や雑貨などの露店が並び、スターバックスの1号店もある観光名所「パイクプレースマーケット」。スタバの新店舗は、そこから北東に向かって約1.3km、最先端のショップやカフェが軒を連ねるキャピタルヒルの坂の上に位置します。
カフェスペースの向こうには、焙煎工場を併設。
焙煎機も間近に見学できる。
店名にもある通り、世界で初めて「リザーブ」のみを扱う店舗として企画されました。リザーブとは、個性豊かな香りと味わいをもつ希少な豆を使った、2010年からスターバックスが提供を始めたプレミアムコーヒー。その時々で収穫できる種類も量も違うため、店や時期によって楽しめる種類はそれぞれ異なり、世界の限定された店舗で提供されています。1000店以上ある日本では、現在約50店のみで取り扱われています。そんな希少なリザーブコーヒーをいちから楽しみつくすというのが、この店のコンセプトです。

重厚な木の扉を開けるとまず目に飛び込んでくるのは、客席スペース越しにある、稼働中の焙煎工場。焙煎機や巨大なタンクが並び、ロースターたちが焙煎のための作業をこなしています。工場のスペースと客席側を隔てるのは、高さ70センチメートルほどの透明なアクリルの柵のみなので、いま飲んでいるコーヒーが、どのような焙煎工程を経て提供されているのかが一目瞭然です。
焙煎したての豆が天井のパイプを通って、5台の容器に溜められていく。
フレンチプレスやサイフォン、バキュームプレスという特殊な方法で抽出するブリューイングマシン「クローバー」などが揃う、メインのカウンター。
客席スペースの中央に位置するメインのカウンターには、フレンチプレスやサイフォン、バキュームプレスという特殊な方法で抽出するブリューイングマシン「クローバー」、コンピューターでドリップ量が制御されたマシンなど、さまざまな方法でコーヒーを淹れる設備が整っています。カウンター中央上部に設置された5台の容器は、まるでモニュメントのような存在感。焙煎されたての豆が天井に張り巡らされたパイプを通って、種類ごとにここへ溜められます。バリスタたちはここから豆を取り出して、一杯ずつ淹れていきます。カウンターには客席も設けられ、その様子を眺めながらコーヒーが飲めるのも、ここの醍醐味です。

入荷状況によって変動があるものの、豆は常時5種類以上。メニューにはそれらの豆を使ったラテやカプチーノ、モカなどもありますが、ここでは淹れ方や豆の違いをより楽しむために、ミルクや砂糖を加えずそのままで飲むのがお薦めです。

バリスタやロースターが活躍する、“コーヒーのための劇場”。

「コーヒー・エクスペリエンス・バー」にたつバリスタのショーン・スムートさん。
サイフォンをはじめ、さまざまな方法で淹れたコーヒーの違いを楽しめる。
そこから店の奥へ向かって階段を10段ほど降りたところにあるのは、もうひとつの小さなカウンター「コーヒー・エクスペリエンス・バー」。より深くコーヒーを理解したいお客さんのために、ここではバリスタが豆の産地や淹れ方などを詳しく解説してくれます。世界の各店舗で提供されている限定の豆も、ほとんど試すことができます。

「この店ではコーヒーを焙煎の段階から見ることができますが、ここではその次のステップである淹れ方をじっくりお見せします。さまざまな産地の豆を、エスプレッソやサイフォン、ペーパードリップなどでどう味わいが変わるのか。このカウンターで試してみてください」ショーン・スムートさん(上写真手前)をはじめスタバの中でも選りすぐりのバリスタたちが、このカウンターで丁寧に教えてくれます。

