すべてが英国・ノーザンプトン製の正統靴専門店、「ロイドフットウェア銀座」

  • 写真:江森康之
  • 文:小暮昌弘

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デスティネーション ショップ14:たたずまいは、完全に英国の靴専門店。1980年代に青山で産声をあげ、91年に銀座で店を構えた「ロイドフットウェア銀座」には、紳士垂涎の名靴がいつでも揃っています。

ハイブランドの旗艦店やセレクトショップが立ち並ぶ東京・銀座に、91年のオープン以来、英国靴だけを販売する専門店があります。「ロイドフットウェア銀座」です。しかも扱う靴はすべて紳士靴の産地として世界的にも知られる英国・中東部の町、ノーザンプトン(ノーサンプトンと発音することもあります)でつくられているというから驚きます。

ショップのスタッフは勤続15年以上のベテランばかりで、「ロイドフットウェア」の靴に惚れてこの店の扉を叩いた人ばかり。英国靴、そして英国流のスタイリングを熟知する人たちです。デスティネーション ショップの第14回は、日本では唯一無二の存在、オリジナルの靴すべてを英国のノーザンプトンに注文してつくる、老舗の1軒を紹介します。

銀座4丁目交差点からわずか数分、英国の香りが漂う。

ガラスケースに靴をきれいに収めているのも、日本ではめずらしいディスプレイ方法といえます。

「ロイドフットウェア銀座」がオープンしたのは、1991年のことです。その前身となるショップは「ジャンクシティ」(72年)と「ロイドクロージング」(77年)で、いずれも東京・代官山にあったフランク・ロイド・ライト設計による同潤会アパートに構え、それぞれ英国の骨董品と服飾品を扱っていました。扱うアイテムの中でも靴が増えたことがきっかけで、専門店として「ロイドフットウェア青山」を開いたのが、83年のこと。銀座には91年11月にショップを構えましたが、代官山や青山にあったショップは、都市開発などで移転などを余儀なくされ、「ロイドフットウェア」の靴を扱う店はここ銀座店だけになりました。

青山店に27年、銀座店に来て1年になる店長の浦上さん。インタビューしている間も、購入していただいた靴をお客様に送るために、ピカピカに磨き上げます。
豊富なバリエーションをもつ「ロイドフットウェア」の靴のなかでも、最上級に位置する「マスターロイド」。まさに一生モノの正統派です。

いずれのショップもオーナーだった豊田茂雄さんの趣味が嵩じて開いたものです。

「英国でいい靴がつくれるのはノーザンプトンしかないといわれ、オリジナルの靴をつくってもらうことになったのです。靴が好きなもので発注しすぎてしまい、洋服屋のレベルでは売り切れないと、靴屋もやることにしたのです」と店長の浦上和博さんは笑います。ショップ名には、「ロイド」という名前が英国でいちばんポピュラーなので、それをとって店の名にしました。初めからオリジナルの靴を英国、それもノーザンプトンに発注したことにも驚きますが、実はノーザンプトンでもどこの工場に発注しているか、「ロイドフットウェア銀座」が語ることはありません。普通ならば、「どこそこのブランドの靴と同じ工場でつくっています」ということがセールストークになるはずなのですが……。

英国靴の故郷と呼ばれる産地、ノーザンプトンで製作されたオリジナルシューズ。インポートの靴を置く店は多いですが、ノーザンプトン製に限定しているショップは世界的にもまれです。

「いやいや、いくつかの工場に発注していますしね、それに『ロイドフットウェア』という名前できちんと販売したいから、あえて言わないのです」と店長の浦上さんは話します。

浦上さんによれば、「ロイドフットウェア」の英国靴のよさは、グッドイヤーウェルト製法によって長く履き続けることができることと、商品に見合った価格設定にあります。最近、英国靴は年々価格が上がっていますが、それに比べると「ロイドフットウェア」の靴はコストパフォーマンスに優れているともいえます。さらに「ロイドフットウェア」の靴は、日本人の足型に合ったオリジナルシューズをつくるため、英国でもトップクラスの靴職人とともに、木型づくり、素材の選択、縫製など何度も試作を重ねて完成した、ここでしか並んでいない英国靴。木型をいたずらに変えてしまうこともありません。

何年経っても、同じ店で同じ靴が買えるということ。

スエードのセミブローグシューズ。スーツに合わせる靴としては、「英国ではストレートチップよりもこのモデルのほうが一般的」とのこと。

「我々の靴のよさは変わらないところかな。希望は、何年経っても同じ服が買えること。でも洋服ではそれがなかなかできない。でも靴ならばまだできるんです。日本製では難しいかもしれませんが、英国ではそれが当たり前のことなんです」。

以前は代官山店で働き、今年で勤続40年を迎えるスタッフの松下泰憲さんは英国靴の素晴らしさを語ります。それだけが理由ではないでしょうが、長い付き合いをしている顧客がたくさんいます。松下さんは「学生の頃、最初にいらしていただいて、いまはお子さんの靴を求めて来店される。そういう方も多いですよ」と話す。カルテのように購入履歴が書かれた顧客リストも膨大な数に。初めて訪れたお客様が同時に何足も買われるケースもあります。

勤続40年を迎えるスタッフの松下泰憲さん。代官山のショップにも在籍していました。
靴のフィッティングをするスタッフの間中さん。彼も13年、勤務しています。「こんな店はなかった」と憧れてこのショップに入りました。

