アロマ豊かな「ソーヴィニヨン・ブラン」に出合う、カリフォルニアワインの旅。【前編】

  • 写真・尾鷲陽介
  • 文:鹿取みゆき

Share:

ワイン好きのあいだで着実にファンを増やし続けているカリフォルニア。瑞々しくアロマ豊かな味わいで人気の高い品種「ソーヴィニヨン・ブラン」を追いかけて、注目のワイナリーを訪れました。

いまワインの世界で、生産も消費も飛ぶ鳥落とす勢いなのが、アメリカ。実はフランス、イタリア、スペインの伝統的なワイン産地が生産、消費ともにふるわないなか、アメリカはいずれもが増加傾向にあります。そしてそのアメリカのワイン産業をリードしているのが、カリフォルニアなのです。

カリフォルニアは、アメリカのワイン生産量の実に90%を占めています。しかも飲まれているのは、かつて一世を風靡した手の届かないほど高額なカルトワインだけではありません。もっと普段の生活に密着し、食とペアになって楽しまれる、新しいタイプのカリフォルニアワインなのです。 

カリフォルニアの食のシーンは最近ますますナチュラルに、それでいて洗練されてきています。地元の上質な食材を使いながらも、自由な発想で、世界中の調理法を自在に取り入れて、ノンジャンルの料理を提供する。そうした店では、テーブルにたいていクロスがかかっておらず、店員たちも実にお洒落。そんなクールな店のワインリストは、たいていグラスワインのチョイスも多く、そのリストに必ずといっていいほどオンリストされているのが「ソーヴィニヨン・ブラン」を使ったワインなのです。いまの料理に最もマッチングするのは、ソーヴィニヨン・ブランなのかもしれません。

多様な魅力が語られる、「ソーヴィニヨン・ブラン」とは?

「ソーヴィニヨン・ブラン」は、フランスの銘醸地のボルドー地方で知られる、カベルネ・ソーヴィニヨンの親にあたります。カベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランをかけ合わせたその子どもがカベルネ・ソーヴィニヨンなのです。注意深く嗅いでみると、カベルネ・ソーヴィニヨンにも、ソーヴィニヨン・ブランにも、共通の青っぽさがあることに気づくでしょう。

10年ほど前まで、日本ではあまり知られていなかったソーヴィニヨン・ブランという品種名も、ここにきてずいぶんと市民権を得てきたようです。実はカリフォルニアにおいても、ワインラベルにこの品種名が記されたワインが広まりだしてまだ数十年たらず。それどころか、ソーヴィニヨン・ブランではなく、「フュメ・ブラン」という名前で売られたワインもずいぶんとあります。1968年、ロバート・モンダヴィというワイナリーが、アメリカでまったく馴染みのない、読みにくい品種名で売るよりも、この品種のフランスワインに使われていた「フュメ」(香りという意味)というフランス語を売りにしたほうが、飲み手に受け入れやすいと思ったからです。

ひと言でソーヴィニヨン・ブランといっても、カリフォルニアのソーヴィニヨン・ブランは実に多様。フレッシュで爽快なスタイルもあれば、たっぷりとして果実味とエレガンスが楽しめるスタイルも。また、もっとエキゾティックな香りのするクローンを使ったスタイルも見つけられます。さらには少しだけセミヨンという品種とブレンドしたスタイルがこれに加わリます。つまり、合わせる食事のバリエーションも豊富になるということ。そんなバリエーションに富むソーヴィニヨン・ブランのワインを探しに、カリフォルニアのワイナリーを訪ねてみましょう。