その隣にある図書室には、コーヒーに関する文献や資料が並べられ、10人ほどが座れるテーブルもあります。予約すれば会議室としても使用可能。オフィスも多い地域だけあって、上質なコーヒーを味わいながら会議ができる部屋として人気を博しているようです。
店舗のコンセプトデザインを担当したアンドレ・キムさん。
豆のラインアップを示す、ターミナル駅のサインのような掲示板。コーヒーを旅するように楽しんでもらいたいというコンセプト。
上は、店舗のコンセプトデザインを担当したアンドレ・キムさん。シアトル出身の彼にとって、故郷でこうした大きなプロジェクトに参加できたことは実に感慨深いものだったと話します。「2013年の12月にシアトルに戻ってきてこのプロジェクトに没頭しました。街の景観を守るため、元々ある古い建物を改築してつくるのが、今回の大きな課題のひとつでした。外観もそうですが、内部の床や天井もほぼオリジナルのまま。カウンターなどの什器も、改築の際に出た廃材を使ってつくっています」

店舗をデザインするうえで、一番のポイントはどこだったのでしょうか。「コーヒーの劇場のような店にすることです。店に一歩入ったとたん焙煎のシーンを見てもらい、コーヒーが提供される前の段階から楽しんでもらえるよう、なるべく仕切りをなくし見渡せるような設計にしました」

ラテアートの模様をイメージしたというパイプの曲線や、豆のラインアップを示す、ターミナル駅のサインのような掲示板など、細部にも遊び心がちりばめられています。
まさに焙煎中のリザーブ豆。
「マスターロースター」を務めるマーク・ワンレスさん。
焙煎機について説明してくれたのは、ここで「マスターロースター」を務めるマーク・ワンレスさん。「この焙煎工場には、大小ふたつの焙煎機があります。メインカウンターに近い小さな焙煎機では、この店で提供するための豆を焙煎しています。もうひとつの大きな焙煎機では、世界中に供給するためのリザーブ用コーヒー豆を焙煎しています。いまはシアトルのほかの工場でもリザーブ用を焙煎していますが、将来的にはすべてのリザーブ用の豆が、ここで焙煎されることになります」

見世物としてではなく、本当に主要な焙煎工場としてここは稼働しているのです。

ここでしか買えない、充実のお土産。

限定の豆「パンテオン ブレンド」
トートバッグ
Rと☆のマークが型押しされた限定のマグカップ。
スタバではマグカップやタンブラーなどのグッズも人気ですが、ここではそれらも特別仕様。写真左はここだけで購入できる限定の「パンテオン ブレンド」(18ドル)。厳選されたスペシャリティコーヒーを独自にブランドした、この店だけのオリジナルです。右は、お土産としても人気のトートバッグ(19.95ドル)。肉厚なキャンバス地でできたしっかりとしたつくりと白黒のシンプルなデザインは、ファッションアイテムとしても活用できそうです。そのほか、Rと☆のマークが型押しされた限定のマグカップやタンブラーなども充実しています。
焙煎した豆をガス抜きするタンク。高さが9メートルもあり、店の象徴的なオブジェのひとつ。
街の景観に溶け込む、趣ある外観。
約422坪にも及ぶ店舗は、自動車ディーラーのショールームだった1920年築の建物を改築してつくられました。かつての外観を活かしたデザインは街の景観に馴染み、世界で展開するチェーン店の最新店舗とは思えないほど趣がある佇まいです。

一歩店に足を踏み入れたら、胸躍るコーヒーの世界が広がる。そんな店をつくるのが、CEOハワード・シュルツ氏の長年にわたる夢だったといいます。パイクプレースマーケットの小さな1号店誕生から44年。スターバックスの集大成であり未来でもある、夢のような新しいコンセプトストアが、今後どのような展開を見せるのか。2月には、日本でオープンする意向があることも報じられました。サードウェーブが盛り上がる日本でも、ますます目が離せません。(Pen編集部)

スターバックス・リザーブ・ロースタリー・アンド・テイスティングルーム

Starbucks Reserve Roastery & Tasting Room
●1124 PIKE STREET SEATTLE, WA 98101
TEL:206-624-0173
営業時間:7時~23時
roastery.starbucks.com