ラベルに何が起こったのか!? グラフィックで読み解く、「キリンラガービール」革新の歴史とは。

  • 文:小久保敦郎

Share:

1888年の誕生以来、愛され続けてきたビールブランド「キリンラガービール」。味わいはもちろん、ラベルデザインや広告の変遷など、あらゆる世代の人々の思い出に刻まれてきた存在です。その長い歴史をグラフィックでたどりつつ、革新を続けるブランドの魅力に迫ります。

1世紀の時を超えて愛され続ける「キリンラガービール」。見慣れたラベルが、いつもと違う気がするのは……。

豊かなコクと、飲みごたえがあるホップの効いた味わい――。幅広い世代に支持される「キリンラガービール」は、まさに日本の代表的なビール銘柄のひとつです。ブランドが誕生したのは、明治時代のこと。以来125年以上にわたり、時代を超えて愛され続けてきました。また味わいはもちろん、ラベルデザインの変遷や広告展開など、あらゆる世代の人々の思い出に刻まれてきた存在でもあります。お馴染みのラベルは赤を基調とし、黄金色のたてがみをなびかせた聖獣「麒麟」が描かれたもの。だから上の写真を見た時に、「あれっ? いつもと違う!」と思った人も多いのではないでしょうか。いったい、キリンラガービールのラベルに何が起こったのか。その答えを明かす前に、まずは革新を続けるブランドの歴史をグラフィックで振り返ってみましょう。

時代を象徴的に彩った、グラフィックワークの変遷。

1888年に発売された当時のラベル。三菱財閥の番頭と呼ばれた荘田平五郎の発案で「麒麟」を商標にしたという。

「キリンラガービール」(※)が誕生したのは1888年(明治21年)。発売時のラベルがこちらです。文明開化とともに西洋からさまざまなビールが輸入されていましたが、当時のラベルには動物の図柄がよく使われていたそうです。そこで採用されたのが、ラベル中央に描かれた「麒麟」でした。これは東洋に伝わる想像上の動物。慶事の前に現れる霊獣といわれています。ビールを製造したのは、キリンビールの前身であるジャパン・ブルワリー・カンパニー。麦芽やホップなどの原料だけでなく設備もドイツから運び込み、本格的なドイツ流ビールを醸造していました。

※1888年(明治21年)発売当時の商品名は「キリンビール」。発売から100年後の1988年(昭和63年)に「キリンラガービール」に名称変更されました。

1889年にリニューアルされた時のラベル。時を経ても色褪せない完成度の高さをうかがわせる。
1949年に商標が復活した直後のラベル。青一色から多色刷りに戻ったのは、57年のことだった。

発売翌年の89年(明治21年)、ラベルデザインが変更されます。ジャパン・ブルワリー・カンパニーの重役であったトーマス・ブレーク・グラバーが提案したのは、商標である麒麟を大きく描くこと。色も赤を基調とし、現在使われているラベルの原型が生まれました。商標や品質へのこだわりとともに、事業が麒麟麦酒株式会社へ受け継がれたのが1907年(明治40年)。ラベルに書かれた社名も「KIRIN BREWERY」に変わります。長い歴史のなかでは、ラベルの大きな仕様変更を余儀なくされることもありました。それは、太平洋戦争前後の混乱期。配給制度が始まると、ラベルから商標の麒麟が姿を消してしまいます。復活したのは49年(昭和24年)年。ただし青一色で印刷され、大きさもいまよりひと回り小さなものでした。

現在使用されているラベル。麒麟の図柄に隠された「キ・リ・ン」の文字を探すのも楽しい。

それでも過去と現在のラベルを見比べてわかるのは、特別な時期を除き麒麟の商標がしっかりと守り伝えられていること。文字などの細かな変更はありつつも、基本となるデザインは連綿と受け継がれています。時代とともに歩みながら、しなやかに変化する――。それはキリンラガービールがもつ「ぶれない信念がある、大人の味」というイメージにぴったりと重なるかのようです。とはいえ、遊び心を感じさせるユニークな一面も。よく知られているのが、ラベルに潜む隠し文字です。麒麟の図柄に目を凝らすと、「キ・リ・ン」の小さな文字を見つけることができます。確認できるかぎり、初めてお目見えしたのは33年(昭和8年)のラベルにて。理由は定かではないようですが、どこか制作者の遊び心を感じさせるものです。

