目ざとい外国人も通う、秘密基地のようなショップ。

  • 写真:江森康之
  • 文:小暮昌弘

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デスティネーション ショップ07:住宅地に立つ店で、ユニークな世界を表現する「Duffle with KAPITAL」。

以前はガレージだった場所が、「Duffle with KAPITAL」の入り口です。デニムをパッチワークしたソファやスマイルマークを模した金属のオブジェがお客様を出迎えてくれます。

東京・恵比寿の住宅地に、世界的にも知られるカジュアルブランド「KAPITAL(キャピタル)」のショップがあります。それも徒歩5分圏内に3店もが。いずれもキャラクター性あふれる店ですが、今回取材したのは、3店のなかでもいちばん個性が際立つ、「Duffle with KAPITAL(ダッフル ウィズ キャピタル)」です。

入り口で靴を脱ぎ階段を上り、家の中に入るという、まるで秘密基地のようなショップです。異国情緒漂うディスプレイと品揃えが特徴で、畳敷きのフロアとあいまって、居心地のよい空間と時間が感じられます。デスティネーション ショップの第7回は、ワンダーランドに舞い込んだような感覚で楽しくショッピングができる、異色のカジュアル店を紹介します。

ショップには靴を脱いで、行儀よく入るべし。

木製の床板とエスニックな絨毯が敷かれた入り口付近。ここで靴を脱いで、階段を上って店内に入っていく仕組みです。
「靴袋に入れてお入りください」との表示が。階段横の入れ物に靴を入れるビニール袋があって、店内に入ると靴を預かってくれます。

「恵比寿店」「LEGS店」に続いて「Duffle with KAPITAL」がオープンしたのは、2004年のことです。「恵比寿店」はワーク、ミリタリーを基本にした「KAPITAL」のオーセンティックなアイテムや新作が常に揃うショップです。一方、「LEGS店」はデニムの専門店。そして「Duffle with KAPITAL」は、彼らが「アーカイブストア」と呼ぶショップで、新作もありますが古い商品から一点ものまで広く扱い、「KAPITAL」の個性あふれる世界観が存分に表現されたショップといえます。店名の「Duffle」は「ダッフルバッグ」の形状からイメージされるように、いろいろなものを詰め込みたいという思いから命名されたそうです。

「海外からのお客様もたくさん来てくださいます。私たちのものづくりは、西洋と東京の融合にあります。EAST MEETS WEST、和洋折衷。いわば日本のいい部分と異文化のいい文化をミックスしているのです。結果、こういう世界観になっていますが、海外の人はすぐに受け入れてくれている気がします」

こう語るのは、プレスを担当する山本謙次さん。実は私も「KAPITAL」の名前を初めて耳にしたのは、外国のファッション関係者の方からでした。訪れる外国人は、いわゆるファッショニスタ=ファッション通や業界人の方が多いと山本さんは語ります。

「KAPITAL」創業の地はジャパン・デニムの故郷ともいうべき岡山の児島です。縫製工場を構え、当初は有名ブランドのジーンズを生産していましたが、自分たちのつくりたいものを表現したいと、1996年に自社ブランド「KAPITAL」を立ち上げて1本のジーンズをつくったのがブランドの始まりです。ちなみにそのジーンズはいまでも生産・販売されているそうです。実は会社の名前は「CAPITAL」。これはデニムが原点ということで命名されたそうですが、初めてのショップを本社とは別の場所に出店する時に、同じ名前だとまぎらわしいと、ブランドやショップ名は「C」を「K」に変えたそうです。

1階の店内。天井から商品が吊るされ、商品の展示の仕方も独特です。左下に見える什器は瀬戸内海で実際に使われていた和船です。
モディリアーニの画集の上には、お刺身の食品サンプルが。「女体盛りをイメージしましたが、外国人にウケるんです」と山本さんは笑いながら話します。
アクセサリーなどにピースマークを使ったものが多いのですが、煙草の「Peace」や「日本国憲法」の本がディスプレイ小物として使われています。

店内に入って驚かされるのは、建物を外から見ただけではとても想像できないような、圧倒的な商品量と独特のディスプレイではないでしょうか。商品を陳列している様子は、中東辺りのマーケットをも連想させます。しかし足元を見ると、床に六角形の畳が敷かれ、木製の和船が什器としても使われて、和風のテイストも垣間見られます。さまざまなテイストがミックスされた服のコンセプトが、店づくりにも投影されているのです。ディスプレイなどに使われる小物もミステリアスなものが多く、どこまでが商品で、どこまでが展示用の小物なのかもわかりません。