“源流”をいまも守るワイナリー、「ウェンテ・ヴィンヤード」。

カリフォルニアにおけるソーヴィニヨン・ブランの源流である畑を所有する「ウェンテ・ヴィンヤード」。

まずはカリフォルニアにおけるソーヴィニヨン・ブランの源流をたどってみましょう。
初めてこの品種が植えられたのは、サンフランシスコ湾の東側にあるリヴァモア・バレーにおいて。1870年代、フランスからの移民だったルイ・メルは、フランスの偉大なワインに匹敵するワインを造ろうと畑を拓きました。その際、超高級な甘口ワインで知られるボルドー地方の「シャトー・ディケム」のオーナーからソーヴィニヨン・ブランとセミヨンの2つの品種の苗木を譲り受け、それをカリフォルニアに持って帰り植え付けたのです。その畑を「ウェンテ・ヴィンヤード」が1930年代に買い取り、いまに至ります。

自社畑、ルイ・メル畑産のソーヴィニヨン・ブランで造られたウェンテのワイン。同じ畑でも、収穫した年の気候の影響を受けて味わいは微妙に異なります。フレーバーを失わないように、夜明け前に収穫を始めているそう。わずか19ヘクタールだった畑も現在は1000ヘクタールを超えています。
5代目になるカール・D・ウェンテ。栽培醸造責任者として、先祖が守ってきたこのソーヴィニヨン・ブランを育てて、ワインを造っています。UCバークレー、デーヴィスで学んだキレ者。

このウェンテ・ヴィンヤードは、禁酒法時代にもワインを造り続けることのできた家族経営のワイナリーで、禁酒法解禁後には大切に育てていた苗を周囲のワイナリーに配っています。そしていま、5代目のカール・D・ウェンテが目指すワインはボルドータイプだそう。麦わら色に輝くワインは、黄桃やネクタリンやメロンの香りに、わずかにライムの香りが溶け合います。暖かい年にはトロピカルフルーツや花のようなニュアンスが強くなり、涼しい年にはライムや青草に風味が宿るのです。

ソーヴィニヨン・ブランを広めた「ドライクリーク・ヴィンヤード」。

ソノマ郡の北部に位置するドライクリーク。「ドライクリーク・ヴィンヤード」のワイナリー設立後、ワイナリーの数は増え続け、現在その数は60軒を超え、ブドウ栽培農家の数も150軒を超えたといいます。

ソノマは、カリフォルニアで初めてソーヴィニヨン・ブランの苗が植えられたサンフランシスコ・ベイからさらに北上したところにあるワイン産地。そのなかのさらに小さな産地が、ドライクリーク地区です。ここに初めてソーヴィニヨン・ブランが植えられたのは1972年のこと。産地名と同じ、「ドライクリーク・ヴィンヤード」という名のワイナリーが栽培を始めました。

ここは禁酒法解禁以降、設立されたワイナリー1号で、家族経営のワイナリー。創業者であるデイヴィッド・S・スタールは、ドライクリーク地区のワイン産業発展の立役者。彼は、自身の憧れであるフランスのロワール地方のようなワイン産地を目指して、ソーヴィニヨン・ブランを植えました。

現在ワイナリーでは、4つのタイプのソーヴィニヨン・ブランのワインが楽しめます。まるでロワール地方のようにフレッシュな青葉の香りやレモンの香りが主体の「フュメ・ブラン」から、白トリュフを思わせる芳香が漂いとろりとした「タイラーズヴィンヤード ソーヴィニヨン・ブラン ムスケ」など、クローン違い、畑違いでこれほどまでにスタイルが変わるのかと驚きを禁じ得ないでしょう。

ワイナリーでは、かつて初めてソーヴィニヨン・ブランを植えた畑、DCV3(ドライクリークヴィンヤード3)でいまも引き続き、この品種の栽培を続けています。写真は通常のソーヴィニヨン・ブランのクローン1に加えて、ムスケ、そして突然変異のソーヴィニヨン・グリ(わずかに灰色とピンクを帯びる)。
当初、ブドウ栽培の専門家らはみな口を揃えて、ソーヴィニヨン・ブランを植えることに反対したそうです。かわりにリースリングとガメイを勧める専門家もいたようですがいまやソーヴィニヨン・ブランは、ドライクリーク地区で最も栽培面積の多い品種となりました。ブドウの列の端のポールには、クローン名が記されています。
ドライクリーク・ヴィンヤードの「フュメ・ブラン」(左)はレモンや青草の香りが特徴的で果実味がストレートに楽しめます。一方、「ソーヴィニヨン・ブラン」(右)はやや粘性もあってトロピカルフルーツや桃、そしてわずかにスイカズラの花のような香り。瑞々しい果実味でこちらは牡蠣とも相性がよさそう。