「我々の場合は、靴を販売して、そこから始まるんですよ。売りっぱなしではダメですね」と話す松下さん。英国靴のよさは流行などに関係なく履ける“安心”と使い込んでいくと履き心地がだんだんよくなることです。

「最初は少しつらいのですが、後からよくなります。グッドイヤー製法の靴の特徴ですが、この気分を一度味わうと、ほかの靴は履けなくなりますよ」と松下さん。自分の足型に合わせて沈み込んだ靴底は、自分の分身のようなものです。

「初めて革靴を履かれる方にウォーミングアップの期間をお薦めしています。いちばんいいのは、まず室内で履くことです。勤めている方ならば、通勤には履き慣れた靴で、新しい靴はオフィスで履く。繰り返していくと自然に朝から夜まで履けるようになります。突然履きやすくなってそれが持続するのが、グッドイヤー製法の靴の特徴です」と松下さん。

靴だけでなく、シューキーパーなども英国からの輸入品です。英国製のカフリンクスなどのアクセサリー類も並んでいます。
オリジナルでつくってもらったアーガイルのソックス(¥2,808)も英国製です。ビジネス用には無地のウールのソックスやホーズなども用意されています。

「ロイドフットウェア銀座」では、訪れた人は椅子に座り、斜めになった台の上に足を乗せ、時間をかけてフィッティングを行います。同じように見える靴でも、素材の違い、底が革製かラバーかで随分と違うものです。その違いを時間をかけてお客様に体験してもらい、納得づくで購入してもらうのです。これも、英国流です。

「革靴で履くソックスは一定にしたほうがいいですね。コットンと化繊が強いものは汗が残り中で足が動かないので、新品時のウォーミングアップには向きません。だからウールのソックスのほうが革靴には向いています。なのでロイドではそれを置いています」

靴そのものにこだわり、詳しいばかりでなく、靴との付き合い方、メンテナンス、ソックスのことまで熟知し、いつ訪ねても同じ商品が並んでいる。英国的な矜持が商品にも販売方法にも感じられます。

英国靴好きをも唸らせる、魅力的なバリエーション

レザーソールの「M」シリーズ。ストレートチップやウィングチップなど、正統派の靴が揃います。各¥45,360

「いい素材を使うとどうしても高くなってしまいます。表革だけでなく、中底の革、糸まで違ってしまいますから。でもいい革を使えば、やはり加工しやすい。切ったり、革を梳いたりしやすいから、つくりそのものも細かくできる。だからといって行き過ぎると使いづらくなってしまうものです。なのでロイドでは『マスターロイド』をトップに決めているんです」と店長の浦上さん。

「ロイドフットウェア銀座」に並ぶのは、「ダイナイトソール」を使ったモデル(¥33,480)、Mシリーズと呼ばれるモデル(¥45,360)、ハイグレードシリーズ(¥56,160と¥62,460)、そして「マスターロイド」という最上級に位置するモデル(¥75,600)です。

最近入荷した「V」シリーズ。スエードのドレスタッセル(¥34,560)と編み上げタイプのブーツ(¥42,120)。カジュアルにも履けます。
「V」シリーズの2点は、どちらも「ダイナイト」製のソールが。ソールそのものも英国でつくられています。最近はラバーソールを求めるお客さまが多いそうです。

モデルの違いは、素材と職人のレベルの違いです。最上級の「マスターロイド」は英国で「マスター」の称号をもつ職人が製作しています。

「よいものをつくっている職人は安価な靴もつくれますが、安価な靴ばかりつくっている職人は、よい靴はつくれないものなのです」

そう松下さんは断言します。そして「見た目は同じでもそれぞれ履いた感覚は違うものです。足がそれをいちばん理解しているはずです」とも話します。もちろん「ロイドフットウェア」の靴は、履き心地がほかのブランドとは違います。足を入れるだけで「これはやっぱりロイドだなぁ」と話すお客さまも多いと聞きます。それが英国靴の木型の特徴であり、「ロイドフットウェア」の靴の特徴でもあるわけです。

セメント製法でつくられた「C」シリーズは最新作。ノーザンプトンで製作されています。各¥25,920

昔、「ロイドフットウェア」では英国の「ドクターマーチン」のエアソールを使った廉価版のモデルがあり、人気を集めていましたが、それをイメージしてこの春からリリースしたのが、セメント製法でつくられた「C」シリーズです。これもノーザンプトン製。2万円台で購入できます。「今後はエントリーモデルとしてバリエーションも増やしていく予定」と店長の浦上さんは話します。

「靴の修理に古いモデルをよくお持ちいただきますが、まったく古びて見えない。最近販売したモデルと変わらない。それが英国靴の神髄なのです」。浦上さんと松下さんは断言します。たぶん10年後、20年後もこのショップには同じモデルが並んでいるに違いありません。「銀座3-3-8」という住所は、英国靴好きならずとも、紳士にとって覚えておくべきアドレスなのです。

これも「C」シリーズ。スエード素材のチャッカーブーツ(¥25,920)と、夏に最適なグルカサンダル(¥25,920)。クレープソールでクッション性もあり、履きやすい一足です。

ロイドフットウェア銀座
住所:東京都中央区銀座3-3-8
TEL:03-3561-8047
営業時間:12時〜22時
無休