「ディスプレイの小物などを私たちはPROPS(プロップス)といっていますが、売り物でないものが加えられることによって、商品の意味合いを表現し、独特の世界をつくり上げているのです。什器もすべてオリジナルでつくっています。瀬戸内海から持ってきた廃材を利用したものも。自分たちのコレクションはゼロからつくっているわけではありません。もともとあったものを変化させ、ミックスさせ、現代風に仕上げていきます。そういう表現をわかりやすくするためにPROPSを使っているのです」

独特の展示方法を語る山本さん。モディリアーニの画集と食品サンプルを一緒に並べたり、ピースマークグッズと煙草の「Peace」をかけ合わせたり、ディスプレイ一つひとつに意味合いと洒落心が感じられます。全国にある「KAPITAL」の店のなかでもこの店がいちばん濃いディスプレイだと山本さんは笑いますが、外国人にとってこの方法は、むしろかなりわかりやすいのではないでしょうか。

“知る人ぞ知る”場所に、あえてショップを構えた。

「Duffle with KAPITAL」のショップスタッフで、プレス業務も担当される山本謙次さん。

一棟まるごと「KAPITAL」と書きましたが、ショップは3フロアの構成です。入り口から入った1階と地下1階のフロアにメンズとレディスのカジュアルウエアや小物が並びます。2階が事務所で、3階が「KAPITAL」以外の商品を扱う、レディスのセレクト形式のショップです。1階と地下1階は同じテイストでつくられていますが、3階は雰囲気がガラリと変わります。地下1階には子どもが遊べるキッズコーナーもあり、恵比寿の3店のなかではお客様の滞在時間がいちばん長いショップと山本さんは話します。

「東京での1号店が恵比寿店でした。最初はもう少し駅の近くにありましたが……。恵比寿でも、明治通りや駒沢通りではなく、知る人ぞ知るという場所に店をつくりたかったんです。私たちのブランドをわかってくれる人のために、共感してくれる人のために。最初は、人を呼ぶのに難儀しました。でもお客さんは少なくとも、口コミで広がっていけばいいとずっと思っていましたから……。恵比寿で3店目のこのショップは私たちの集大成といえますね、やはり」

実は「KAPITAL」のショップは、どれも異なるデザインでつくられています。東京には六本木ヒルズに2つのショップ、白金台にもショップを構えていますが、すべて違います。岡山の児島には、図書館を改造したショップを数年前につくったそうですが、全国の直営店を回って楽しんでもらおうと、ショップカードの色も変えているそうです。どこにも謳われていませんが、全国のショップをコンプリートすると、特別なノベルティがプレゼントされるそうです。ぜひチャレンジしてみてください。

ソフトなデニムを使ったジャケット(¥29,800)と特徴的なポケットデザインをもつ同素材のパンツ(¥15,800)、ストール(¥13,800)。シルエットも独特です。
デニムのエプロン(¥12,800)は、カウボーイが穿くチャップスのように前裾が長くつくられています。だから乗馬用の鞍や鞭と一緒にディスプレイされているのです。
ホワイトデニムのジーンズ(¥58,800)。膝の部分に刺し子のような複雑なステッチを施し、着古して破れたように加工されています。

「KAPITAL」のデザインは、ほかのブランドからよく真似されると聞きます。オリジナリティの高いデザインですし、縫製や加工の仕方も独特だからです。しかし「真似されることは、リードしていることだと思います」と山本さん。1本のジーンズをつくることから始まった「KAPITAL」ですが、いまではデニムウエアを中心に、数多くのアイテムを生み出しています。ニット、靴、アクセサリーなど一部の製品を除いてはすべて自社工場でつくられています。4年前には「洗い」をかける工場も傘下に収め、「KAPITAL」の製品の特徴である洗いや加工まですべて自社で行っているそうです。

「加工や手仕事の技術は自社だから追求できるものだと思います。加工は私たちの強みですが、加工するのにも縫製は大事なんです。加工を意識した縫製の仕方もありますから……。縫製と加工、両方できるというブランドは、世界でもまだまだ少ないのではないでしょうか」