ソーヴィニヨン・ブランの価値を高め続ける「ダックホーン」。

ブドウ園に取り囲まれた美しいワイナリー。テラスに出て、畑を眺めながらテイスティングする訪問客も多い。

カリフォルニアで最も有名なワイン産地、ナパバレー。そのほぼ真ん中に位置している「ダックホーン」は1976年に設立されました。いまでは、ナパバレー産のメルロのプレミアムワインで知られていますが、実はここのソーヴィニヨン・ブランのワインが高く評価されるようになったのには、このワイナリーのワインが大きく貢献しているのです。

ダックホーンでは、ナパバレーの両岸の扇状地や北東のハウエルマウンテンの丘陵地帯、さらにソノマやメンドシーノに至るまで、8カ所に自社農園をもっています。ソーヴィニヨン・ブランは、ワイナリーの目の前の、マーリーズ・ヴィンヤードで栽培されています。ここはワイナリーが初めて取得したブドウ畑で、ワイナリーにとって、いわばホームヴィンヤード。ある程度肥沃さはありますが、水はけが抜群なため、ソーヴィニヨン・ブランの栽培に適しているのです。おそらく開園の3年後の79年には栽培が始まっていたと伝わっています。

ワインは、ボルドースタイルを目指しており、セミヨンが約20%ブレンドされています。香りはパッションフルーツ、パパイヤ、ショウガの香りの奥からレモンのような香りも立ち上ってきて実に複雑。加えてまた樽で寝かせたワインも1割ほどブレンドされているため、クリーミーな質感も味わえます。ほかにもここの畑の名前を冠したプレミアムクラスのソーヴィニヨン・ブランもあります。

ダックホーンは、関連会社のワイナリーが5軒あり、そのうちの一軒、デコイで、お手頃価格のソーヴィニヨン・ブランも造っています(写真左)。ソーヴィニヨン・ブランでもプレミアムクラスからデイリークラスまで揃う。
ワインメーカーのルネ・アリ。2014年からワイナリーのチーフ・ワインメーカーに。彼女がそれぞれの畑の土壌、気候を考慮しながら、どの畑になにを植えるのか、注意深く選び直しました。畑の特徴を最大限に活かすために畑の中も細かくブロックに分けて、収穫して別々に仕込むことも。

探し抜いた畑で、納得いくものだけを造る「ピーター・フラヌス」。

ピーター・フラヌスは、1971年UCバークレー卒業。ジャーナリズムを学んだあと、ワイン業界に。各ワイナリーでの修業を経て、独立。ワインの味わいにはバランスが大切だといいます。

近年、シャルドネにはまだ及ばないものの、ソーヴィニヨンの人気は着々と上昇中。またソーヴィニヨン・ブランのワインを造るとしても、自分が飲みたいと思うワインだけに絞り込んで造ろうとする生産者も登場しています。あえて生産量を増やさず、限定生産でとことん納得のいくものを造る。ただし、良質な畑を探しだすことには妥協を許さない。ピーター・フラヌスが、まさにそうです。

ソーヴィニヨン・ブランは彼が2番目に手がけた品種。彼も、ドライクリーク・ヴィンヤードのようにロワールタイプのワインを目指しました。そのために彼は、クローンと土地を選び抜きます。クローンはややエキゾティックな香りがするムスケタイプに、土地は、ナパバレーでも風が吹く日が多く、冷涼なカーネロス地区にしました。さらにこの土地がきわめて痩せているため、樹が伸びようとする勢いは抑えられます。