左:1927年の広告ポスター。昭和初期には毎年新しいポスターを作成していた。右:39年の広告ポスターは海外輸出用に作られたもの。和風デザインを採用した戦前期最後の作品。

ラベルと同様に、広告にもキリンラガービールらしさは顔をのぞかせます。「美人画」と呼ばれるポスターが登場したのは、明治末期頃。戦前まではその手法が、さまざまな広告に取り入れられていきます。キリンラガービールのポスターも、その頃は美人画が主体。いまでこそレトロですが、当時としては最先端のスタイルで宣伝されていました。ユニークなのは、モデルを女性だけに限定しなかったこと。時折、ビジネスマンを主役にしたポスターを出し、注目を集めたといいます。描いたのは、当時の人気画家の多田北烏など。時代の先端をいくアーティストとのコラボレーションが、見る人をワクワクさせたであろうことは想像に難くありません。

伝統と革新を融合させた、かつてないアートコラボ

数量限定で発売された「キリンラガービール アンディ・ウォーホルデザインパッケージ」。©/®/TM The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc.

では冒頭で登場した、斬新な「キリンラガービール」のラベルは何なのか――。ある時代の復刻版でもなく、2016年12月6日(火)に発売されたばかりの新商品なのです。それは、「キリンラガービール アンディ・ウォーホルデザインパッケージ」。ポップアートの旗手として20世紀後半を疾走、いまなお世界的な人気を誇るアンディ・ウォーホルの作品が、同じく時代を超えて支持され続けてきたキリンラガービールとコラボレーションしたものです。従来よりポップな色調にアレンジされたラベル、そして表面にはウォーホルの代表的なアートが描かれている、かつてないデザインパッケージになりました。

1967年にレコードのアルバムジャケットとして制作されたバナナは、ウォーホルの代表作のひとつ。©/®/TM The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc.
作品『フラワーズ』を配したパッケージデザイン。花と対応させたラベルデザインにも遊び心を感じさせる。©/®/TM The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc.

しかもパッケージデザインは1種類ではありません。バリエーションは全8種類。アンディ・ウォーホルの自画像をはじめ、バナナや花など身近なものをモチーフにした著名な作品からセレクトされています。描かれた作品によって、ラベルデザインを変化させているのも見どころのひとつ。たとえば自画像やバナナはラベルがひとつですが、花は4輪あるのでラベルも4つにする、といったぐあいです。ただウォーホル作品をパッケージにあしらうだけでなく、トータルデザインとして遊び心も添えた仕上がりになっています。

6缶入りのパックケースもスペシャル仕様に。どの缶が入っているかは、開けてからのお楽しみ。©/®/TM The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc.

アンディ・ウォーホルといえば、アートに関する常識を疑い、既成概念を根底から覆したアーティスト。一方のキリンラガービールは、時代とともに歩み革新を続けてきた、幅広い世代に支持されるビールブランド。この両者に共通しているのは、ともに信念をもち、我が道を行く姿勢を貫いていること――。“ポップ”なパッケージデザインの中身は、“ホップ”が効いたいつもの味。自分らしく人生を遊ぶ大人たちに、この「キリンラガービール アンディ・ウォーホルデザインパッケージ」は支持されることになりそうです。(小久保敦郎)

キリンビール「キリンラガービール アンディ・ウォーホルデザインパッケージ」
発売地域:全国
発売日:2016年12月6日(火)※数量限定
容量/容器:350mℓ缶(6缶パック)
アルコール分:5%
酒税法上の区分:ビール
オープン価格
※ストップ! 未成年者飲酒・飲酒運転。のんだあとはリサイクル。

●問い合わせ先/キリンビール お客様相談室 TEL:0120-111-560
www.kirin.co.jp