手の込んだアイテムを見ながら、縫製と加工の特徴を語る山本さん。入り口の近くには「刺し子」を使ったアイテムが飾られていましたが、一緒に飾られた古い刺し子との違いがひと目ではわからないほど。手仕事と経年変化の味わいを表現した見事な出来栄えでした。この「味」と「テクニック」は、一朝一夕に真似できるものではないと断言できます。

蚤の市で、宝探しをする感覚で買い物が楽しめる。

1階の天井から吊られた布地に飾られた「KAPITAL」のジーンズ。なかには古着に見えるものもありますが、すべてが新品です。
レジ近くの什器に飾られたバンダナやソックス類。バンダナのなかには春画が描かれたものもあり、外国からのお客様に人気と聞きます。

「KAPITAL」をデザインしているのも、ショップをディレクションしているのも、平田和宏さんです。平田さんは創業者のご子息であり、日本全国の骨董市を回るのをライフワークにしている方だそうで

『KOTTOICHI』(モーグリーン刊)という書籍を執筆するほど日本の骨董市に対してこだわりをもっています。平田さんはほかにも『ELEPHANT BRAND 1〜2』(モーグリーン刊)というバンダナの本も出版されていて、世にまだないものをつくりたい、歴史的に知られていないものを残しておきたい、そんな思いからこれらの本を出版したと山本さんは語ります。
そういった平田さんの思いやこだわりが「KAPITAL」のどの製品にも宿っていることはいうまでもありません。凝ったデザインや縫製に加え、ジーンズでもソックスでも、独特のテイストが薫り、ひと目で「KAPITAL」の製品とわかります。このショップには昔の製品も並んでいますが、それらを見てもまったく古さを感じさせません。これもこのブランド、このショップの大きな強みといえるでしょう。

地下1階へ降りる階段の踊り場に飾られた長いストール類。ウール素材に洗いをかけたもので、モチーフになっているのはバンダナ柄。男性にも女性にも人気のアイテムです。¥13,800〜¥14,800
胸にエレファントが刺繍されたポロシャツ(¥19,800)。厚手の鹿の子素材で、しっかりとした縫製です。
使い込んだように加工されたトートバッグ(¥22,800)と、足袋のように、足首に「こはぜ」を使った和風の靴(¥32,800)です。

ショップを探検するように回ると、ディスプレイのように見えた布地にプライスタグが付いて実際に売られていたり(人気の商品だそうです)、加工された素敵な靴と思った商品がPROPS、つまり売り物ではなかったり。一つひとつ発見しながら、ゆっくりと買い物を楽しむのがこのショップの醍醐味といえます。床が畳敷きなので、座り込んで商品を選んでいるお客様もいるほどです。特に地下1階は、秘密基地のような雰囲気です。壁の富士山が描かれた奥の空間にたどり着くまでは、どこを通るのかわからないほど入り組んでいます。ショップに改装する時に、壁などを取り外し、この不思議な空間をつくり上げたそうです。

自分が欲するものを見付けるのには少々時間がかかるかもしれませんが、見付けた時の喜びはひとしおです。フリーマーケット=蚤の市に出掛けるような気分で宝探しをしてください。

改装前はおそらく社長室だったという場所は、階段状にディスプレイ台がつくられ、カジュアルアイテムが並んでいます。

多くの人気専門店が“入りやすい”場所に店を構え、“わかりやすい”品揃えを目指すなか、「Duffle with KAPITAL」はそれとは異なる、いや正反対のベクトルをもつショップといえます。店の看板さえもわかりやすい場所には掲げていないほどです。そう書くと「一見さん、お断り」のようなショップに聞こえますが、いやいや、接客は抜群で懇切ていねい。その接客の仕方に惚れて六本木ヒルズへの出店を請われたと聞きます。初めて私がこのショップを訪れた時にも、「ほかの2店はどこに?」と尋ねると、表の通りまで出て道順を教えてくれました。つくり手の思いやショップのこだわりをていねいに、そして熱く説明してくれるスタッフの方々の対応は、英国の老舗店や、昔の日本の専門店のようでもあります。(小暮昌弘)

Duffle with KAPITAL

東京都渋谷区恵比寿南2-24-2 ファニービル
TEL:03-5768-1965
営業時間:11時〜20時
https://www.facebook.com/kapital.blue.hands