彼自身は、青っぽい香りは好みません。しっかりと完熟させたことで出てくる、メロンやピーチの風味を大切にしているのです。一部、古樽で熟成させたキュヴェをブレンドしており、口中での充実感も十分。ちなみに彼のソーヴィニヨン・ブランはサンフランシスコのレストランでも高い人気となっています。

低温で発酵させることで、香り高く仕上げるようにしています。シーフードや貝類を使ったお料理との相性がよいそう。

樽発酵でクリーミーなワインを造る「フェラーリ・カラーノ」。

すみずみまで手入れが行き届いた美しい庭に囲まれた「ヴィラ・フィオーレ」。この建物の中にテイスティングルームがあります。その向こうには美しいブドウ畑が広がっています。
ソーヴィニヨン・ブランのワインにあまり強い樽の香りがつきすぎないように、古い樽で寝かせることもあるのです。

「フュメ・ブラン」は、フェラーリ・カラーノにとって、大規模な建築工事をして、豪華なワイナリーが完成し、このワイナリー名でワインを世に出す、記念すべき門出のワインでした。1987年が待望の初リリース(ワインは1986年物)。法律家で、さらにネバダ州のホテルとカジノで財を築いたカラーノ夫妻は、ワイナリーがあるドライクリークから始まって、ほかの地区にも次々と畑を獲得、12ヘクタールだった自社畑がいまでは769ヘクタールにも拡大しました。

そしてこのフュメ・ブランもいまでは3カ所の畑のブドウがブレンドされるようになりました。樽の風味はほとんど感じられず、酸が下支えするフルーツがストレートに楽しめるワインです。

一方、「ソーヴィニヨン・ブラン」。こちらはひとつの畑で収穫されたブドウを、すべて樽の中で発酵して造られたワインです。はじめに感じられるのは樽の甘い香り。しかしそれ以外にも、ネクタリン、白桃、ジャスミンティー、そしてほんのすこしエルダーフラワーの香りも。豊かな酸がクリーミーな質感を彩る飲みごたえが印象的です。

フェラーリ・カラーノの「フュメ・ブラン」(左)はライムやレモンの香りが特徴的。わずかに青草の香りも。厚みがあるが酸があるので、切れ味もいい。「ソーヴィニヨン・ブラン」(右)は樽の甘い風味が豊かですが、それに負けない果実味があります。

冒頭でも説明したように、1970年から80年代前半にかけては、「ソーヴィニヨン・ブラン」とはワイン名で名乗らず、「フュメ・ブラン」と名乗ったワインが多かったようです。そして現在、「フュメ・ブラン」と「ソーヴィニヨン・ブラン」の両方のアイテムをリリースしているワイナリーでは、前者はより軽めでフレッシュかつ爽快な仕上がり、後者はときに樽で熟成させたことにより、厚みや粘性を感じさせる仕上がりのワインに使っています。このフェラーリ・カラーノ然り、ドライクリーク・ヴィンヤード然りです。ワインの味わいを予想する際に、ひとつの目安になりそうですね。(後編へ続く)


※アロマ豊かな「ソーヴィニヨン・ブラン」に出合う、カリフォルニアワインの旅。【後編】は、4月11日(火)公開予定です。

カリフォルニア バイザグラス プロモーション
California by the Glass Promotion

「バイザグラス」とは、ボトルではなく、グラスでワインをオーダーすること。一度の食事で複数のワインを楽しむことが一般的なカリフォルニアでは、多くのレストランで10種類以上のワインが「バイザグラス」で提供されています。もちろんワインもカジュアルなものからボトルでは気後れするプレミアムなものまで多彩に揃えられています。個性豊かなワインをグラスで気軽にオーダーできることで、より自由に、そして奥深くワインを楽しめるのです。

そして、毎年4月から5月にかけて、関東・関西地区のレストランが多数参加して、この「バイザグラス」を楽しめるのが「カリフォルニアワイン バイザグラス プロモーション」です。1995年にスタートし、今年で23年目を迎え、毎年春の恒例として多くのワイン好きが楽しんでいます。ぜひ、あなたも楽しんでみてください。


バイザグラスキャンペーンサイトはこちらから